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2024.06.25 商業ビル経営土地活用成功事例

ビル経営の虎の巻!成功のために押さえておきたいポイントを解説

この記事の監修者
垣内 典之一級建築士垣内 典之

ビル経営とは、所有している土地にビルを建てテナントを入居させることによって、賃料収入を得るビジネスモデルです。アパート・マンションなどの賃貸経営に比べると事業規模も大きく、果たして儲かるのかどうか不安に思われる方も多いのではないでしょうか。そこで、本記事では、ビル経営を始めるノウハウについて解説します。不動産の活用方法にお悩みの方はぜひ参考にしてください。

ビル経営とは

ビル経営とは、飲食店や小売店、サービス業などの商業テナントから賃料収入を得るビジネスモデルです。初期費用は数千万円から時に億単位と、非常に高額ですが、その分、高い収益性を望めるのが特徴です。

資格は必要?

テナントビルを経営するにあたって、特別な資格は必要ありません。ビルを所有していれば誰でも経営を始めることができます。ただし、ビル経営にかかる法律や、税金に関する知識、またマーケティングの知識は身に着けておくに越したことはありません。
実際の運用管理は不動産会社に委託することがほとんどですが、不動産会社と有意義な交渉をし、ご自身が所有する土地のポテンシャルを最大限生かすためにも、基礎的なことは学んでおくと良いでしょう。

向いている土地とは?

ビル経営の成否は立地に大きく左右されます。所有している土地が商業テナントビルに適しているかどうか、まずはしっかりと見極めることが大切です。

結論から言えば、テナントへの集客力がビル経営の安定に直結するため、多くの人が行き交う街中が圧倒的に有利です。一方、人通りや車通りが少ないエリアでは集客が難しく、テナントが定着しない恐れがあります。
ただし、ビルの目的によっても向いている土地は変わります。たとえば、オフィスビルならば、交通の便が良く企業が集まるオフィス街が最適です。一方、ファッションビルや、飲食業や小売業などさまざまな業態が入居する商業ビルを建てるなら、人の集まる繁華街が望ましいでしょう。クリニックなど医療関係のテナントが入居するメディカルビルの場合は、会社帰りのビジネスマンが立ち寄りやすい立地や、ファミリー層が居住する住宅地の生活圏などが考えられます。

いずれにしても、交通の便の良さは大きなメリットとなります。

駅から近い、主要道路に面している、バス停が目の前などといった条件があれば、テナントも集客が容易になります。駅から離れている場合でも、車でアクセスしやすいエリアであれば同様に集客が期待できるでしょう。その場合は駐車場を併設すると利便性が高まります。
加えて、現行のマーケット調査だけでなく、土地の将来性を見越して戦略を練ることが重要です。開発計画が進行中の地域や、商業施設が充実している地域は、将来的に資産価値の上昇が見込めるため、長期的な経営戦略において有利に働くでしょう。

利回りを考慮する上では、土地の形状や地盤の状態も影響します。地盤が弱い土地や変形地は建築コストが高くなる可能性があり、初期投資がかさむためです。また、建築計画は用途地域や建ぺい率、容積率といった法規制に影響を受けることに注意が必要です。

向いている人とは?

ビル経営は、とくに相続税対策をしたいと考えている方に向いている土地活用方法です。大都市圏や人口密集地域は土地の価値が高騰しやすく、相続税の額も膨大になりがちです。ビル経営を行うことで、土地の有効活用はもちろん、税金対策としてのメリットも享受できるのです。

テナントビルは、税法上「貸家建付地」と分類されます。これは自己所有の土地に建物を建て、その建物を他人に貸し出している状況を指します。このような貸家建付地の特徴として、建物が存在することにより、土地自体の評価額が下がる点が挙げられます。建物があることで土地の活用性が限定されるため、税務上の評価が更地に比べて低くなるのです。

具体的には、賃貸用の物件が建っている土地は、その評価額を更地の時の約8割程度に抑えることが可能です。「建物の所有者が他人に貸し出しているため、土地を自由に使えない」という考え方があるためです。結果として、土地を相続する際の税額が、建物がない更地の状態よりも大幅に低くなるのです。

貸家建付地の評価額は、以下のように計算できます。

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ― (自用地評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 ×賃貸割合)

