フィル・パークマガジン 商業ビル経営、儲かる人と失敗する人―アパート・マンション賃貸経営と収入や年収はどう違う?

商業ビル経営、儲かる人と失敗する人―アパート・マンション賃貸経営と収入や年収はどう違う?

「商業ビルの経営なんて、大手企業にしかできない」そう思い込んでいる個人の土地オーナーの方は少なくありません。しかし実際には、個人でも工夫次第で十分に成功が見込めるビジネスなのです。なぜなら、アパート・マンション経営と比べて賃料を高く設定でき、テナントの原状回復費用負担も少ないなど、収益性を高めやすい特徴があるからです。
本記事では、商業ビル経営の基礎知識から成功のコツまで、具体的な事例を交えながら徹底解説します。これにより、あなたの土地を最大限に活かした収益性の高い資産運用の道筋が見えてくるはずです。
商業ビル経営って何?アパート・マンション経営と何が違うの?
そもそも商業ビル経営とは、一般的なアパート・マンション経営とは何が違うのでしょうか。商業ビルの特徴をふまえながら、見ていきましょう。まずは、様々な商業ビルの種類から見ていきましょう。
商業ビル経営の種類
商業ビルとは、店舗やオフィス、事務所などのテナントが入居するビルのこと。商業ビル経営とは、不動産活用の一つで、オーナーが商業ビルを建設し、その物件をテナントに貸し出すことで賃料収入を得るビジネスモデルのことをいいます。
商業ビル経営は、長期的かつ安定的な収益を見込める事業として注目されています。もちろん、空室率や市場動向によって収益は変動しますが、適切に管理すれば安定した収入源となるでしょう。
商業ビル経営にはいくつかの種類があります。
商業系不動産と住居系不動産
そもそも、不動産の大きなカテゴリーとして「商業系不動産」と「住居系不動産」があります。
住居系不動産は、入居者が「居住するため」のアパート・マンション・戸建て住宅などを指し、商業系不動産は、入居者(テナント)が「事業で収益を上げるため」の活動のために使用される不動産のことをいいます。
商業系不動産は、さらに以下の種類に分類されます。
オフィスビル
オフィスビルは、オフィス業務を主な用途として建てられた建築物です。一般的に、ビルといえばオフィスビルのことを指します。世界的にも、主要都市の景観は林立するオフィスビルで占められており、都市にはなくてはならない建築物になっているといえます。セキュリティ面やフロア構成もオフィス向けに特化していることが特徴です。
テナントビル
テナントビルはテナントが入るビルですので、自社ビル(会社が所有するビル)との対比で使われる言葉です。「貸しビル」ということになりますが、オフィスビルとの対比では店舗が入るビルという意味で使われることもあります。
テナントには飲食店や喫茶店、美容院、アパレルショップ、クリニック、スポーツジムなど様々な業種があります。また、オフィスが入ることもあります。近年では、クリニックや歯科医院のみが入居するメディカルビル、学習塾やスポーツ教室のみが入る教育特化ビルなどコンセプトが明確なテーマ型テナントビルも登場しています。
店舗
テナントビルのように複数のテナントが入居するものではなく、単独の店舗が入る不動産を所有し、賃貸するケースもあります。コンビニエンスストアなどが典型です。
商業施設
商業施設とは、商品やサービスを提供して対価を得る事業を営む施設のことを指しますが、近年では複数の店舗が集まった複合商業施設のことを指す場合が多くあります。
郊外に広大な土地を有し、ショッピングセンターや飲食店、遊技場などが入居しているケースがあります。また、大規模な商業施設では年間を通じたイベント開催や定期的なリニューアルにより、集客力を維持しています。
ホテル・旅館
ホテル・旅館などの宿泊施設を所有し、運用する土地活用方法です。オーナーがホテルを直接経営する方式もありますが、外部の会社に運営を委託する方式もあります。メンテナンスや運営コストが高くなる傾向がありますが、収益性も高い傾向にあります。
倉庫
倉庫を所有し、賃貸する投資方法もあります。近年では、インターネットショッピングの流行により、倉庫需要が拡大傾向にあるため、注目されている土地活用方法です。比較的メンテナンスコストが低いことが特徴です。
個人でも商業ビルは建てられる
個人が行う土地活用は、アパート・マンションなどの住居系不動産が一般的となっているため、商業ビルの経営は専業の法人が行うものと思っている方も多いのではないしょうか。
しかし、商業ビル経営を個人投資家が行ってはならないという決まりなどなく、個人でも商業ビル経営は可能です。特別な資格が必要ということもなく、「自ら貸主」という取引態様なので、宅地建物取引業の免許が必要ということもありません。
