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2024.06.25

不動産を生前贈与するメリットと注意点|相続税対策を徹底解説

この記事の監修者
奥津 雅之税理士奥津 雅之

生前贈与とは、不動産などの財産を、所有者が生きている間に家族や親族などの相続人に引き継ぐ方法のことをいいます。相続が発生する前に贈与することで、税金面で有利に働くケースが多いため、節税対策の手段として広く活用されています。しかし、効果的に行うには、相続税や贈与税に対する正しい理解が不可欠です。ここでは、生前贈与の基礎知識と具体的な方法をまとめて解説します。

相続税対策としての不動産生前贈与

生前贈与とは、文字通り、財産の所有者(被相続人)が「生前」に、財産の一部を家族や親族等の他者(相続人)に無償で「贈与」することを指します。所有者が亡くなった後に相続人同士が協議を行い、財産を分け合う「相続」とは異なり、所有者が生きている間に“自らの意思で”財産を引き継ぐことができる制度。相続人同士の争いを避ける目的で行う人もいますが、一番の目的としては相続税対策として行うケースが多いです。生前贈与の対象には、現金や株式などの動産だけでなく、土地や建物などの不動産も含まれます。ここでは不動産に絞って生前贈与の特徴を見ていきましょう。

生前贈与とは

2023年に全国で亡くなった人の数は約157万人※1で、戦後最多となりました。それにともない相続の発生件数も増加の一途を辿っており※2、今後も相続というキーワードは多くの人にとって避けられないものになりそうです。数ある相続対策の中でも、大きな節税効果が期待できる手段として知られているのが「生前贈与」です。
とくに、土地、家、マンション、ビルなどの不動産は、財産の中でも高額で、相続税の税額にも大きく影響します。所有者が生きているうちに家族や親族などの相続人に贈与して相続財産を減らしておくことで、相続税の節税に繋げられる可能性があります。

※1 厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※2 東京国税局 「令和4年分 相続税の申告事績の概要」

 

相続税対策の基本

生前贈与を相続税対策として活用する際の基本的な考え方は2つあります。それは、①相続財産を減らすこと ②さまざまな制度を上手に活用すること です。

① 相続財産を減らす

相続税は、財産の所有者(被相続人)が亡くなった時点での財産額に基づき計算されます。事前に財産を相続人に引き渡して、総額を減らしておくことで、その分、相続税額を低く抑えることができます。とくに、将来的な不動産価値の上昇を見込んでいる場合、価値が低くとどまっている間に贈与を行うことにより、課税額を抑えながら、不動産から上がる収益を次世代に帰属させることができます。

② さまざまな制度を上手に活用する

生前贈与を行う際、財産が一定の金額を超えると贈与税がかかってきます。しかし一方で、「基礎控除」「暦年贈与」「相続時精算課税制度」「配偶者控除」といった、税負担を軽減できるさまざまな制度が用意されています。それらの制度を利用して、節税対策を行なっていくことが相続税負担の軽減に繋がります。
これらの制度や仕組みについては、後の項目にて詳しく説明します。

不動産の生前贈与のメリット

先にも述べたように、不動産の生前贈与における最大のメリットは、節税効果です。とくに、価値が上昇する可能性のある不動産については、早期に贈与することで、将来の価値上昇分に対する税負担を事前に回避できます。
また、不動産の所有者と相続人が一緒になってその土地や建物の使い道を考えることができ、適切な有効活用を行える点でも大きなメリットです。

通常の相続では、所有者が亡くなってから相続人に財産を分配します。遺言書がある場合は遺言書通りに、遺言書がない場合には相続人同士が遺産分割協議を行い、その土地や建物を誰が相続するか、またその分割の方法や使い道について決めていきます。しかし、とくに土地や建物は現金や株とは違い分割ができないため、トラブルが起こりやすいものです。よく「相続」とかけて「争族」とも呼ばれますが、いくら良好な関係を保ってきた家族・親族であっても、お金や財産の話になれば話は別。みんな自分の利益が欲しいために、お互いに主張し合って争いになることがあります。

生前贈与は所有者が存命のうちに話し合いができたり、関係者に対し所有者から直接意図を説明することができるため、相続トラブルの未然防止に寄与します。また、所有者が意図する相続人に確実に不動産を引き継ぐことができます。
これに加えて、不動産の生前贈与は、認知症などのリスク対策としても有効です。所有者が高齢となり、認知症やほかの病気などによって判断能力が低下してしまうと意思能力が無いと見なされ遺言書や贈与が無効とされてしまう場合があります。判断能力がある元気なうちに財産の一部または全部を贈与することで、資産管理やその後の土地の有効活用を円滑に進めることができます。

不動産の生前贈与には多くのメリットがある一方で、やり方を誤ってしまうと思わぬ税金を支払うことになりかねません。生前贈与を行う際には、正しい知識と理解を持つことが重要です。現在、フィル・カンパニーでは相続対策を成功させるノウハウが詰まった無料デジタル冊子をプレゼント中です。よくあるトラブル事例や、相続準備のチェックリストなど、相続に役立つトピックが満載です。気になる方は、下記よりお申し込みください。

相続税対策に役立つさまざまな制度と具体的な方法

生前贈与による相続税対策を成功させるためには、「相続財産を減らす」「さまざまな制度を上手に活用することが大切」ということを、前章で説明しました。
相続財産を減らすために、被相続人が生きている間に、所有する不動産を相続人に引き継いでおくことが大事ですが、個人から個人へ贈与が行われる際には、基本的に贈与税がかかります。生前贈与によって多額の贈与税を払わなければならなくなってしまっては、相続税対策の意味をなしませんから、さまざまな制度を上手に活用して、この贈与税をできる限り最小限に抑えることが、節税における大きなポイントになってきます。では、具体的にどんな制度や方法があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」がある