賃貸アパートやマンションはもちろんのこと、商業ビルやオフィスビルなど、多様な形態の建物を建てることで、相続税対策としての効果を最大化することができます。また、これらの建物から得られる賃料収入は、相続人にとって安定した収益源となります。

注意したいのは、ビルの経営が赤字続きになると、結果的に損をしてしまうという点です。また立地が良くビルの評価額が高い場合も相続税が高くなります。税金対策を視野に入れてビル経営を考えている方は、専門家のアドバイスを受け、綿密に計画を立てることをおすすめします。

ビル経営のメリットー高い収益が出るって本当?ー

ビル経営は、アパート・マンションなどの賃貸経営に比べて収益性が高いといえます。ここではビル経営のメリットについて解説します。

高い収益率が期待できる

ビル経営の最大の魅力の一つは、他の不動産投資に比べて高い収益率が期待できる点です。

商業ビルは、ビジネスの来社や一般客の出入りが多いことから建物が傷むのが早く、その分、アパート・マンションなどの居住用住宅に比べて賃料を高く設定できます。そのため、同じ面積で賃貸経営をした場合、オフィスビルや商業ビルのほうが月々の賃料収入が高くなるのです。
しかし、収益率が高いということは、それだけ経営に伴うリスクも高いということを意味します。市場の変化や不測の事態による空室リスクなど、要因はさまざまです。こういったリスクを最小限に抑え、かつ高いリターンを目指すためには、適切な管理と運営が不可欠です。

例えば、入居者のニーズを把握し、定期的な改修やサービスの向上を図ること、市場動向を分析して賃料の適正化を行うことなどが考えられます。

ビル経営の形態は多岐にわたります。オフィスビルのみならず、店舗や住宅部分を含む複合ビルの開発も一つの手法です。複合ビルの場合、オフィスの賃料収入に加えて、住宅部分からの家賃や店舗からの賃料など、複数の収益源を確保することが可能になります。
さらに、ビル内にカフェやフィットネスクラブなどのテナントを誘致することで、来客者の増加を見込むことができるでしょう。

建築物の自由度が高い

ビル経営の大きな魅力の一つに、建築物の自由度の高さが挙げられます。

賃貸住宅経営は、快適な住環境に配慮するために、建築基準法や都市計画法で建築できる建物が細かく規制されています。たとえば日照権を確保、隣接する建物と一定の距離を確保するなどといったことです。
その点、商業ビルは建築計画が柔軟なため、賃貸住宅が建てられない土地でも活用できる可能性があります。

商業ビルは、用途に応じて多様な建築プランを立てられます。デザイン性にこだわることによって個性的な外観でまちのランドマークとなったり、環境配慮型の設計にすることでサステナビリティに寄与したりといったことも一つの案でしょう。入居テナントにとって、サステナビリティへの貢献は企業のブランディングにもつながります。

さらに、ビル内にテナントを複数誘致することで、異なる業種の集客力を利用したシナジー効果を期待できる点も魅力的です。例えば、1階にはカフェやコンビニエンスストアを設け、上階にはオフィスやクリニックを配置することにより、建物全体としての付加価値を向上させることが可能になります。
地域や市場のニーズに応じて戦略を立て、差別化を図ることができれば、長期的に安定した収益を見込むことができるでしょう。

相続税対策に効果的

収益性だけでなく税制面でのメリットも見逃せません。とくに相続税対策としての効果はビル経営の大きなメリットといえます。適切に経営すれば財産の評価額を実勢価格よりも低く抑えることが可能であり、結果的に相続税の軽減につながるのです。

まず、相続した土地でビル経営を行う場合は「事業用地」としての評価減が認められます。事業用地の評価は、原則として路線価に一定の減額率を乗じて算出されるため、空き地や一般の自用地と比べて相続税が低くなる傾向にあります。また、「小規模宅地等の特例」による評価減も期待できます。ビル経営が軌道に乗っている場合は、ビルの経営状況を維持しながら相続人が事業を引き継ぐことで、相続税の納税猶予や免除を受ける「事業承継税制」を利用することも可能です。

これは、経営継続による地域経済への貢献や雇用の維持を目的とした制度であり、ビル経営を安定して続けることができれば、その恩恵を受けられる可能性が高まります。
しかし、相続税対策としてのビル経営は適正な運用が必須です。相続発生時のビルの状況や賃貸状況が適切でなければ、税制上のメリットを十分に享受することは難しいため、綿密な計画と管理が求められます。