先述したオフィスビルや商業施設などは、土地の面積や建物の容積も大きいものが多く、購入額も高額になりがちです。そうしたことから、これらのオーナーは個人よりも法人が多いことは事実ですが、小規模の商業ビルであれば個人でも運用は十分可能です。
メディカルビル、教育特化型ビル、複合商業施設など、商業ビル経営には様々な可能性が広がっています。しかし、成功への道筋は立地選びやテナント選定など、多くの要素が関係してきます。個人経営の商業ビルオーナーを多数輩出してきた土地活用のプロフェッショナルにまずはご相談ください。
商業ビルのオーナーになるには
それでは、個人が商業ビルのオーナーになるには、どのようなプロセスを経るのでしょうか。すでに土地を所有している方が、商業ビルのオーナーになる方法を解説します。
地主が商業ビルのオーナーになるには、自己資金で始める方法と建設協力金を使って始める方法の2つがあります。それぞれ大まかな流れを見ていきましょう。
自己資金で始める
自己資金で始める方法は、大まかに説明すると所有する土地に建てる建物の建築を建築会社に発注し、管理会社にテナント入居付けと管理を委託するという方法です。
なお、初期費用のすべてを保有する自己資金でまかなう方法と金融機関のローンを活用する方法があります。ここでは、融資を活用する方法も含めて解説します。
不動産会社・建築会社への相談
地主が商業ビルを建てたいと考えたのならば、初めに不動産会社、または建築会社に相談をすることになります。
不動産会社はプランニング、設計、建築工事の発注、各種契約の段取り、金融機関とのやりとり、竣工後の物件管理、テナント募集などを手配してくれます。
建てる商業ビルのイメージが固まっており、建築にともなう各種の段取りをオーナー自身が行うのであれば、直接建築会社に相談することをおすすめします。建築会社には、工務店、ハウスメーカー、ゼネコンなどがありますが、自分が建てたい商業ビルのイメージに近い建築会社に選ぶのがいいでしょう。
プランニング
不動産会社・建築会社と予算や希望を相談し、プランの提案を受けます。複数の会社に相談してもいいでしょう。各階のフロア構成や用途について具体的に決めることが重要です。また、将来的な収益を見込めるプランを考えることが重要です。
建築会社の決定
提案・見積もりを比較検討して、建築会社を決定します。建築会社が決まったなら、プランの細部を詰めていき、最終的に確定させていきます。
金融機関と融資の相談
金融機関の融資を受ける場合は、同時並行して金融機関と相談します。融資が実行されるまでは仮審査・本審査があり、一定の日数が必要となります。
テナント募集
プラン確定と同時にテナント募集を開始する方法もあります。竣工してから不動産仲介会社にテナント募集を依頼すると、空室期間を生み出すことになるので、効率的なビル経営のためには早めのテナント募集が重要です。
引渡しと経営の開始
入居するテナントと賃貸借契約を結び、建物管理・入居者管理を行う管理会社を決め、物件の引渡しを受けて商業ビルの経営開始となります。
建設協力金を使って始める
もう一つの方法が、建設協力金を集めて始める方法です。
建設協力金とは、その土地への出店希望者であるテナントから無利子で融資を受ける建物の建設資金のことを指します。地主はその資金で自己所有の商業ビルを建築し、テナントに賃貸します。建設協力金は賃貸借契約の保証金となり、毎月の賃料から相殺していくことでテナントに返還する形を取ることが一般的です。この方式は、リースバック方式とも呼ばれます。
不動産会社に相談する
建設協力金方式を採用するには、まずデベロッパーである不動産会社に相談します。テナントが集まりそうな立地条件の良い土地の場合は、不動産会社が建設協力金をまとめてくれる可能性があります。無料相談を受け付けている会社も多いので、いくつか当たってみると良いでしょう。
建設協力金方式の特徴
竣工・引渡しまでは基本的に自己資金方式と同様ですが、建設協力金方式の特徴としてテナントありきのビル建築となるため、プランニングにテナントが参加することなどが挙げられます。
例えば、テナントがカフェである場合、ガラスを多用した開放的なデザインを希望することなどがあり、そのテナントの希望に沿ってプランが進行することになります。店舗向けや事務所向けなど、用途に応じた設計が必要です。
なお、テナントが契約期間前に退去してしまった場合は、建設協力金を返還しない特約を設けるのが一般的です。
商業ビル経営に向いている土地
商業ビル経営を成功させるには、立地が何よりも重要です。商業ビルの種類によって向いている土地は変わりますが、一般的には次のような土地が向いているといえるでしょう。
都心に近い土地