まず、不動産の生前贈与を行う際、課税方式を選ぶ必要があります。贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、どちらかを選択します。相続の金額や条件、目的によって、どちらの課税方式が有利に働くかが分かれるので、状況に応じて適切に選択することが節税に繋げる大きなポイントです。

暦年課税

1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産に対して、毎年一定の基礎控除を超えた部分に対して贈与税が課されるシステムです。年間110万円の基礎控除額があります。

相続時精算課税

贈与を受けた財産を相続税の申告時にまとめて計算し、相続税と一緒に精算する方法。2,500万円の特別控除があります。

相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻すことができません。税務上のメリットを最大限に享受するためにも、適切な課税方法を選択することが重要です。ご自身の財産状況や家族構成、将来の相続計画を考慮した上で、どの課税方法が最適かを見極めてください。

贈与税を軽減する具体的な方法

相続時精算課税もしくは暦年課税の課税方式を選択した上で、節税するにはどのような方法があるでしょうか。具体的には下記のような方法が挙げられます。

  • 方法1/暦年贈与の110万円の基礎控除を利用して、分割して贈与を行う
  • 方法2/相続時精算課税制度の2,500万円の特別控除を利用する
  • 方法3/配偶者控除を利用する

方法1/暦年贈与の110万円の基礎控除を利用して、分割して贈与を行う

暦年贈与を選択した場合、年間110万円の「基礎控除」が適用されます。贈与された財産が年間110万円以下の金額であれば、非課税扱いになります。ただし、不動産の場合は財産評価額が大きいため、110万円の非課税枠を超えてしまうケースがほとんど。たとえば、3,000万円の不動産を贈与した場合には、基礎控除を差し引いた2,890万円に対して、贈与税が課税されてしまいます。しかし、暦年贈与の基礎控除は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の総額が対象で、1年単位で何度でも適用することが可能です。そこで、不動産を一括で贈与するのではなく、数年に分けて所有権を引き渡していく方法があります。たとえば、子どもに贈与したい土地がある場合、毎年110万円未満ずつ、分割して贈与することで、税金の負担を抑えることができます。

方法2/相続時清算課税制度の2,500万円の特別控除を利用する

相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす贈与について、生前に贈与した財産を相続時にまとめて精算する制度です。基礎控除100万円と特別控除2,500万円の合計2,610万円までの贈与であれば贈与税がかからず、贈与者が亡くなったときに、贈与財産と相続財産の価額を合計した価額を基に相続税を計算し、既に支払った贈与税を控除することにより相続税を計算して納税します。なお、暦年贈与と相続時精算課税はどちらかの選択で、相続時精算課税を一度選択したら暦年贈与には戻れません。令和5年税制改正により令和6年1月1日以後の贈与について相続時精算課税にも毎年110万円の基礎控除が認められたことで、相続時精算課税を選択すると暦年贈与で認められていた110万円の基礎控除を使えなくなるといったデメリットは解消されました。
ただし、相続時精算課税制度を利用することができるのは、贈与者は「60歳以上の父母または祖父母」、受贈者は「18歳以上の直系卑属(直接血の繋がりのある子や孫など)」と決まっています。同じ贈与者からであれば何度贈与を受けても、累計2,500万円までは贈与税がかからないのもメリットです。ただし、特別控除の累計が2,500万円を超えた場合は、基礎控除110万円を超えた金額に対して一律20%の贈与税がかかってきます。

方法3/配偶者控除を利用する

不動産の生前贈与を検討する際、配偶者への贈与を考える方も多いでしょう。配偶者への贈与には、配偶者控除という特別な税制優遇措置が存在します。これは、婚姻期間が20年以上である配偶者から、居住用不動産およびその購入資金の贈与を受けた場合には、その年分の贈与税の課税金額から、基礎控除110万円のほかに2,000万円が控除されるというものです。しかし、控除の適用には、贈与する不動産の評価額の条件や贈与の方法、さらには贈与の時期など、細かい条件をクリアする必要があります。

<評価額の条件>
・夫婦の婚姻期間が20年超であること
・贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

相続税の算出の方法

不動産の生前贈与を成功させるために、相続の際にかかる、相続税の算出方法を知っておくと節税対策がしやすくなります。
相続税とは、被相続人が亡くなった時点での不動産を含む全ての財産を評価して算出される税金です。不動産は被相続人が亡くなった時点の不動産評価額に基づいて計算されます。相続税は3,000万円までの基礎控除に加え、相続人数に対して1人あたり600万円の控除が適用されます。たとえば、相続人が兄弟2人の場合は、「3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円」です。この場合、不動産評価額を含む財産が4,200万円未満ならば、相続税は発生しません一方、不動産評価額を含む財産が4,200万円以上の場合は、控除額を差し引いた金額に対して相続税が発生します。
相続税の算出は、相続財産の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を計算し、一旦、法定相続分で分割したものと仮定して相続税の総額を計算します。そして、実際の相続割合を考慮しながらそれぞれの相続人が負担する相続税の割合を決めていきます。
具体的には相続税は下記のステップで算出します。