空室率が低い

ビル経営において空室は収入減に直結します。よって、継続的にテナントに入居してもらい、空室率を低く抑えることが重要です。

立地の良さは空室率を大きく左右します。交通の便が良く人通りが多いエリアはテナントからの需要が高く、自然と空室の期間が短くなる傾向になります。また、ビルのデザインやセキュリティの高さも、テナント企業にとって魅力的な要素です。これらの条件を満たすビルは競争力が高く、空室に悩むことが少ないのです。

さらに、柔軟な賃貸条件を設定することも重要です。市場の動向をリサーチし、適正な賃料を設定しましょう。とくに入居していたテナントが退去するタイミングにも周辺相場のリサーチが必要です。周辺の物件と比較して賃料が高すぎると、なかなか後継の入居者が決まらないということも起こり得ます。テナントのニーズに応じて契約期間を設定するなど、柔軟な対応をすることで、テナントは入居しやすくなります。

また、どれだけビルの条件が良くても、適切な運営がなされていなければ空室率は下がりません。そのためには、日常的なメンテナンスや清掃、テナントとのコミュニケーションを怠らず、問題が発生した際には迅速に対応しましょう。

入居者間トラブルが少ない

ビル経営は、アパート・マンション経営など他の不動産投資に比べ、入居者間でのトラブルが起こりにくいという利点があります。

商業ビルにはさまざまな業種のテナントが集まります。オフィスビルは異なる業界のオフィスが混在しており、互いに干渉しあうことが少ないため、トラブルが起きづらいのです。またフロア貸しの商業テナントビルの場合は、飲食店やアパレル店、サービス業などが各階に配置されるため、フロア間の相互作用が少なく、トラブルが発生しづらい構造になっています。

もちろん、入居者間のトラブルが完全に起こらないわけではありません。しかし、万一トラブルが発生した場合の対応もシステム化しやすいため、オーナーの負担は大きく軽減されます。入居者からのクレームや問題発生時に迅速に対応するには、ビル専門の管理会社に委託すると良いでしょう。

また、入居者に対して明確なルールを設けることで、ビル全体の秩序を保ち、トラブル発生のリスクを最小限に抑えることが可能です。入居トラブルのリスクを防ぐためにも、テナントを募集する際は、審査とルールの共有決定が欠かせません。

フィル・カンパニーでは、テナント募集から審査、入居者との面談、また契約までワンストップでサービスを提供しています。

ビル経営のデメリットービル経営が儲からない理由ー

メリットが大きいように思えるビル経営ですが、もちろんデメリットも存在します。それはハイリスク・ハイリターンという言葉に集約できるかもしれません。
詳しく見ていきましょう。

初期費用が高い

ビル経営において、最初に直面する壁の一つが高額な初期費用です。

土地をお持ちでない場合は土地の取得費用はもちろんのこと、建設費用、設備投資、そしてビルを運営するための人件費や広告宣伝費など、必要経費は多岐に渡ります。とくに、都市部などは土地の価格が高騰しているため、より多くの資金が必要となります。また、ビル経営を開始するまでには、許認可の申請費用や各種手数料も発生します。収益の見込みとバランスを取りながら慎重に計画する必要がありますが、予想外の支出に見舞われることも少なくありません。よって、リスクヘッジとして十分な自己資金を用意しておくこと、金融機関との良好な関係を築くことが成功への鍵を握るといえるでしょう。

さらに、最初の段階で抱える負債が多いと、その後の経営においてキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。将来の収益性を見極め、過度な借入れによるリスクを避けつつ適切な投資を行うことが求められます。

実際のところ、ビル経営は十分な準備と正確な市場分析がなければ、高額な初期投資を回収できない可能性もあります。しかし、そのリスクを乗り越え、計画的に事業を進めることができれば、長期にわたって安定した収益を確保できるのが魅力です。

景気に左右されやすい

ビル経営は、市場の景気動向に左右されやすいというリスクを抱えています。

経済が好調な時期には、企業の業績が上向き、新しいビジネスの創出が盛んになることが多く、その結果、事業の拡大や新規参入が活発となります。するとオフィスビルや商業ビルへの需要が高まるため、ビル経営者にとっては賃料収入の増加や空室率の低下という好循環が生まれます。

