フィル・パークマガジン 不動産相続の費用と手続きを知りたい!名義変更や売却の留意点まで

不動産相続の費用と手続きを知りたい!名義変更や売却の留意点まで

不動産相続は誰にも発生し得ることです。しかし、不動産相続手続きは複雑であり、費用もかかります。いざ相続が発生した時に慌てないためにも、はじめに全体像を俯瞰しておきましょう。本記事では、不動産相続の手続きの流れとそれぞれのステップでかかる費用、出費を防ぐための対策や、不動産相続でトラブルが発生したときの解決方法などについて解説します。
不動産相続手続きの費用と流れ
親族が亡くなり、不動産を相続することになった場合、相続した不動産の名義を変更する相続登記(名義変更)を行う必要があります。
これまで相続登記は任意でしたが、2024年4月1日より義務化されました。相続(遺言も含む)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料が科される場合があります。
相続が発生したら、速やかに登記手続きを行いましょう。
相続登記は専門的な知識を必要とするため、司法書士など専門家に依頼するのが一般的です。しかし、相続人自身もあらかじめ全体の流れを把握しておいたほうがスムーズです。
次の章で実際の流れを解説します。
- もし、生前贈与に関しての相続を検討の方は下記の記事を参考にしてください。
-
- ・不動産を生前贈与するメリットと注意点|相続税対策を徹底解説
不動産相続登記の流れを知ろう
まずは全体の流れと、それぞれのステップでかかる費用について理解を深めましょう。
具体的なステップは以下のとおりです。
1.相続する不動産を確認
2.遺言または遺産分割協議で引き継ぐ人を決定
3.相続登記に必要な書類を作成
4.管轄の法務局へ申請
1.相続する不動産を確認
相続手続きを始める前に、まずは相続する財産の全容を正確に把握することが重要です。財産には、不動産、預貯金、有価証券などが含まれます。またプラスの財産だけでなく、住宅ローン、家賃、未払いの税金など、マイナスの財産も含まれます。
相続する財産の中に不動産が含まれるかどうかは、固定資産税の課税明細書を確認すればわかります。
相続する不動産が特定できたら、その位置や特性を調査します。土地の場合は、所在地や面積、さらに利用可能な用途などを確認します。建物であればその構造や築年数、現在の状態などを確認します。これらの情報は公図や登記簿謄本を取得することで確認できます。公図は土地の形状や周辺の地理情報を、登記簿謄本は所有権や抵当権などの権利関係を明らかにする公的な書類です。
また、不動産が抵当権などの担保に利用されている場合、権利関係を解消するための手続きも必要です。抵当権が設定されている不動産は、借金の返済が終わるまで売却できません。
2.遺言または遺産分割協議で引き継ぐ人を決定
相続する不動産が明確になったら、相続人を決定します。誰が相続人に該当するか特定するためには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を取り寄せ、親族関係に当たる人物を洗い出す必要があります。相続人が明らかになったら、相続人全員の戸籍謄本や住民票を取得し、被相続人とその続柄を明確にします。
相続人の決定においては、故人が遺言で指定している場合と、相続人同士で遺産分割協議を行う場合があります。
遺言がある場合は、その内容に基づいて遺産の分配が行われますが、遺言がない場合や無効である場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が不動産を相続するかを決定する必要があります。
遺産分割協議は、相続人全員が合意に達することが前提です。不動産の評価額や、相続人それぞれの希望、相続税の負担など多くの要素が関わってくるため、話し合いを円滑に進めるためには中立的な第三者を立てたほうが良い場合もあります。
とくに、不動産の価値が大きい場合や、相続人間で意見が分かれる場合には、感情的な対立を避けるためにも、専門家のアドバイスを仰ぐことが賢明でしょう。
3.相続登記に必要な書類を作成
相続登記を進めるために必要な書類を揃えます。相続登記をすることで、不動産の名義が相続人に変更されます。
相続登記に必要な書類は、遺産分割協議の場合、法定相続分の相続の場合、遺言書がある場合などで異なります。法務局で必要な書類を調べて準備しましょう。たとえば、遺言書がある場合は、その原本を用意し、遺言の内容が適法であることを確認する必要があります。遺言書がない場合は、遺産分割協議書を作成することになりますが、合意に至った遺産分割協議書は公正証書にすることが多く、これにより法的な効力を持たせることができます。
その他にも、戸籍謄本、固定資産税評価証明書や相続関係説明図などが必要な場合があります。