STEP❶ 基礎控除額を算出する
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

STEP❷ 各相続人にかかる仮の相続税額を算出する
課税遺産総額×法定相続分 ※1×税率 ※2-控除額 ※3

STEP❸ 相続税の総額を算出する
各相続人ごとの算出税額の合計

STEP❹ 各相続人にかかる実際の相続税を算出する
各相続人の実際の相続税額=相続税の総額×(各相続人の取得する遺産の課税価格÷課税遺産総額)
必要な場合未成年者控除、障害者控除等の税額控除を差し引きます。

※1 法定相続人の条件によって法定相続分の計算が異なります。おもな例としては以下のような計算方式となります。

相続人 法定相続分
子がいる場合 配偶者 2分の1
2分の1(人数分に分ける)
子がいない場合 配偶者 3分の2
父母 3の1(人数分に分ける)
子も父母もいない場合 配偶者 4分の3
兄弟姉妹 4分の1(人数分に分ける)

※2 ※3 税率と控除額は速算表を用いると便利です。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 ※2 控除額 ※3
1,000万円以下 10%
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超から5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1,700万円
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円
3億円超から6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

生前贈与の注意点とデメリット

生前贈与を活用することで、相続税対策を行うことはできますが、その際にはいくつかの注意点があります。まず、生前贈与はその額によって贈与税がかかる場合があり、その際には申告が必要になります。年間110万円の基礎控除額を超える贈与を受けた場合には贈与税の申告が必要になります。申告期限までに申告をしていなかった場合、無申告加算税延滞税が課される可能性があります。贈与税が発生した場合には、税務申告を忘れずに行いましょう。また、生前贈与や相続税対策を検討する際には、家族の環境や条件に合った制度を上手に利用するなど、適切な計画を立てなければ損をする可能性もあります。そのためには税金や不動産に関する正しい理解や専門知識が必要。ご自身が入念なリサーチや準備を行うことはもちろん、専門家からのアドバイスをもらうことも大切です。

贈与税のデメリット

生前贈与の最大のデメリットは、贈与税の発生です。贈与税は、贈与される財産の価値が基礎控除額を超えた場合に発生しますが、税率は10%から最高で55%。高額な不動産を贈与する場合には、その税金の額も大きくなりがちです。一度に贈与すると、その税負担は決して軽いものではないため、贈与税がなるべくかからないように控除や評価減を上手く使って節税を行うことが大切になります。
また、贈与税は相続税と異なり、贈与するたびに税金が発生するため、複数回にわたって不動産を贈与すると、その都度税金がかかることになります。また、贈与を受けた側がその不動産を売却した場合、贈与時の評価額と売却価格の差額に対して所得税が課税される可能性があるため、その点も考慮する必要があります。不動産の生前贈与を行う際には一歩間違えると多額の税金を支払うことになってしまいます。そのため、デメリットを含めて制度をきちんと理解しておくことが大切です。

生前贈与のリスク

生前贈与は多くのメリットがある一方で、いくつかのリスクも存在します。まず、生前贈与によって贈与者の生活が困窮する可能性があります。贈与によって手放す不動産が、将来の生活資金に充てられるはずだった場合、十分な資金計画を立てずに贈与を進めると、贈与者自身の生活が苦しくなることがあります。
また、贈与税は、基礎控除を超える部分に対して課税されるため、大きな不動産を生前贈与すると、受け取った人が予想外の税金を支払うことになるかもしれません。一方、将来不動産価値が増すことが見込まれる場合、生前贈与をした方がメリットがあるため、長期的な視点での検討が必要です。
さらに、生前贈与は贈与を受けた相続人とそうでない相続人との間でトラブルを生じさせる原因となることもあります。事前に家族でしっかり話し合い、相続に関する意思を明確に伝えるとともに合意形成を図っておきましょう。
生前贈与を行う際にはリスクを被らないよう、贈与の目的とメリット、デメリットをしっかりと理解し、専門家に相談することが重要です。

生前贈与の具体的な手続きと申請のポイント

不動産の生前贈与の手続きはどのように行うのでしょうか。
生前贈与の申請手続きは、対象となる不動産(土地や建物)があるエリアを管轄する法務局にて行います。ここでは、実際の手続きの流れを必要書類や費用も含めて解説していきます。

不動産の生前贈与における手続きは、下記のステップで行います。

STEP1/贈与対象となる不動産の状況を調べる
贈与対象となる不動産の登記事項証明書(登記簿)を取得し、現在の所有者や所有権以外の権利(抵当権など)の有無を確認します。

STEP2/不動産の評価(価値)を確認する
次に不動産評価を調べます。
生前贈与の場合、不動産の評価(登録免許税の算定にあたり使用する評価額)は「固定資産税評価額」を基準に行われることが一般的。固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書や固定資産評価証明に記されています。また、国土交通省が公表する「公示地価」や「相続税路線価」を参考にすることもあります。専門家による鑑定評価を受けることも選択肢の一つです。

STEP3/税金を確認する
贈与によって生じる税金は、①贈与税 ②不動産取得税 ③登録免許税の3つです。事前におおよその税額を確認しておくことが大切です。

<各税金の算出方法>
①贈与税
・課税方式が暦年課税の場合
(その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額―基礎控除額110万円)×税率 ※1=贈与税額

※1 贈与税の特例税率(注:18歳以上の者が直系尊属から贈与を受ける場合)

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円


・課税方式が相続時精算課税の場合
(その年に贈与を受けた贈与財産の合計額‐基礎控除110万円‐特別控除額2,500万円)×20%=贈与税額

②不動産取得税
不動産取得税は、土地、建物などの不動産を取得した際にその取得者に課税されるものです。
不動産の評価額×4%(※)
(※)土地と住宅については軽減税率として3%が適用されています。