一方で、経済が停滞期に入ると、企業の倒産や事業縮小が増える傾向にあります。これによりビルの空室率が上昇するため、収益が落ち込む可能性が高まります。

また、新たなテナントを確保するために、賃料の値下げやフリーレントなどの特別なキャンペーンの実施を余儀なくされることもあるでしょう。これは短期的な対策としては有効かもしれませんが長期的な視点で経営を安定させるためには、市場の変化に柔軟に対応する戦略的なアプローチが必要です。

たとえば、不況期には、賃料の値下げだけに頼るのではなく、テナント企業に付加価値を提供するサービスを充実させたり共用施設の改善を図ることでテナントの満足度を高め、長期的な契約の獲得につなげることも一つの方法です。

さらに、経済が好調な時には、将来の不況時に備えて資金の確保やリスクヘッジのための施策を講じることが重要になります。これには、多様なテナント構成によるリスク分散や、不動産以外への投資による収益源の多角化などが考えられます。

経営ノウハウが必要

ビル経営を始めるにあたり、多くの方が見落としがちなのが経営ノウハウの重要性です。

成功するビル経営者に共通するのは、資金計画だけでなく、テナントのニーズを理解し、適切な管理・運営を行うことができる知識と経験を持っているということです。具体的には、賃料の設定、契約の更新、メンテナンスのスケジュール管理、トラブル時の対応策など、日々の運営に関わる幅広いスキルが求められます。

また、ビル経営は単に賃貸するだけではなく、テナント企業の成長を支えるパートナーであることも忘れてはなりません。テナントがビジネスを展開しやすい環境を整えることで、長期にわたる良好な関係を築き、結果として安定した収益を得ることが可能となります。

そのためには、市場の動向をつねにチェックし、テナントの要望に柔軟に対応できるような経営戦略が求められるのです。

ビル経営のノウハウを身につけるには、実際に経験を積むことが何よりも大切ですが、専門家からのアドバイスやセミナーへの参加、関連書籍の読書などを通じて知識を深めることも有効です。ビル経営に関するノウハウは膨大で、学ぶべきことは尽きませんが、その分、軌道に乗ったときの達成感は大きいでしょう。

退去・空室時のリスクが高い

メリットの項目で、ビル経営は空室率を比較的低く抑えられるとお伝えしましたが、一方で空室が発生したときのリスクは無視できません。ビルを所有している以上、テナントが退去することは必ず起こり得る事態です。

とくに商業ビルは景気の影響を受けやすく、経済が低迷すれば企業は店舗の縮小や事業の縮小といった手段に出ることになります。新型コロナが流行したときにも見られたように、不測の事態で一気にテナントが退去するリスクもあり得るでしょう。

空室期間に発生する費用はオーナーの負担となります。賃料収入がないにもかかわらず、固定資産税や管理費、ローン返済などの支出は続くことになるので注意が必要です。賃料収入が途絶えるだけでなく、次のテナントを見つけるための広告費や仲介手数料、リフォーム費用などの追加出費も発生します。とくに、新規にテナントを募集する際には、市場のニーズに合わせて内装や設備へ投資が必要になることもあり、予想以上に経費を圧迫する可能性があります。

こういったリスクを最小限に留めるためには、日ごろから物件の魅力を高められるようメンテナンスを行う、市場の動向を敏感に捉えて賃料を改定するなどといった活動を継続的に行い、入居者が途絶えないよう工夫する必要があります。

固定資産税等の減免措置を受けられない

ビル経営を行う際にはさまざまな税金の支払いが発生しますが、その中でもとくに注意が必要なのが固定資産税です。

固定資産税は、所有している不動産の価値に応じて毎年支払う税金で、その金額はビルの規模や立地、築年数によって変動します。ビル経営者にとっては避けて通れないコストの一つです。

一般的に、新築住宅は固定資産税の軽減措置を受けられることが多いですが、ビルのような商業用不動産にはこのような減税措置が適用されることは稀です。結果として、ビル経営者は高い税負担に直面することになります。

さらに、ビルの大きさが増すほど、固定資産税の負担も大きくなるのです。これは、税金が不動産の価値に比例して計算されるため、大規模なビルほど高額な税金が課せられるからです。

また、一般的な認識として、ビルの築年数が経過するにつれて、その評価額が下がり、結果として固定資産税も低くなると考えられがちです。しかし、この見方は必ずしも正しくありません。なぜなら、ビルの位置する地域の地価が上昇すれば、評価額が上がり、税額も増加する可能性があるからです。