書類作成には細かなルールがあり、間違いがあると受理されないこともあるため、不安な方は専門家に相談するのも一つの手です。
4.管轄の法務局へ申請
最終的なステップとして、管轄の法務局に申請を行います。申請書類に不備があると手続きが遅れることもありますから、細心の注意を払いましょう。
法務局への申請は、直接窓口に足を運ぶか、郵送で行うことができます。窓口であれば、その場で書類の確認を受け、不備があれば指摘を受けることができますが、郵送の場合は書類の不備などによるやり取りに時間がかかることもあります。どちらの方法を選択するにしても、手続きの完了までには数週間が見込まれます。
相続登記の申請には登録免許税が必要であり、不動産の評価額に応じて税額が変わります。税金の支払いは、収入印紙を購入して申請書類に貼付するか、法務局が指定する口座に振り込む形で行います。この費用は、相続人全員で負担することが多いですが、事前に相続人同士で費用分担について話し合っておくことが大切です。
相続税の計算方法を理解する
相続税の計算は、相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた金額に対して行われます。
基礎控除額は、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」と定められており、この額を超える財産に対して相続税が課されることになります。そのため、まずは相続財産をすべて把握し、相続税の評価額を算出しましょう。
相続税は累進課税が適用されるため、相続財産の額に応じて税率が変動します。たとえば、相続財産が3億円までは税率が10%~45%であり、それ以上の場合には最大で55%の税率が適用されることもあります。
また、配偶者控除や小規模宅地の特例など、さまざまな税制上の優遇措置を適用できる場合もあります。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。期限までに専門家と連携して準備を進めることが重要です。万が一、申告が遅れると延滞税が課されることになりますので、納税の準備も含めて早めに行動しましょう。
費用を抑えるためのチェックポイント
相続には諸経費が伴いますが、知識と計画性をもって臨めば、費用を抑える余地は十分にあります。まずは、相続にかかるおもな費用の種類を把握しましょう。
費用を可能な限り削減するためには、以下のポイントをチェックします。
・自分で登記手続きができないかを検討
・司法書士への報酬費用の削減
・軽減措置の利用
・登記費用を他の相続人にも負担してもらえないか検討
自分で登記手続きができないかを検討
不動産相続における登記手続きは、相続人自身が行うことも可能です。
自分で登記手続きを行うメリットとしては、司法書士に支払う報酬費用を節約できる点が挙げられます。しかし、そのためには法律的な知識や手続きの流れを正確に理解している必要があります。万が一手続きに誤りがあった場合、訂正にはさらなる時間と労力がかかることも考えられます。自分で行う場合は、法務局のホームページなどで情報を集め、手続きの流れを把握しましょう。
司法書士への報酬費用の削減
司法書士への報酬費用は意外と大きな出費となることがあります。出費が痛手とならないように、まず司法書士との初回の相談で、どのような業務を依頼するかを明確にしましょう。たとえば、必要書類の収集や申請書の作成を自分で行うことで、司法書士の業務負担を減らし、それに応じた報酬の削減を提案することができるかもしれません。また、相続登記の手続きに慣れた司法書士であれば、一般的なケースの報酬相場を把握しているため、適正価格で依頼できる可能性が高いでしょう。
軽減措置の利用
さまざまな控除や軽減措置を上手く活用することで、相続税の負担を軽減することが可能です。たとえば、基礎控除額を超えない範囲であれば相続税がかからないため、事前に財産評価を行い、相続税が発生するかどうかの見極めが重要です。
また、小規模宅地の特例や配偶者控除など、特定の条件を満たす場合に適用される軽減措置があります。
小規模宅地の特例は、被相続人の居住用不動産や事業用不動産に適用されるもので、相続税の評価額から一定割合を減額できる制度です。この制度を活用すると、実際に支払う相続税が大幅に減少することもあります。配偶者控除は、配偶者が相続する場合に適用される控除で、課税対象となるものの額が法定相続分相当額もしくは1億6千万円までであれば控除が可能です。
登記費用を他の相続人にも負担してもらえないか検討
不動産の相続登記には、法務局への申請費用や司法書士への報酬など、さまざまな費用が発生します。相続人の一人が全額を負担する場合もあれば、相続人全員で分担することもあるでしょう。しかし、費用の負担に関しては相続人間で意見が分かれることが多く、トラブルの原因になることも少なくありません。