③登録免許税
不動産の名義変更(所有権移転登記)にかかる税金です。不動産の固定資産評価額の1000分の20で算出します。
不動産の固定資産評価額×2%=登録免許税額

STEP4/必要な申請書類の準備
申請に必要な書類を準備します。

<必要な書類>
・贈与者
登記済権利証または登記識別情報通知
印鑑証明書(発行後3か月以内)
固定資産評価証明書または課税明細書

・受贈者
住民票の写し
※条件によってはこれ以外の書類が必要になるケースもあります。

STEP5/贈与契約書の作成
贈与契約書を作成し、贈与者と受贈者がともに署名捺印します。

STEP6/登記申請書の作成
登記申請書を作成します。登記申請書のフォーマットは法務省のホームページで取得できます。

STEP7/法務局への申請
必要な書類がすべて準備できたら登記申請書を作成し、管轄の法務局に提出します。窓口での申請、郵送での申請、オンライン申請の3つの方法があります。

名義変更などの手続きは自分でできる?

上記で説明した通り、名義変更を行うには法務局への申請が必要ですが、この手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。しかし、「あまり手続きにお金をかけたくない」「できることは自分でやりたい」「名義を変更するだけだからかんたんでは?」と思う方も多いことでしょう。

結論からすると、不動産の生前贈与の名義変更手続きは、自分で行うことが可能です。しかし実際のところ、その手続きはとても複雑で、法律や税金、不動産などさまざまな専門知識が必要になってきます。知識がないまま進めると、書類の不備や作り直しなどが発生し時間がかかってしまったり、また、誤った情報が記載されたまま法的文書として残ってしまったりする可能性もあります。とくに2023年の税制改正により生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されたことからも、手続きには時間をかけず、スムーズに行いたいもの。そういった点からもやはり、司法書士に依頼するほうが安心です。どうしても自分で行いたい場合でも、専門家のアドバイスはもらうに越したことはありません。法務局や自治体の役所、相続登記相談センター、また一部の司法書士事務所や弁護士事務所などには無料相談できる窓口もあります。そういったサービスを上手に利用して、専門家からアドバイスをもらいながら正しい手続きを行うようにしましょう。

贈与契約書の作成方法

不動産を生前贈与する際には、贈与契約書の作成が必要不可欠です。これは、後々の税務調査や相続時のトラブルを避けるため、また、双方の合意の証として法的な効力を持たせるために行います。贈与契約書を作成する際には、以下のポイントを押さえておくことが大切です。

まず、贈与契約書には贈与者と受贈者の氏名や住所、そして贈与する不動産の所在地や地番、建物がある場合はその構造や面積など、不動産の詳細を記載します。また、贈与の条件、たとえば贈与の対価がある場合や、特定の期限や条件を設ける場合には、それらの条件を明確に記述することが重要です。
次に、贈与税の計算方法や納税の責任者を明記することも忘れてはなりません。贈与税は受贈者が負担するのが原則ですが、事前の合意により贈与者が負担することも可能です(※ただし贈与者が負担した贈与税は、受贈者に対する贈与になりますので、負担した贈与税にも贈与税が発生します)。この部分を明確にしておくことで、後の誤解を防ぐことができます。
また、贈与契約書は公正証書として作成することが推奨されます。公正証書にすることで、契約内容の信頼性が高まり、万が一のトラブルが発生した際にも強力な証拠となります。公正証書を作成するためには、公証人の立会いのもと、必要な書類を準備し、手続きを行う必要があります。

税務署への申告手続き

生前贈与において贈与税が発生した場合、税務署への申告手続きが必要です。贈与税の申告が必要となるのは、基礎控除額である110万円を超える贈与を受けた場合です。不動産を贈与された場合、土地や建物の評価額を確認し、この基礎控除額を超えるかどうかを判断する必要があります。評価額は、路線価などに基づいて算出されますが、特殊な土地の場合は税法評価である財産評価基本通達による評価額より評価が下がる可能性があるため、そのような土地の場合は不動産鑑定士に依頼することも一つの方法です。不動産の評価額だけでなく、法定の控除額を適切に理解して適用することが大切です。
申告に際しては、贈与税の申告書に必要事項を記入し、贈与契約書や不動産の登記簿謄本などの添付書類を準備します。また、不動産の評価額を算出した根拠となる資料も合わせて提出することが重要です。これらの書類をもとに、税務署で申告を行い、税金を納付する流れになります。贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの期間に税務署に行うことが原則です。

生前贈与の7年(3年)ルールに注意

生前贈与を行う際に、注意しなければならない大切なルールがあります。
それは、相続開始前の一定期間内に行われた贈与が、後に相続税の対象となる可能性があることです。具体的には、相続開始前7年以内に行われた贈与は、相続税の課税対象となります。
贈与したのだから贈与税のみが適用される、と考える方も少なくありませんが、実際には相続時にその贈与が相続財産として加算されることになってしまうので、生前贈与を行う際には、この期間を意識する必要があります。
背景として、このルールは、相続税対策としての生前贈与が過度に行われることを抑制するために設けられたもので、令和6年以前には、相続開始前3年以内というルールでした。しかし令和6年からはその期間が7年に延長されました。
経過措置も設けられており、令和12年末までに相続が開始する場合は、令和6年1月1日以降の贈与が対象。ただし、令和13年1月1日以降の相続開始からは、相続開始前7年以内の贈与がすべて対象となるため注意が必要です。また、過去に受けた贈与の記録や管理の負担を軽減するために、延長された4年間に受けた贈与は総額100万円までが相続税の対象外とされています。