東京23区、横浜市・名古屋市・大阪市・仙台市・福岡市など政令指定都市の中心部、各県庁所在地など、ビジネスや娯楽などで人口の密集する都心部は商業ビルに向いているでしょう。
都心部に位置し、さらに駅に近ければなお条件が良いといえます。駅に近いエリアは人通りが多くなり、人通りが多ければテナントの店舗に入店する人も多くなります。テナントの商売がうまくいけば、ビルオーナーも成功するわけです。
大通りに面している
土地が都心部ではなく郊外にあったとしても、交通量の多い大きな道路に面している土地であれば、ロードサイド型の商業ビルとして成功する可能性があります。
このケースでは、車で来店することを前提とした商業施設づくりを心がける必要があり、駐車場のスペースを余裕を持って用意するなどの工夫が必要です。居住エリアに近い立地であれば、地域住民向けのサービスも提供しやすくなります。
商業ビル経営のメリット
商業ビル経営には、どのようなメリットがあるでしょうか。以下の6点にまとめて解説します。
- 賃貸住宅などより賃料を高く設定できる
- 建築基準が厳しくない、自由度が高い
- 収益性が高い
- 原状回復工事費用をオーナーが負担しなくても良い
- 相続税対策になる
賃貸住宅などより賃料を高く設定できる
商業ビルの賃料は、アパート・マンションなど賃貸住宅の賃料を大きく上回るのが一般的です。
商業ビルはテナントの収益事業のために提供されるので、付加価値を生む場と考えられます。一方、住居系不動産は生活の場という位置づけです。その差が賃料の差となって現れます。商業ビルの場合、各フロアごとに用途が異なり、それに応じた賃料設定が可能です。
住居系不動産は生活の場という認識があるために、好景気になってもすぐに賃料上昇へとは結びつきません。借地借家法には賃料増減請求権が定められているため、オーナーには現行賃料が不相当となった場合には借主に賃料増額請求ができますが、現実には入居者が退去したときか契約更新時でないと難しい状況があります。
それに対し、商業ビルの賃料は景気動向の影響をダイレクトに受けます。好景気・インフレともなれば、賃料はそれにつれて上昇する傾向にあります。商業ビルの場合は、オーナー側からテナント側への賃料増額の交渉がビジネスライクに可能です。
建築基準が厳しくない、自由度が高い
アパート・マンションなどの賃貸住宅の場合、法令上の制限により、所有する土地に自由に建物を建てられないことがあります。
アパート・マンションは建築基準法において「共同住宅」と定義されていますが、共同住宅は一般の建築物より厳しい「特殊建築物」の制限を受けます。例えば、接道義務に関しては建築基準法だけでなく地方公共団体が独自に定める条例の制限も受けます。また、住宅は開口部の面積についての規制もあり、原則として地階の居室も作れません。
商業ビルは特殊建築物には該当しません。建築基準法の要件も緩いため、建築の自由度が高いといえるでしょう。
用途地域が商業地域や近隣商業地域で駅近くの優良な立地でも、賑やかすぎて賃貸住宅の建築に向いていない土地もあります。商業ビルの場合は、周辺環境から受ける影響も少ないので、立地の制約はあまりありません。
収益性が高い
商業ビル経営は、その収益性の高さから多くの投資家や不動産オーナーの注目を集めています。テナント賃貸料収入は、安定したキャッシュフローを生み出し、長期にわたって安定した運用が可能です。また、テナントからの賃料以外にも、広告スペースの貸し出しやイベントスペースの運営など、商業ビルならではの収益機会が豊富に存在します。
原状回復工事費用をオーナーが負担しなくても良い
商業ビルの場合、テナント退去時の原状回復工事にかかるコストを全額テナント負担としている契約が多数となっています。そのため、オーナーはテナントの入退去時に工事費用の負担がありません。
アパート・マンションなどの賃貸住宅では、入居者退去時の原状回復について、どこまで入居者が工事費用を負担し、どこまでオーナーが負担するかトラブルとなることが多くありました。トラブル多発を受けて、国土交通省は『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を策定し、入居者の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損については入居者負担とし、経年変化や通常の使用による損耗についてはオーナー負担とする原則が示されました。
商業ビルに入居するテナントの場合、店舗のコンセプトに合わせて内装・外装工事を施すことがあり、スケルトン物件(内装がなく駆体だけの物件)も少なくないため、原状回復工事はテナント側の負担になる事例が多くなっています。