それらを避けるためには、まず相続人全員が集まり、誰がどの程度の費用を負担するかを話し合うことが大切です。この際、不動産の価値や相続人の経済状況などを考慮に入れ、公平な割合で分担することが望ましいでしょう。たとえば、相続する不動産が多い人は、それに見合った割合で費用を負担する、といった具体的な基準を設けることができます。
土地の相続にはさまざまな悩みがつきものです。今後、土地を相続する予定がある方は、できるだけ早く準備を始めるのがいいでしょう。土地相続に関するノウハウを集約した土地相続ガイドブックを無料配布中です。相続が発生した時に慌てないために、ぜひダウンロードしてご活用ください。
不動産相続手続きの流れと費用
不動産相続の手続きは、次のようなステップで行います。
STEP1/遺言の有無を確認する
相続が発生したことを知った時点で、遺産分割協議を行い、相続人全員の合意形成を目指します。遺言書がある場合はその内容に沿って進めることになりますが、ない場合は相続人同士で話し合いを進めることになります。
STEP2/遺産分割協議を行い、相続人を確定する(遺言書がない場合)
遺産分割協議では、どの不動産を誰がどのように相続するか、話し合います(対面・電話・メール・手紙などどのような形式でもOK)。協議がまとまったら、その内容を遺産分割協議書にまとめて、相続人全員で署名・捺印をします。
また、相続放棄をする場合は、相続の開始があったことを知ってから3ヶ月以内に相続の放棄の申述をしなければなりません。
<相続発生から3ヶ月以内>
STEP3/相続登記の手続きを行う
不動産を相続人の名義に変えるために所有権移転登記を行います。
所有権移転登記の手続きは、その不動産を管轄している法務局で行います。
※この際、「戸籍謄本」「登記簿謄本」「相続関係説明図」などが必要になります。また「固定資産税評価額証明書」の取得も必要です。
<相続人が決まったらできるだけ早く行う>
STEP4/相続税の申告・納付(基礎控除額を超える場合)
申告書を作成し、それを被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出し、相続税を納付します。
<被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内>
不動産相続に必要な費用
不動産相続には、さまざまな費用がかかります。まず、相続登記に必要な司法書士への報酬があります。これは、不動産の価値や登記の内容によって異なりますが、数万円から数十万円程度が相場です。また、固定資産税評価額証明書や登記簿謄本などの公的書類の取得にも手数料が必要です。
さらに、相続税の申告には税理士に依頼することが一般的であり、その報酬も発生します。相続税自体の金額も、不動産の価値によって大きく変動するため、早期に専門家に相談し、適切な評価額を把握することが重要です。手続きを自分で行う場合でも、時間と労力がかかることを考慮に入れ、必要な費用を見積もることが大切です。
不動産相続登記の流れを知ろう
上記では不動産相続の流れを説明しましたが、前項STEP3の、法務局に申請する「相続登記手続き」について詳しくみていきましょう。
STEP1/相続対象となる不動産の状況を調べる
相続した不動産の登記事項証明書(登記簿)を取得し、現在の所有者や所有権以外の権利(抵当権など)の有無を確認します。
STEP2/不動産の評価(価値)を確認し、相続税額を調べる
次に、相続した土地の不動産評価を調べます。
不動産評価は
・路線価地域か倍率地域かを確認
・評価減できるかを確認
・賃貸されているかを確認
・小規模宅地などの特例を適用できるかを確認
という手順で求めます。
STEP3
相続登記によって生じる税金は、①相続税 ②登録免許税の2つです。事前におおよその税額を確認しておくことが大切です。
① 相続税
次の項で詳しく説明します。
② 登録免許税
登録免許税とは、登記の手続きの際に収める税金です。相続を原因とする所有権移転登記の税率は1000分の4と定められています。
「登録免許税=不動産の固定資産税評価額×税率0.4%」
で税額を求められます。
相続税の計算方法を理解する
不動産を相続する際には、相続税の計算が必要不可欠です。
相続税の税額を求めるには下記のステップで計算します。
STEP1/基礎控除額を算出する
基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
STEP2/各相続人にかかる仮の相続税額を算出する
課税遺産総額×法定相続分 ※1×税率 ※2-控除額 ※3
STEP3/相続税の総額を算出する
各相続人の仮の相続税額×相続人の数
STEP4/各相続人にかかる相続税の総額を算出する
各相続人の実際の相続税額=相続税の総額×(各相続人の取得する遺産の課税価格÷課税遺産総額)