このような変動を見越して、ビル経営者は経営計画を慎重に立てる必要があります。固定資産税を含む税金の支払いは、ビル経営の成功において避けては通れない道です。そのため、税金に関する知識を深め、適切な対策を講じることが不可欠となります。例えば、税理士や不動産の専門家と密接に連携し、税負担を最小限に抑える戦略を立てることが賢明でしょう。

節税対策は、経営の効率化だけでなく、長期的なビジネスの持続可能性にもかかわる重要な要素です。税金で損をしないためにも、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。フィル・カンパニーでは、土地のポテンシャルを最大限に引き出し、収益性を高めるお手伝いをいたします。

ビル経営の収益・利回りをシミュレーション

ビル経営の収益と利回りをシミュレーションするにあたって、まずどのような支出と収入があるか知りましょう。

支出一覧

ビル経営の支出項目にはどんなものがあるでしょうか。ビル経営の支出は大きく「初期費用」「維持管理費」に分かれます。賃貸住宅などと比べて、ビル経営ではどちらの費用も高額になる傾向があります。

それぞれ以下で解説します。

ビル経営の初期費用

ビル経営を始めるにあたり、大きな壁となるのが初期費用の問題です。土地を所有していない場合、まず土地の購入費用が大きな負担となります。土地の価格は立地条件や市場の動向によって大きく変動し、中心街や商業地ではとくに高額になる傾向があります。

一方、相続などで土地をすでに持っている場合でも、ビル設計に多額の費用がかかります。設計費用には、建築計画、基本設計、実施設計、工事監理などが含まれます。建設費には、建築資材のコスト、労働力の費用、建築機械のレンタル料などが含まれ、これらは建築プロジェクトの規模や複雑性に応じて大きく変わります。小規模なビルでも数千万円を要し、大規模なビルでは数億円という莫大な費用が見込まれることも珍しくありません。

さらに、建設費以外にも、登記費用や仲介手数料などの法的手続きに関わる諸経費がかかります。初期費用は、小規模なビルでも数千万円、大規模なビルであれば数億円にも上り、多くの場合、自己資金だけでは賄いきれません。

そのため、金融機関からの融資を受けるか投資家からの出資を募るなど、外部資金の調達が不可欠となります。金融機関からの融資を受ける際には、返済計画やビル経営における将来の収益性をしっかりと示すことが求められます。

また、投資家からの出資を募る場合には、投資家にとって魅力的なリターンが見込める事業計画を用意する必要があります。

ビル経営の維持管理費用

初期費用に次いで重要となるのが維持管理費用です。維持管理費用には、日常の清掃や保守点検、設備の更新、修繕費用などが含まれます。これらの作業は、ビルを安全で快適な状態に保つために不可欠であり、日々の運営において欠かせない業務となります。

とくに、電気設備やエレベーター、空調システムなどの機械設備は、定期的な保守点検が必要です。これらの設備が適切に機能していない場合、テナントからのクレームの原因となるだけでなく、重大な事故や故障のリスクを高めることになりかねません。

さらに、災害や事故に備えた保険料も重要です。地震や火災などの不測の事態に対する備えは、ビル経営において見過ごされがちですが、いざという時に経済的な負担を軽減するためには必須です。

これら維持管理費用の総額は、ビルの規模や築年数、立地条件などによって大きく変動します。新築ビルの場合は最新の設備が導入されているため、初期の保守費用は比較的低く抑えられることがありますが、築年数が経過するにつれ、設備の老朽化に伴う修繕費用が増加する傾向にあります。

収入一覧

それでは次に、ビル経営の収入にかかわる項目を見ていきましょう。ビル経営におけるおもな収入源は賃料収入です。

その他にもさまざまな施策を講じることで副収入を見込むことができます。それぞれ見ていきましょう。

ビル経営の主収入

ビル経営における主収入は、言うまでもなくテナントからの賃料収入です。

また、テナントとの契約内容によっては、共益費や駐車場の使用料、広告掲出料などが別途収入として見込める場合もあります。収入を最大化するためには、ビルの立地やテナントのニーズを正確に把握し、適切な賃料を設定しましょう。

ビル経営は景気や社会情勢によって左右されやすく、賃料収入を安定させるためにはテナントの業種の多様化をはかることも重要です。オフィスビルであれば、IT企業やコンサルティングファーム、法律事務所など、様々な業種のテナントを入居させることで、一業種に偏った場合のリスクを分散できます。