このようなことから、生前贈与を行うのには早めの準備が大切です。お持ちの土地を引き継ぐ方法として、生前贈与を検討されている方は今すぐにでも対策を講じ、行動に移すことが大切です。しかし、不動産の評価や税金の計算は複雑で、専門知識が必要。自分一人で行おうとせず、まずは不動産の専門家に相談してみることをおすすめします。専門家のサポートを受けながら、正しい知識のもとで将来の財産計画をしっかりと立て、スムーズな手続きを進めましょう。

生前贈与の適用範囲と条件

生前贈与を行う際には、時間的な制約を踏まえた上で、適切な対応を計画する必要があります。先述したように、相続開始前7年以内に行われた贈与は、相続税の課税対象となります(令和6年以前は相続開始前3年以内)。せっかく生前贈与で相続税対策を行なっても、この期間中に相続が発生してしまった場合、贈与時の評価額で相続財産に加算されるということになります。とくに、相続が見込まれる時期の直前に不動産を贈与すると、税負担が予期せぬ形で増大することがあるため注意が必要です。
したがって、贈与のタイミングは非常に重要。適切な時期を見計らい、どのような不動産を贈与するのかについても慎重な選択が求められます。また、早期からの資産計画を行うことも、税負担を最小限に抑える上での鍵となります。

親子間贈与と認知症の関係

認知症という言葉を耳にする機会が増えていますが、不動産の生前贈与や財産管理においても認知症は大きな問題となって立ちはだかります。なぜなら、民法上、認知症を患った人は「判断能力がない」と認められ、すべての法律行為が無効になってしまう可能性があるからです。つまり、認知症になってから相続対策をしたいと思っても、不可能になってしまうことがあるのです。
その影響を最小限に抑えるための手段として、生前贈与が注目されています。認知症が進行する前に生前贈与を行うことで、本人の意志に基づいた財産の分配が可能になります。これにより、認知症になった際に起こりうる意思能力を巡るトラブルや、相続手続きの滞りを未然に防ぐことができます。
また、認知症の症状が軽度のうちに適切な診断を受け、医師の診断書により意思能力が維持されていると証明できれば、生前贈与は有効に行われます。診断書があれば将来的にトラブルがあった際に証拠として提出できます。口頭での約束も法的には有効ですが、文書によって贈与の事実を明確に残すことは、双方の合意を証明する上で非常に重要ですので診断書は必ず発行してもらうようにしましょう。

高齢化が進み、今後は4人に1人が認知症またはその予備群だと言われています。そういった時代背景から鑑みても、不動産の生前贈与を行うメリットは大きいでしょう。そのためにも税金や相続に関する知識を深めておくことが大切です。フィル・カンパニーでは、専門家が監修した相続対策ガイドブックを無料プレゼント中です。認知症が原因で起こった実際のトラブル事例などもご紹介しています。生前贈与や相続対策のプランを立てる際にお役立てください。

7年以内の贈与のポイント

前章では、生前贈与加算の期間が従来の3年から7年に延長されたことを解説しました。これは、贈与者が亡くなる7年前まで遡って贈与された財産は、相続財産として計算されるため、結果的に相続税が発生してしまう可能性があることを意味します。しかし、贈与者がいつ亡くなるかは誰も予測できません。つまり、生前贈与を検討するならば、今すぐにでも対策を講じ、行動に移すことが大切です。先々に起こりうるリスクを読んで、計画的な準備を行いましょう。

宅地と建物の贈与に関する制限

不動産を生前贈与する際、とくに宅地や建物に関しては、いくつかの制限があります。これらの制限を理解し、適切な手続きを取ることが重要です。
たとえば、一定要件を満たす土地であれば「小規模宅地等の特例」の適用を受けることで、評価額を最大80%減額できる制度がありますが、「相続時精算課税」を適用した場合、評価額の高い宅地においては小規模宅地等の特例が適用されず、結果的に相続税が高くなる可能性があります。ほかにも、複数の制度は併用不可であったり、贈与される宅地の面積や評価額、居住用か非居住用かなどによって適用されなかったりと、さまざまな制限が存在します。税金や法律、不動産などに対する正確な理解と、入念な事前準備が求められます。

贈与の時期と相続税負担

生前贈与を行う際、不動産の評価額は、市場価格の変動や固定資産税評価額の改定などにより変動するため、贈与を行うタイミングによっては、贈与税の額が大きく異なることがあります。したがって、不動産の価値が下がりそうな時期や、税制改正による税負担の変化が予測される時期など、慎重な判断が必要になります。
また、生前贈与加算の期間が従来の3年から7年に延長されたことを言及しましたが、対象となるのは「法定相続人にあたる人への贈与のみ」となるため、などの法定相続人でない相手への贈与では、節税の面でメリットがあることもチェックしておきましょう。また、アパート・マンションや商業ビルなど、土地活用によって収入を生む不動産を生前贈与することで、将来的な節税につながる可能性があります。

生前贈与の期限と制度変更

生前贈与は、相続が発生する前に財産を引き継ぐことで、相続税の節税につながる有効な手段です。しかし、一口に生前贈与といっても、税制度はつねに変化しており、制度変更の影響を受けることがあります。これから生前贈与を考えている方は、現行の税法のみならず、目前に迫った期限や将来予測される制度変更にも留意する必要があります。
たとえば、2023年の税制改正では、相続税の対象となる財産に加算される生前贈与が相続開始前「3年以内」から「7年以内」に延長されました。しかしながら、こうした制度変更に気づかずに過ごしていると「まだ先の話だから準備しなくても大丈夫」などと、気持ちの面から対策が遅れてしまうことがあります。制度や法律、適用される条件はつねに変化しています。また、特例措置などにおいては期限が設けられており、更新されなければ終了することもあります。制度変更によっては手続きの方法や必要な書類、税率や基礎控除額の見直しが入る場合もあります。アンテナを張り巡らせて、最新の情報を取り入れておくことが大切です。