※1 法定相続人の条件によって法定相続分の計算が異なります。おもな例としては以下のような計算方式となります。
相続人 | 法定相続分 | |
子がいる場合 | 配偶者 | 2分の1 |
子 | 2分の1(人数分に分ける) | |
子がいない場合 | 配偶者 | 3分の2 |
父母 | 3分の1 (人数分に分ける) | |
子も父母もいない場合 | 配偶者 | 4分の3 |
兄弟姉妹 | 4分の1(人数分に分ける) |
課税対象となる金額 | 税率 ※2 | 控除額 ※3 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※2 ※3 税率と控除額は速算表を用いると便利です。
相続税の計算には多くの細かなルールがあり、個々のケースによって適用される控除や特例が異なります。専門家からのアドバイスをもらいながら進めることをおすすめします。
費用を抑えるためのチェックポイント
相続手続きは司法書士に依頼するのが一般的ですが、「あまり手続きにお金をかけたくない」「できることは自分でやりたい」「名義を変更するだけだからかんたんでは?」と思う方も多いことでしょう。
結論からすると、不動産の相続手続きは、自分で行うことが可能です。しかし実際のところ、その手続きはとても複雑で、法律や税金、不動産などさまざまな専門知識が必要になってきます。知識がないまま進めると、書類の不備や作り直しなどが発生して時間がかかってしまったり、誤った情報が記載されたまま法的文書として残ってしまったりする可能性もありますので、やはり、司法書士に依頼するほうが安心です。どうしても自分で行いたい場合でも、専門家のアドバイスをもらうに越したことはありません。法務局や自治体の役所、相続登記相談センター、また一部の司法書士事務所や弁護士事務所などには無料相談できる窓口もあります。そういったサービスを上手に利用して、専門家からアドバイスをもらいながら正しい手続きを行うようにしましょう。
注意すべきポイントを押さえる
不動産相続における登記申請は、一度受理された後の変更が非常に困難です。これは、不動産登記が法的な効力を持ち、所有権の移転や権利関係を明確にする重要な手続きであるためです。申請に不備があると、後から訂正するための追加手続きが必要になり、時には訴訟を起こす必要が出てくることもあります。さらに、手続きの遅れは相続税の申告期限にも影響を及ぼす可能性があるため、最初から正確に行うことが求められます。不動産相続における登記申請の重要性を理解し、スムーズな手続きを進めるためには、専門家のアドバイスが不可欠です。適切なアドバイスを受けることで、余計な時間や費用をかけずに、安心して相続登記を完了させることができます。
兄弟で遺産分割する場合に利用できる特例
親の遺産は、原則的には兄弟で均等に分割しなければなりません。しかし、土地を単純に分割することは難しく、しばしば兄弟間で問題を引き起こす原因となります。不動産という資産の性質上、その価値が相続人の財産状況や生活設計に大きな影響を及ぼすからです。たとえば、都心の商業地や歴史的な価値を持つ邸宅など、高価な不動産が遺産として残された場合、相続人間でその利用方法や売却に関する意見が分かれることがしばしばあります。
また、相続人の中に、生前からその不動産の管理を担っていた者や、不動産を活用して事業を行っていた者がいる場合、これらの人々に対する配慮が必要になることがあります。そのため、相続に際しては、単に財産の価値を等分するだけでなく、各相続人の貢献度や事業の継続性なども考慮に入れる必要があります。
兄弟間での遺産分割においては、「小規模宅地等の特例」という税法上の特例を利用することができます。この特例は、相続や贈与によって取得した宅地や事業用地が一定の要件に該当する場合に、その評価額を最大80%まで引き下げることができる制度です。これにより、相続税の負担を軽減し、例えば配偶者が住み慣れた家に住み続けることが可能になるなど、相続人の生活の質を守ることができます。
この特例を適用するためには、全ての相続人が協議を経て合意に至る必要があります。
手続きの流れを理解する
兄弟間で不動産を相続する場合に特例を活用するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。注意しておきたいのは、小規模宅地等の特例を受けられるのは、相続税の申告書を提出した後であるということです。
特例を適用するためには、相続税の申告書にその旨を明記しなければなりません。その際、適用の根拠となる計算の明細書や、遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付する必要があります。