さらに、ITの普及とリモートワークの増加により、オフィスの需要が変化しています。従来の大規模オフィスが必要ない企業も増え、ビル経営者は柔軟なスペース提供や共有オフィスの提供など、新しいニーズに応えるべく工夫する必要があります。

また、ビジネスモデルの多様性もビル経営の成功には不可欠です。飲食店や小売店、サービス業など、BtoCのビジネスを展開するテナントも積極的に取り込むことで、ビルの魅力を高め、訪れる顧客の増加を見込むことができます。

このような多角的な経営戦略は、特定の業種や市場の変動に左右されにくい安定した経営基盤を構築するためには不可欠なのです。

ビル経営の副次収入

テナントからの賃料収入は基本的な収益源ですが、賃料収入に加えて、副次収入を得ることも可能です。たとえば、ビルの一角に広告スペースを設けることで、追加の収益を生み出すことができます。ビジュアルに訴える大型の看板広告であったり、ビルの壁面を活用したデジタルサイネージ広告であったりと、形態は多岐にわたります。

また、ビルの屋上や空きスペースを携帯電話会社に基地局として貸し出すことも一般的です。とくに都市部で需要が高く、ビル所有者にとっては魅力的な収益源となります。

さらに、ビル内にATMコーナーや自動販売機を設置することで、機器の使用料や売上の一部を収入として得ることができます。ATMコーナーはビルを利用する人々にとって便利なサービスであり、自動販売機は24時間稼働することから、収益性の高い副次収入源となり得ます。

加えて、イベントスペースを設けることで、ビルは単なるオフィススペースを超えた多目的な利用が可能となります。期間限定のポップアップストアや展示会などのイベントを開催することで、イベント主催者からのレンタル料を得ることができるのです。これにより、ビルはコミュニティの活性化にも貢献し、ビル自体のブランド価値を高めることが可能になります。

収益のシミュレーション

ビル経営(賃貸テナントビル)の収支めやす(初年度)

■初期投資額

項目 費用
建築工事代金 建築本体工事費 7,560万円〜9,240万円
付帯工事費 756万円〜924万円
諸費用
(設計監理費、建築確認申請、登記費用等)
1,134万~1,386万円
地盤改良工事 必要に応じて発生
合計 9,450万円〜1億1,550万円

 

■収入

賃料 月額 フロア数 か月 年間賃料
30万2,000円 4 12 合計 1,451万5,000円

 

■支出

管理手数料(年) 72万6,000円
修繕費(初年) 7万6,000円〜9万2,000円
租税公課(年) 128万5,000円〜157万1,000円
合計 208万7,000円〜238万9,000円

 

■初年度収支
1,212万6,000円〜1,242万9,000円

<下記の条件で計算した場合>

  • 都内近郊(集積度中程度)
  • 鉄筋コンクリート造、4階建て、事務所用途
  • 坪単価90万円~110万円
  • 1棟4フロア、施工床面積84坪(貸床面積67坪)、レンタブル比80%
  • 付帯工事費10%、諸費用15%
  • 賃料坪単価18,000円
  • 管理手数料5%、修繕費0.1%、租税効果1.7%
  • 満室を想定

ビル経営の種類

ビル経営にはさまざまな種類があります。その多くは、交通の便がいい場所に位置し、人々が集まりやすいよう設計されています。

大きくは「オフィスビル」と「商業ビル」に分かれます。そのうち「商業ビル」は、多種多様なテナントを入れる「ミクストユース型」と、同じ業種のテナントを入れる、たとえばファッションビルや医療ビルのような「単一業種型」に分かれます。

ここでは、下記の4つを例にとって、詳しく説明していきます。

  • オフィスビル
  • 商業ビル
  • ファッションビル
  • メディカルビル

オフィスビル

オフィスビルは、企業のオフィス需要に応えることで安定した収益を見込むことができるビジネスモデルです。構造的な特徴としては、仕切りの少ない広い部屋がいくつかあり、トイレや給湯室といった共有施設が設置されています。オフィスビルのメリットは、長期的な契約が見込める点です。とくに大企業であれば、業績の悪化などがない限り企業が頻繁に拠点を変えることは考えづらく、安定的な収益が見込めます。