相続の対応と遺産整理

一般的に、相続が発生した場合、遺された財産に対して相続人同士が協議して「遺産整理」をしていきます。ときには家族間でのトラブルにも発展する可能性があり、相続手続きが滞ってしまうケースも少なくありません。そのためにも、財産の所有者が生きているうちに、自らその財産や不動産を整理する「生前整理」を行なっておくことをおすすめします。不動産の生前整理は、とくに重要性が高いと言えます。なぜなら不動産は価値が高く、相続税の計算において大きなウェイトを占めるからです。また、不動産の管理や維持には、税金や維持費用が発生し、相続人にとって負担になることも少なくありません。不動産の生前整理には、売却、土地活用、そして生前贈与など、さまざまな方法があります。自分と、相続する家族が将来困らないために。所有する不動産をどのように整理するのがベストか、家族の状況や土地の内容とともに考えておくことが大切です。

生前贈与の利点とリスク

繰り返しになりますが、生前に不動産を贈与する最大の利点は税負担を軽減できる点です。相続が発生する前に財産を相続人に移しておくことで、相続税の課税対象額を減らすことができます。個人間の贈与には贈与税がかかりますが、贈与税には基礎控除があり、年間110万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。ほかにも贈与税を減らせる制度がありますので、賢く活用することにより税金対策を行うことができます。一方、生前贈与にはいくつかのリスクも存在します。まず、贈与税の計算においては、贈与税も相続税も評価方法は全く同じですが、小規模宅地の特例が贈与の場合には適用されないため最終的な税金額が異なります。また、一度贈与した財産は基本的には取り戻すことができませんので、将来の生活資金に不安がある場合は慎重な判断が必要です。さらに、贈与された側に対し、不動産取得税や登録免許税などの税金が発生することも忘れてはなりません。これらの税金は、不動産の取得価格に基づいて計算されるため、想定外の出費になる可能性もあるため注意が必要です。

相続税の軽減と贈与の選択

相続税を軽減するために、まず押さえたいポイントは、相続のかかる財産を事前に減らしておくことです。相続税は、財産の所有者が亡くなった時点で、その財産が一定の価値を超えた場合に発生する税金であり、その額は財産の総額によって大きく変動します。したがって、相続税対策は所有者が生きているうちに、その額をコントロールしておくことが大切です。とくに不動産は価値が高く、相続財産の中でも重要な位置を占めるため、早いうちから対策を始めておかなければ多額の相続税が発生する可能性があります。相続税対策として代表的な生前贈与は、長期間にわたって継続的に贈与することで節税効果を得られます。亡くなってから相続を考えるのでは手段が限られてきますが、早くから準備を行なっておくことで、さまざま相続税対策の選択肢を持つことができます。

贈与契約とトラブル回避

不動産を生前贈与する場合、後々のトラブルを回避するために大切なのは、口頭の約束ではなく、すべて書面に残しておくことです。とくに不動産の贈与には高い価値が伴うため、公正証書の作成を行うことをおすすめします。
贈与契約を行うときの書類としては贈与契約書がありますが、これには、贈与する不動産の詳細な情報(所在地、面積、地目など)と贈与の条件を明記すること。また、贈与の意思が明確であることを示すため、贈与者と受贈者双方の署名・捺印が必要です。さらに、贈与契約は無償で行われることから、受贈者が将来的に支払うべき費用(不動産取得税や登録免許税など)についても合意しておくといいでしょう。また、贈与する不動産が複数の相続人に影響を与える場合、事前に家族間で話し合いを持ち、全員の合意を得ることが望ましいです。

生前贈与による課税価格の変化

生前贈与で不動産を渡す際、その不動産の課税価格がどのように変化するかを理解しておくことは、想定外の負担を避けるために不可欠です。
まず、生前贈与における不動産の課税価格において建物は「固定資産税評価額」をもとに算出し、土地は「相続税路線価」に基づいて計算します。専門家による鑑定評価の金額を参考にすることもあります。また、その不動産の「時価」に基づいて評価されることもあります。時価とは、不動産を自由な市場で売却した場合に想定される価格のことを指し、地域の地価や物件の特性、築年数、経済情勢による需要と供給の割合など、さまざまな要因によって変動します。
生前贈与の課税価格は評価の仕方によって異なります。そのため、土地や建物の現在の価値や値動き、贈与すべきタイミンングを見計らうことも、課税額を左右する重要なポイントです。

生前贈与と不動産相続の比較

不動産の生前贈与とは、贈与者が生存中に相続人に贈与することつまり、不動産の所有権を相続人に移す方法です。これにより、相続時の財産を減らすことができ、また被相続人が生きているうちに、相続人とともにその不動産のベストな活用法を話し合って決めることができます。一方、不動産相続とは、所有者が亡くなった時点で法定相続人に引き渡されることで、遺言書の作成などで被相続人の意思を伝えることができます。
生前贈与と不動産相続では、どちらを選択するかによって享受できるメリットが変わりますし、税金の考え方も変わってきます。所有する土地や建物、また家族の状況などを鑑みて、生前贈与と不動産相続のどちらにメリットがあるかを事前に確認しておくことが大切です。