複数の相続人がいる場合にはとくに注意が必要です。相続人が2人以上いる場合には、特例の対象となる宅地などの選択に関して、すべての相続人が同意している必要があります。また、その宅地などが原則として相続税の申告期限までに分割されていることも条件となります。
特例を活用するために知っておくべきこと
たとえば、共有不動産に一人の共有者が住み続けている場合、他の共有者との間で不公平が生じ、兄弟間の軋轢を生む原因となりかねません。
共有者間での協議が困難な場合は、紛争解決のために裁判所へ訴訟を起こし、共有不動産の分割方法を決定します。
共有財産の分割方法には3種類あります。
- 現物分割
- 全面的価格賠償
- 換価分割
まず、「現物分割」とは、文字通り共有不動産そのものを物理的に分ける方法です。不動産が容易に分割可能な場合や、共有者それぞれが異なる部分を使用している場合に適しています。しかし、不動産が一つの建物である場合など、物理的な分割が難しい場合もあります。
次に、「全面的価格賠償」です。これは、共有者の一人が不動産を単独で所有し、その代わりに他の共有者に対してその不動産の価値に見合った賠償金を支払う方法です。この方法は、共有者の中で不動産を維持したいと望む人がいる場合や、他の共有者が金銭的な補償を望む場合に適しています。
最後に「換価分割」があります。これは、共有不動産を市場で売却し、得られた金額を共有持ち分に応じて分割する方法です。この方法は、共有者全員が不動産を手放すことに合意している場合や、他の分割方法が適さない場合に有効です。
兄弟間での不動産の共有は、感情的な問題も含めて非常にデリケートな問題です。したがって、相続時には専門家のアドバイスを仰ぎ、共有不動産の管理や利用に関するルールを明確にすることが重要です。
- その他、税金の目安や控除金額なども知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
-
- ・土地の相続税の計算方法を大解剖!税金の目安や控除金額、売却・生前贈与などの活用法まで
自分でできる不動産の相続手続き
相続手続きは複雑であり、多くの場合、専門家に依頼することが一般的です。とくに、遺言書がない、相続人が多い場合などは手続きが複雑になり、専門知識がないと手に負えなくなってしまいます。
しかし、遺言書が存在し相続人が限られている場合など、内容や状況によっては自分で手続きを進めることも可能です。
以下で詳しく見ていきましょう。
相続手続きを自分でできるケースと難しいケース
相続手続きは、遺産の内容や相続人の関係性によって自分で行うことが可能な場合と、専門家のサポートが必要な場合があります。
- 相続手続きを自分でできるケース
自分で可能なケースとしては、相続人が限られており、遺産分割が円滑に進む見込みがある場合です。とくに、遺言書があり、その内容が明確である場合は、遺言の指示に従って手続きを進めることができます。また、不動産以外の現金や株式などの資産がほとんどで、比較的シンプルな遺産構成の場合も自分での手続きがしやすいでしょう。
- 相続手続きを自分で行うのは難しいケース
一方で、難しいケースは、相続人の間で意見が対立している場合や、不動産の評価が難しい場合、海外資産が絡む場合などが挙げられます。こういったケースでは相続税の計算や遺産分割協議が複雑になりがちです。とくに、不動産の評価には市場価値を正確に把握する必要があるため、専門家に依頼するのが賢明です。
必要な書類や申請方法を把握しよう
相続税の申告には、いくつかの書類の提出を求められます。まず共通の書類として、身元確認書、遺言書、遺産分割協議書のコピーの他に、下記の書類が必要です。
- 「戸籍の謄本」で被相続人のすべての相続人を明らかにするもの
- 図形式の「法定相続情報一覧図の写し」
(子の続柄が、実子または養子のいずれであるかがわかるように記載されたものに限る) - ①または②をコピー機で複写したもの
法定相続情報一覧図とは、相続関係を一覧にしたもので、法務局の登記官が証明したものです。
その他、各種特例や控除を利用する際に追加資料が必要になる場合があります。
また、相続する財産に土地や不動産が含まれている場合は、公図、地積測量図、固定資産税課税明細書などが必要です。すでにお伝えしたとおり、土地や不動産の評価は極めて複雑で専門知識を要しますので、専門家へ相談することをおすすめします。
登記や評価のポイントをチェック
不動産を相続する際には、登記や不動産の評価が重要なポイントとなります。相続不動産の登記には、正確な不動産の評価が不可欠であり、市場価値とは異なる「路線価」や「固定資産税評価額」といった専門的な評価基準が用いられます。
評価額は、相続税の計算の基礎となるため、評価を低く抑えることで税負担を軽減できる可能性があります。しかし、あまりに低い評価額は税務調査の対象となるリスクもあります。さらに、不動産の種類や状態、立地条件などによって評価額は変動するため、専門家に意見を仰ぎましょう。