企業がオフィスとして使いやすい物件を提供することが重要です。
具体的には、アクセスの良さがまず筆頭に挙げられます。最寄りの駅から徒歩圏内であること、主要な交通網に近いことが望まれます。次に、ビルの構造やレイアウトですが、柔軟な間取りや、必要に応じて部屋を分割・統合できる機能性を持つことが重要です。
また、企業が求めるセキュリティシステムやネットワーク環境など、最新の設備が整っていることも、テナント探しにおいて大きなアピールポイントになります。また、コンビニエンスストアや飲食店など、従業員の利便性の高い店舗を入れる事も魅力に繋がります。

オフィスビル経営は、単に空間を貸し出すだけではなく、テナント企業が快適に業務を行える環境を整えることが求められます。そのためには、経営者側が市場のニーズをつねに把握し、時代に合ったサービスを提供し続けることが不可欠です。

商業ビル

商業ビルは、飲食店や小売店、サービス業などの商業施設が入るビルです。オフィスビルよりも賃料を高く設定できるのがメリットです。

商業ビル経営は、多種多様な店舗が集まることで、一つの商業施設としての魅力を発揮します。消費者が求める「ショッピング」「食事」「娯楽」といった機能を一堂に集めることで、集客力を高め、地域のランドマークとしての役割を果たすことができます。とくに、人通りが多い繁華街や、交通の便が良い場所に立地している場合はその効果は絶大でしょう。

商業ビル経営の成功の鍵は、テナントの質と多様性にあります。ファッションや雑貨、レストラン、カフェ、美容院など、さまざまな業種の店舗をバランスよく配置することで、幅広い層の顧客を惹きつけることができます。また、季節ごとのイベントやフェアを企画することで、リピーターを増やし、継続的な集客を目指すことも重要です。さらに、商業ビル経営を行う上で、テナントとの良好な関係を築くことが非常に重要です。

テナントからのフィードバックを積極的に取り入れ、ビル全体のサービス向上に努めることで、テナントの満足度を高めることができます。これにより、長期的な契約を結ぶことが可能となり、経営の安定化につながります。

ファッションビル

ファッションビルとは、主にアパレルショップやアクセサリー店、雑貨店など、流行のファッション関連商品を扱うテナントが集まる商業施設のことです。若者を中心に幅広い年齢層のお客様が訪れ、最新のトレンドを取り入れたショッピングを楽しむことができる場所として人気があります。

ファッションビルの最大の特徴は、その時々のファッショントレンドを反映したショップが多く入居している点にあります。ファッションビルを経営する上での魅力は、流行に敏感な顧客層を確実に捉えられることでしょう。とくに若者をターゲットにしたファッションビルは、新しいスタイルやブランドをいち早く取り入れることで、常に新鮮な魅力を提供し続けることが可能です。さらに、季節のイベントやセールを積極的に行うことで、顧客のリピート率を高めることも期待できます。

ファッションビル経営の成功には、トレンドを把握し、その地域特有のニーズに合わせたテナント構成が重要となります。例えば、若者向けのファッションブランドや、地域に根付いた人気の雑貨店など、多様なショップをバランスよく配置することで、幅広い顧客層を惹きつけることができます。また、定期的なリニューアルやイベントの開催により、新鮮さを保ち続けることも大切です。

メディカルビル

医療専門ビル、通称メディカルビルは、医療関係のテナントが多く入居するビルのことです。近年の健康志向の高まりと医療需要の増大に伴い、医療ビルは注目を集めています。一般的なオフィスビルや商業ビルとは異なり、メディカルビルは医療関係者だけでなく、患者やその家族が頻繁に利用します。そのため、交通の便が良い場所に立地していることが不可欠です。

また、病院やクリニックが集まることで、シナジー効果を生み出し、患者さんにとっても選択肢が広がるメリットがあります。たとえば、クリニックの他に調剤薬局が入居していると、利用者の動線がスムーズになります。
さらに、テナントとなる医療機関のニーズに合わせた設備やレイアウトが求められます。例えば、大型の医療機器を設置するためのスペースや電力供給、院内感染を防ぐための換気システムなど、専門性の高い設備投資が必要になることがあります。

また、患者さんの利便性を考え、車椅子での移動がしやすいバリアフリー設計や、リラックスできる待合室のスペース作りも重要です。医療機関をテナントとするビル経営には、専門性が高く、長期的な視点での運営が求められますが、社会的なニーズが高まっている分野であり将来性も期待できます。