資産評価の違いと考慮点

不動産の生前贈与と不動産相続において、異なる点があります。
生前贈与も不動産相続も建物は「相続税評価額」という、税法上定められた評価方法によって資産が評価され、課税額が計算されます。相続税評価額は市場価格よりも低く抑えられる傾向があるため、税負担を減らすことが可能です。土地は相続税路線価」で評価されます。生前贈与では、相続時よりも高い評価額になる可能性があり、税金を計算する上では不利になることがあります。
それぞれ評価のタイミングも異なります。生前贈与の場合、贈与された時点での評価額が課税金額を決めます。一方、相続の場合には不動産の所有者が亡くなった時点での相続税評価額となります。生前贈与か、相続かを検討する際には、資産評価の違いや適切なタイミング等を十分考慮した上で、選択を行うことも大切です。

親子間相続と贈与の適用条件

親子間の相続や贈与なら相続税や贈与税がかからないのでは、と考える人もいるかもしれません。実際には、親子間であろうと、相手がほかの親族や他人であろうと、基本的に税金はかかります。しかし、さまざまな条件によって税金がかかるケースとかからないケースがあり、きちんと対策すれば相続税や贈与税の節税に繋がります。
相続の場合、不動産の所有者が亡くなった時点をもって自動的に相続人に移転します。これは遺言書がない場合でも法定相続分に従って分割されます。一方、生前贈与は、不動産の所有者が生きている間に自らの意志で財産を移転する行為であり、相続発生前に相続人に財産を分け与えることができます。
相続税においては、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の基礎控除があり、上手く分け与えることで相続税を減額できます。一方で、生前贈与では、暦年贈与の場合は年間110万円までの基礎控除が、また相続時精算課税制度においては、一定の条件下では累計2,500万円まで非課税になります。
それぞれ異なる適用条件があるので、家族の状況や目的に合った方法を選ぶことが大切です。そのためにも、普段から親子間で、どんな財産が存在しているかを共有し、受け継ぐための方法や不動産の活用方法についてよく話し合っておくことが大切です。

生前贈与と遺言書の関係

生前贈与とは、その名の通り、生きているうちに財産を家族や親族に贈与することを指します。これに対し、遺言書は、自身が亡くなった後、財産をどうして欲しいかを記した法的な文書で、亡くなった時点で効力を発揮します。生前贈与と遺言書は少し性質が違いますが、どちらも財産の承継に関わる大切な手段であり、財産の所有者が生きている間にしかできないことです。
生前贈与は、不動産の所有者が生きているうちに、所有者の意図した通りの財産移転が可能です。家族と話し合いをしながら進められるので、相続人の合意を取りやすいがメリットです。遺言書による財産の継承は亡くなるタイミングの1回限りですが、生前贈与は何回でも可能なので、長期にわたる相続税対策が可能です。
遺言書による財産承継も、意思に沿った財産分配が可能ではあるものの、相続人全員の合意が必要ないため、亡くなった後に相続人同士で争いが起こることもあります。生前贈与と遺言書は、それぞれに有効な場面がありますが、どちらを選択するかは個々の状況や目的によって異なります。

「遺言書を書き始めるなんて時期尚早」「相続対策は時が来たら考えればいい」など、対策しないままでいると、いつの間にかその時はやってきます。相続対策を始めるのに“早い”という概念はありません。むしろ“いつスタートしても遅い”くらいの緊張感を持って相続の準備を整えておくことが大切です。無料でダウンロードが可能な相続対策ガイドブックでは、生前贈与や相続における節税対策のノウハウを紹介していますので、ぜひご活用ください。

生前贈与の手続きにおける相談先と、専門家への依頼費用

不動産を生前贈与する際、契約書の作成や法務局への申請は手続きの中でも中核をなす作業であり、適切に実行することが、後の争いごとを避けるポイントとなります。具体的には、贈与者と受贈者双方の合意事項、不動産の所在地や面積、物件の評価額、贈与時の条件などを明記した文書が必要になります。また、書類の作成だけでなく、固定資産税評価証明書登記簿謄本などのさまざまな書類の準備が必要です。
不動産の条件や贈与の目的によって必要な情報が異なるため、相応の専門知識が求められます。手続きを自分で行うことは可能ですが、一般的には、専門家である司法書士に依頼することがほとんどです。的確かつスムーズな手続きを行うためにも、自分で行わずに司法書士に手続きをお願いするのがもっとも安心といえるでしょう。

生前贈与は誰に相談したらいい?

生前贈与を検討する際、税金・法律・不動産・書類の手続き等、さまざまな角度からの知見が必要になるため、本来ならば、それぞれの専門家から意見を取り入れて手続きを行うのが賢明です。生前贈与の目的や困りごとによって、それぞれ得意とする分野の専門家に相談することをおすすめします。生前贈与にかかわる相談ごとの相談先としては、下記の候補が考えられます。

・節税について:税理士
税金の専門家である税理士は、相続税や贈与税の節税における専門知識を有しています。
続税対策として生前贈与をする際の相談先としては最も適しているといえます。

・手続きについて:司法書士
司法書士は登記などにおける法定手続きの専門家です。生前贈与の申請手続きにおける書類作成は複雑で、また、さまざまな資料の提出が必要になります。自分で手続きを行うと手間取ってしまうことが多いです。司法書士に依頼するのが、正確かつスムーズです。

 