不動産の登記には、所有権移転登記や抵当権抹消登記などが存在します。それぞれ必要な書類や手続きの流れが異なり、法務局での申請が必要です。後のトラブルを避けるためにも迅速に対応しましょう。
相続人間での不動産分割手続き
相続人全員で不動産の分割について合意に至るのは困難を伴うことも多々あります。
不動産の価値や利用計画の違い、相続人の数が多い場合の意見の対立など、さまざまな要因があります。分割手続きを円滑に進めるためには、まず各相続人の要望を明確にし、可能な限り調整を行うことが大切です。
また、相続人の一人が不動産を取得し、他の相続人に対して代償分割を行う場合もあります。この場合、不動産の価値に見合った金額を算出し、相続人間での合意が必要となります。
不動産の分割に際しては、公平性を保つためにも、専門家の意見を取り入れることが望ましいでしょう。また、合意形成に至らない場合は、家庭裁判所に申立てて調停や審判を求めることも可能です。相続における不動産分割は、相続人同士の関係を左右する重要なプロセスであるため、専門家のアドバイスを受けながら進めましょう。
相続人の合意を得るための会議の進め方
不動産の相続においては、相続人全員の合意形成が非常に重要です。会議は透明性と公平性を保つ必要があります。
まず、会議の日程は全員が参加しやすい日時を選び、事前に通知を行いましょう。会議の場では、最初に司会者を決め、議事の進行役を任せることが大切です。司会者は中立的な立場を保ち、全員の意見を平等に聞くことを心がけます。
議題としては、まず不動産の評価額や税額の算出結果を共有し、その上で分割案を提示します。分割案には、不動産をどのように分けるか、誰がどの部分を引き継ぐかという具体的な内容を含める必要があります。
また、各相続人の意向や事情を尊重しつつ、話し合いを進めることが望ましいです。意見が対立した場合は、中立的な立場の専門家を交えるのも一つの方法です。
最後に、合意した内容を文書にまとめ、署名や捺印を行います。これにより、後のトラブルを防ぐことができます。
分割の具体的な手続きについて
不動産相続における分割手続きは、単に「誰が何を受け取るか」という決定だけでは終わりません。実際には、法的な手続きを進めていく必要があります。
まず、相続人全員の合意が得られた後に不動産の名義変更を行う必要がありますが、これまで繰り返しお伝えしたように、相続登記は司法書士に依頼するのが一般的です。この際、戸籍謄本や相続関係説明図などの必要書類を集め、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、相続人の全員の署名と実印が必要となり、それを公証役場で公正証書にすることも多いです。公正証書にすることで、将来的なトラブルを防ぐ効果があります。また、名義変更の際には、固定資産税評価額に基づく登録免許税が発生しますので、その費用の準備も必要です。
トラブルを避けるための心得と注意点
不動産相続においては、コミュニケーションがトラブルを防ぐ鍵となります。もっとも重要なのは、相続人全員が情報を共有し、透明性を保つことです。遺産分割協議における不明瞭な点や疑問は不信感を生み、結果として対立を引き起こす原因になりかねません。
感情に流されず冷静に対処することも大切です。相続は家族間の絆に影響を及ぼすデリケートな問題であり、感情が高ぶることも少なくありません。しかし、冷静に話し合いを進めることで、互いの理解を深め、納得できる解決策を見つけることができます。
また、法的な知識を有する専門家に相談することも重要です。税理士や弁護士などの専門家は、法律に基づいたアドバイスを提供し、適切な手続きの指南や書類作成をサポートしてくれます。専門家の意見を仰ぐことで、相続人同士の意見の相違を解消しやすくなります。
相続財産の中でもとくに不動産相続は、その評価額や利用方法によって意見が分かれることが多いため、早めの準備と計画が必要です。不動産の適正な評価を行い、将来の利用計画を立てることで、スムーズな遺産分割につながります。
不動産相続を司法書士や税理士に依頼するメリット
不動産相続の手続きは、遺産分割から名義変更、さらには税務申告まで、と非常に複雑です。とくに相続に関わる法律は煩雑で、税法も年々改正されているため、最新の情報を把握していなければ最適な手続きを行うことはできません。
司法書士や税理士といった専門家に相続の手続きを依頼することは、多くのメリットがあります。専門家は最新の法律や税制に精通しており、遺産の正確な評価や適切な申告を行うことができます。また、遺産分割協議書の作成や相続放棄の手続きなど、相続における様々な書類の作成も適切にサポートしてくれます。