失敗しない!ビル経営成功の秘訣

多額の投資が必要なビル経営だけに、失敗だけは避けたいもの。ビル経営を成功させるには綿密な計画が必要です。とくに安定的なビル経営を行う上で欠かせないポイントについてまとめてみました。それぞれ見ていきましょう。

自己資金の準備(返済リスク対策)

ビル経営を始める際、自己資金を準備しておくことが大切です。多額の資金を必要とするビル経営では、すべてを自己資金で賄うのではなく、銀行など金融機関から融資を受けることが一般的ですが、それには返済リスクが伴います。テナントの退去に伴い空室期間が発生した場合、収入が減り、借入金の返済が難しくなる恐れもあるでしょう。

そんなとき、自己資金をある程度準備しておくことで、金融機関からの融資額を減らし、返済負担を軽減することができます。また、自己資金の比率が高いと、金融機関からの評価が上がります。信用度が高まることで、より低い金利や長期の返済期間といった、有利な融資条件を引き出すことが可能になるかもしれません。金融機関はリスクを嫌うため、自己資金が多いプロジェクトは、返済能力が高いと判断される傾向にあります。

さらに、長期的な視点でビル経営を考える際には、将来的な大規模修繕やリニューアルに必要な資金を積み立てておくことが大切です。このように、ビル経営を始める際には、自己資金の準備だけでなく、将来の資金計画、リスク管理、リザーブファンドの設置といった多角的な視点からの資金戦略が求められます。

貸出ルールの策定(テナントトラブル対策)

トラブルを未然に防ぐためには、貸出ルールを策定することが重要です。まずは、契約書に明確なルールを定めましょう。例えば、賃料の支払期日、共益費の取り決め、敷金や保証金の扱い、契約期間や更新条件など、テナントとの関係における基本的なルールを設定し、双方の同意のもとで契約を結びます。
また、テナントがビジネスを行う上でのルールも必要です。営業時間、看板の設置条件、店舗改装のルール、共用部分の使用方法など、ビルの価値を守りながらテナントが円滑に事業を行えるよう配慮することが求められます。さらに、トラブルが発生した際の対応プロセスも明確にしておくことが肝心です。

例えば、騒音やゴミの問題、設備の故障などに対する連絡体制、対応フローを事前に決めておくことで、迅速かつ適切な対応が可能となります。ビル経営を成功させるためには、こうした細かなルール作りが不可欠です。しかし、ルールを策定するだけではなく、テナントに対してもその理解と協力を得ることが重要です。そのためには、オーナー自らがコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことが欠かせません。信頼されるオーナーであれば、テナントもルールを守りやすくなり、結果的にビル経営がスムーズに行われるでしょう。

信頼できるパートナーを見つける

ビル経営においては、多岐にわたる専門知識が必要となります。そのため、全てを一人で行うのは非常に困難です。成功へと導くためには、信頼できるパートナーを見つけることがカギとなります。パートナーとは、不動産会社、建築会社、税理士、弁護士など、ビル経営に関わるさまざまな専門家を指します。これらの専門家との連携を通じて、ビル経営のリスクを最小限に抑え、効率的な経営を実現することができます。

たとえば、テナントの誘致や管理を行う不動産会社を選ぶ際には、その地域に精通しているか、信頼できる実績があるかなどを確認することが重要です。また、建築やリフォームを依頼する際には、コストパフォーマンスやアフターサービスの質を見極めることが求められます。税理士や弁護士についても、ビル経営に関する豊富な経験と知識を持つ者を選ぶことが望ましいでしょう。

これからビル経営を始める方や、さらなる経営の発展を目指している方は、ぜひパートナーを見つけることを検討してみてください。
パートナー選びに迷った際には、フィル・カンパニーへのご相談をおすすめします。

この記事の監修者

垣内 典之

株式会社 PROPUP 代表取締役/一級建築士

石川県金沢市出身。千葉大学大学院修了(建築学)。建築設計監理からキャリアをスタート、環境性能に係る設計審査業務、企業不動産(CRE)戦略、ファシリティマネジメント(FM)コンストラクションマネジメント(CM)等を経験。建築・不動産・ITを横断的に繋げ、高次元のプロパティ・マネジメントを実現するべくPROPUPを設立。

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