専門家へ依頼する場合の費用

では、実際に専門家へ依頼する際の費用はいくらくらいかかるでしょうか。上記で挙げた税理士・司法書士について見ていきましょう。

・税理士
税理士事務所によってさまざまですが、顧問契約と都度契約で契約料金が異なります。顧問契約している税理士がいる場合、顧問契約内で相談を受けてくれる場合が多いです。顧問契約料としては、顧問契約の無い個人の場合、初回相談のみ無料、その後の財産評価、贈与税申告については財産内容に応じて別途見積としている場合が多いです。

・司法書士
生前贈与の手続きを司法書士への報酬は、登記する不動産の種類や価値、案件の複雑度に応じて変動しますが、一般的には登録免許税等の実費以外で5万円から15万円程度が目安です。自分で手続きを行うことでこの費用は浮きますが、時間がかかったり、書類の不備などで出し戻しが発生する可能性があるため、申請手続きは司法書士に依頼することが一般的です。

相続税対策や生前贈与の手続きにおいては、専門家への依頼費用のほかに、不動産取得税や登録免許税といった税金がかかってきます。事前にそれらの費用も計算に入れておきましょう。

無料で相談できる場合もある

税理士・司法書士ともに、「初回相談無料」などを謳っている事務所もあります。それぞれの事務所で特徴が違ったり、担当者との相性などもありますので、無料相談を利用していろいろな事務所をあたって検討するのも一つの手です。また、各自治体の税務署には、無料で税金に関する相談をすることができます。しかし、税務署に答えてもらえるのは、基本的に手続きに関する事項であり、個々の事情に応じた相続税対策のアドバイスを具体的にもらえることは少ないです。きちんとした相続税対策やスムーズな手続きを行いたい場合には、やはり親身になって相談を受けてくれる専門家や自分に合った担当者を見つけて、状況に応じた対策を一緒に考えていくことが大切です。

法人化による節税対策

不動産を所有している場合、その管理や運用を効率化する手法として「法人化」による節税対策があります。これは、不動産の所有者を個人から法人へと移転することによって、税負担を軽減する方法です。個人の税率は所得税・住民税合わせて約55%に達することがありますが、法人税率は一般的には低く抑えられており、企業の利益に応じて30%程度に設定されています。この税率差を利用して節税を行うわけです。ただし、法人化には設立費用や維持コストがかかり、適切な運営が求められます。したがって、事前にしっかりとしたプランニングが必要です。

会社設立と生前贈与

法人化の方法としては、まずは子どもや孫など、不動産を引き継ぎたい人を代表者にした会社を設立します。その後、その新法人に不動産の所有権を移転することで法人化という形で生前贈与を行うことができます。個人に対してかかる所得税は累進課税制度であり、収入が多くなるほど税率が高くなります。一方で法人税は累進課税ではなく、一定の税率が適用されるため、高額な不動産所得がある場合でも税率が上がることはありません。その会社を通じて不動産を管理することで、不動産の運用から得られる収益を法人税の枠組み内で処理することができます。
また、相続人となる親族を役員に設定することで、親族に対して「役員報酬」という給与を支給することもできます。役員報酬は給与所得として扱われるため、贈与税がかからずに財産を渡すことが可能です。もちろん所得税はかかりますが、トータルでの税負担を下げられる可能性があります。

【相続税対策における不動産法人化のデメリット】
不動産の生前贈与における法人化の手法は、税金対策に加え、不動産を管理しやすくするメリットもあります。しかし、必ずしも万能ではなく、デメリットもあります。たとえば、法人化には設立費用や登記費用、運営管理にかかる経費が発生し、これらのコストが負担となり得ます。また、法人が持つ不動産は個人所有とは異なり、その評価額や資産の使い道に関して金融機関から厳しい目が向けられることも覚悟しなければなりません。さらに、法人化した場合、不動産の売却時には個人の所得税率よりも高い法人税率が適用されるため、その結果、税金の圧迫を受けることもあります。
生前贈与で不動産の法人化を検討する際にはこのようなデメリットまで細かく検討し、最終的にどの方法が最も適切かを考えることが大切です。

収益化して管理する方法

収益化とは、所有する不動産を賃貸するなどして定期的な収入を確保し、保有しているだけでなく資産から利益を生み出すことを言います。具体的には、アパート・マンション、商業ビル、駐車場、トランクルーム、ガレージハウスなどを建てて、入居者や利用者から賃料をもらい収益を得る仕組みを作り出すことです。
収益化することで、不動産の維持費用や税金を賄うことができるだけでなく、それ以上の利益を出すことも可能。その上で、不動産を生前贈与することにより、相続した人により価値の高い財産を引き渡すことができます。
生前贈与のために不動産の収益化を行うことは非常に魅力的ですが、賃貸経営を行う際には、専門的なノウハウが求められます。立地や対象物件の種類に応じた賃料設定、適切なリフォームの実施、効果的な広告宣伝など、適切な管理と運営が必要。また、賃貸物件として魅力を持たせ維持するためには、つねに市場の動向を把握し、需要に応じた施策を講じていくことが重要です。
不動産の収益化を検討するなら、まずは専門家に相談するのがおすすめです。プロの視点による的確なアドバイスを受けながら、対策していくことで、税負担を減らしつつ、安心して財産を次世代に継承できるプランを立てることができるでしょう。
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この記事の監修者

奥津 雅之

あいわ税理士法人 / 税理士

国内の上場企業やそのグループ会社、ベンチャー企業等に対する税務コンサルティング業務に従事。IPO準備企業に対する資本政策の実行支援、上場後のM&Aに伴うデューデリジェンス業務、M&A後のHD化支援業務も複数経験。個人税務関係では、上場会社オーナーなど超富裕層の確定申告業務、税務調査対応、相続対策コンサルティングに注力。

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