専門家へ依頼すると、一見費用がかかるように思えますが、長期的な視点で見ると数多くの利点が存在します。まず、専門家はその道のプロフェッショナルですので、手続きの正確性が高く、迅速に対応してくれることが期待できます。専門家は日々の業務を通して蓄積された知見を有しており、一般の方が独学で行うよりもはるかに効率的です。
さらに、財産を正確に評価することは、税金計算の根幹をなす部分です。専門家は市場価値や特殊な条件を考慮した上で、財産の適正な評価を行うことができます。これにより、税金の過払いや不足を防ぐことが可能となります。
また、税務においては、適正な税額の算定が非常に重要です。適正な税額を算出してもらうことで、税務調査のリスクを抑えることができます。税務調査の対象になると多大な時間と労力が必要となりますが、専門家によって適切な申告がなされれば、その確率も低くなるでしょう。
さらに、節税対策も大きな強みです。たとえば、資産の移転や寄付、退職金の最適な受け取り方、生命保険の活用など、様々な節税手段を講じて節税効果を高めることができます。
提携司法書士や税理士への依頼と対応方法
提携している司法書士、税理士に依頼することで、スムーズかつ正確に手続きを進めることができます。
たとえば、不動産取引における権利関係の確定や移転登記は、司法書士の専門領域に属します。司法書士は、登記簿の調査から契約書の作成、登記申請までを一貫して行います。一方で、税理士は相続が発生した際に遺産の評価や相続税の計算、申告書の作成など、税務に関する専門的なアドバイスとサポートを提供します。
専門サービスを利用する場合は、費用の透明性に気をつけましょう。依頼前には見積もりを依頼し、サービス内容とそれにかかる費用を明確にすることが肝心です。この過程で、依頼者と専門家との間で納得のいくコミュニケーションを図ることができれば、信頼関係を築きながら、必要なサービスを受けることができるでしょう。
相続した不動産の売却や活用方法
不動産を相続した際には、資産を最大限に活用するための戦略を練る必要があります。考えられる選択肢は、「売却」と「土地活用」の2つです。
まずは、相続した不動産を売却し、その売却益をもとに他の投資へと資金を振り分けるか、または必要な費用に充てるという方法です。この場合、市場価値を正確に把握することが重要です。適切な時期に最適な価格で売却するためには、不動産市場の動向を理解し、信頼できる不動産業者を見つける必要があります。
もう一つの選択肢は、相続した不動産を賃貸物件等で活用し、長期的な収益源とする方法です。この場合、物件の価値を維持、あるいは向上させるために、継続的な管理やメンテナンスが必要となります。
また、テナントの募集や契約の更新、家賃の徴収など、不動産の運用には多くの業務が伴います。実際の運用管理は管理会社に委託することを検討しましょう。
不動産の売却の流れを知る
不動産を売却するという決断した場合は、まず不動産の市場価値を把握することが必要です。市場価値を知るためには、複数の不動産会社に査定を依頼し、比較検討しましょう。査定は、物件の立地や築年数、建物の状態、周辺環境などを考慮して行われます。
価格を把握した後は、信頼できる仲介業者を探します。仲介業者は売却活動を代行してくれる重要なパートナーです。良い仲介業者は、物件の魅力を最大限に引き出す広告戦略を立て、内覧時の対応や価格交渉においても売主の利益を最優先に考えてくれます。売買契約の締結に際しては、契約内容のチェックや条件交渉など、専門的な知識と経験が必要になるため、仲介業者のサポートが不可欠です。
不動産売却にあたっては、売却によって得た利益に対して課税される「譲渡所得税」に注意しましょう。税金の計算は複雑であり、適切な申告を行うためには税理士などの専門家に相談することがおすすめです。
収益物件として活用するには
不動産活用は長期にわたり安定した収入を得るための選択肢のひとつですが、成功させるためには、不動産の種類や立地、市場の動向を考慮した上で、適切な戦略を立てる必要があります。
アパートやマンションなどの賃貸経営を考えているなら、賃貸市場での需要を見極めましょう。学生や単身者向けのワンルームに需要がある地域もあれば、ファミリータイプの物件の需要が高いエリアも存在します。また、オフィスビルや店舗といった商業用不動産であれば、企業や店舗経営者にメリットがあるかどうか、市場調査しなければなりません。立地条件や周辺環境、競合物件の状況などを総合的に分析し、ターゲットとするテナント層を明確に定めましょう。
市場調査を実施するにあたっては、専門家に相談するのをおすすめします。立地条件によっては、アパート・マンション経営以外の土地活用にも活路が見出せるかもしれません。フィル・カンパニーでは、所有している土地をしっかり調査し、最適な活用方法をご提案します。
- ▼相続した土地を有効活用したい方はこちら
-
- ・相続税対策のための土地活用|税額を下げて収益性を上げるには?
運用を開始する前に、不動産の状態をチェックし、必要に応じてリフォームや設備の更新を行います。物件の価値を高めることで、入居者やテナントからの信頼を得やすくなります。とくに、築年数が経過した物件では、耐震性や省エネルギー性能などの観点から、最新の基準に合わせた改修が必要になることもあります。
売却や活用のメリット比較
不動産の扱いは、将来の資産運用にかかわってきます。
まず、売却によって得られる一時的な大きな現金収入は、相続税の納税資金として活用できます。これにより、他の資産を手放さずに税金の支払いを済ませることが可能となります。
さらに、不動産市場の状況によっては、不動産の価値が高騰し、売却時には市場価格よりも高値での取引が期待できることもあります。不動産価格が上昇傾向にある時期に売却することで、大きな利益を得ることができるでしょう。しかし、仲介手数料や譲渡所得税などのコストが発生します。
一方、不動産を保有し賃貸経営を行う場合は、継続的な収益を見込めるというメリットがあります。資産形成の一助となることが期待できるでしょう。
しかし、賃貸経営には、入居者の募集や建物の維持管理、時には空室による収入減など、さまざまな課題が伴います。また、賃貸物件のメンテナンスには定期的な投資が必要です。
不動産を売却するか運用するかの選択は、相続人の個々のライフスタイルや資産状況、さらには不動産市場の動向を考慮した上で、慎重に決定しましょう。
専門家のアドバイスを受けつつ、長期的な視点で最適な選択することをおすすめします。
事例で紹介!相続した不動産の活用例
相続によって得た不動産をどのように活用するかは、不動産自体の状態、立地や土地の広さ、形状など、さまざまな要素が絡んできます。
たとえば、相続した都心の一等地に位置するマンションを相続したのであれば、そのまま賃貸として運用することで安定した収入を得ることができるでしょう。一方で、郊外の一軒家を相続した場合には、自分で使用する、売却する、あるいはリノベーションして賃貸に出すなど、さまざまな選択肢があります。
土地のみを相続した場合も、さまざまな活用方法が考えられるでしょう。
ここで大切なのは、不動産の立地や状態、市場価値を把握し、長期的な視点で最適な選択をすることです。いずれの活用方法にしても、専門家のアドバイスを受けて長期的な経営戦略を立てる必要があります。
以下で、売却するケース、収益物件とするケースをそれぞれご紹介します。
ケース1:不動産を売却したケース
相続によって手に入れた不動産を売却する選択をする方は多いです。売却によって得られる資金は、相続人の生活資金として活用したり、新たな投資に充てたりすることができます。
例えば、東京都内で一戸建てを相続したAさんのケースを考えてみましょう。
Aさんは、相続した不動産が自身の住まいから遠く、管理が難しいと判断しました。また、不動産の維持には固定資産税やメンテナンス費用がかかり、放置すればするほど資産価値が下がってしまうリスクも考慮に入れました。
そこで、不動産会社に相談し、市場価値を把握した上で売却を決断。結果的に、高額で売却することができ、その資金を子どもの教育費などに充てることが可能になりました。
不動産売却に際しては、市場の動向や経済状況を細かく分析することが不可欠です。政治的な変動や経済のトレンドなど、さまざまな要因が不動産市場に影響を及ぼします。専門家のアドバイスを受けることで、最適な売却時期の判断や価格設定において、より精度の高い戦略を立てることができるでしょう。
不動産売却プロセスは複雑で労力がかかるものです。知見を持った専門家に一任することで、スムーズかつ効率的に売却をすることが可能になります。
ケース2:相続した不動産を収益物件に
相続はしばしば、思いがけない財産を手にすることもあります。その中でも不動産はとくに価値のある資産といえるでしょう。しかし、どのように活用すれば良いか悩む方も多いです。ここでは、相続した不動産を収益物件として見事に活用した一例をご紹介します。
Bさんは、郊外に位置する一軒家を相続しました。当初は売却も考えたものの、不動産市場の動向を調べた結果、収益物件としてのポテンシャルに気づきます。Bさんは、その家をリノベーションし、賃貸物件として提供することにしました。リノベーションには初期投資が必要でしたが、魅力的な住空間を提供することで、高い入居率と安定した収入を確保することに成功しました。
さらに、Bさんは空き部屋を活用するため、シェアハウスとして運営することを選択しました。共有スペースを設けることで、入居者同士のコミュニケーションの場を提供し、単なる賃貸物件とは一線を画す価値を生み出しました。
このように、不動産を収益物件として活用することで、相続財産が新たな価値を生み、長期的な収益源に変わる可能性があります。
不動産相続には様々な選択肢がありますが、自らのライフスタイルや市場のニーズを見極めることが重要です。売却だけが選択肢ではなく、適切なリノベーションや賃貸運営によって、相続不動産を貴重な資産へと育て上げることもできるのです。
まとめ
不動産売却や収益物件としての活用も選択肢の一つですが、市場価値の把握や税務上の注意点、適切な管理戦略が必要です。
専門家に相談することで、不動産の相続から活用までの一連の流れを効率化し、収益性を高めることが可能になります。
奥津 雅之
あいわ税理士法人 / 税理士
国内の上場企業やそのグループ会社、ベンチャー企業等に対する税務コンサルティング業務に従事。IPO準備企業に対する資本政策の実行支援、上場後のM&Aに伴うデューデリジェンス業務、M&A後のHD化支援業務も複数経験。個人税務関係では、上場会社オーナーなど超富裕層の確定申告業務、税務調査対応、相続対策コンサルティングに注力。