ただし、原状回復工事費用の負担に関しては、詳細に定めておかないとトラブルのもととなりますので、賃貸借契約時に特約として明記しておく必要があります。もちろん、契約書は専門家に相談して作成することが望ましいでしょう。
出典:国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf
相続税対策になる
地主が一定の資産を保有している場合は、将来的に相続が発生したとき相続人に莫大な相続税が課税されてしまうことが予想されます。相続税は最大55%課税されるため、資産家が無防備でいると資産を大きく失うことにもつながりかねません。不動産投資に関する悩みは税金対策が主なものの一つです。
商業ビル経営を行うと相続税対策になります。相続税対策ができるおもな理由は、資産を不動産に組み換えることで評価額を圧縮できる点にあります。相続税を計算する際、現金や預貯金、株式などの相続税評価額は実勢価格100%とされますが、不動産はその評価額を圧縮することが可能となるため、効果的な節税策として役立ちます。
不動産は土地部分と建物部分でそれぞれ計算され、土地部分の相続税評価額は路線価方式または倍率方式によって決まります。また、建物部分は固定資産税評価額によって決まり、それぞれ実勢価格の60~70%程度に圧縮されます。
土地部分の相続については、「小規模宅地等の特例」もあり、貸付事業用宅地等に該当する土地の場合は、200平方メートルまでの部分について50%の減額となる規定があります。
さらに所有する不動産を賃貸することによって、オーナーが利用できる自由度が下がることから、「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」の分だけ評価額がさらに下がります。
商業ビル経営は、収益性の高さや建築の自由度に加え、相続税対策としての効果も見逃せません。土地と建物の評価額圧縮や小規模宅地等の特例など、適切な知識があれば、最大55%にもなり得る相続税負担を大きく軽減できる可能性があります。相続税などの対策とあわせて商業ビル活用を検討されている方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
商業ビル経営のデメリット
一方、商業ビル経営にはデメリットも存在します。
初期費用が高額になりがち
商業ビルの規模にもよりますが、一般的に商業ビルの建築費用は、アパート・マンションのそれよりも高額になります。物件によっては、高額なものだと数億から数十億という単位になるため、不動産投資に踏み切るには慎重にならざるをえないということになります。
また、金融機関からの融資を予定していても、審査基準はかなり厳しいものになるため、審査を通過できず活用ができないという状況に至ることもあります。
所有する土地が優良な立地であり、テナント希望者を多数集めることができ建設協力金を豊富に募ることができればいいのですが、そうではない場合、地主がある程度余裕を持った自己資金を用意する必要があります。
立地に賃貸需要があるのか、エリアの将来性はどうか、テナントが退去したあとにリカバリーは可能かなど複数の視点で念入りにプランニングをする必要があります。
- ▼アパート経営か商業ビル経営か?比較したい方は、アパートの建築費や経営の基本を解説したこちらの記事がおすすめです。
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- ・アパートを建てるための費用はいくら必要?賃貸アパート経営の基礎知識を解説!
景気に左右される
好景気になると賃料が上昇する傾向にあることは述べましたが、逆にいうと不景気の際には賃料が下落することもあります。商業ビルなどの商業系不動産の賃料は、景気動向にダイレクトに影響を受ける傾向にあるのです。
この点も賃貸住宅の家賃とは好対照で、バブル崩壊やリーマンショックなどで不動産価格が暴落した際にも、賃貸住宅の家賃はあまり下がりませんでした。賃貸住宅は生活の場なので、景気が上下しようとも生活そのものがなくなることはないからです。
最近では新型コロナウィルスの感染拡大という出来事があり、リモートワークの普及でオフィスの縮小や撤退が相次ぎました。飲食店など店舗のダメージはさらに大きく、倒産件数も増加しましたが、その際にも商業ビル賃料は影響を受けました。
空室時のリスクが大きい
不動産の土地活用にとって空室リスクは最大のリスクですが、商業ビルの場合、一度空室が発生するとなかなか次の入居が決まらない傾向があります。空室期間中は賃料収入がゼロとなりますので、経営を直撃するのはいうまでもありません。
アパート・マンションなどの賃貸住宅でも空室リスクは避けられませんが、一定の条件が整っていれば次の入居者が決まるのはそれほど難しくはありません。賃貸需要があるエリアに建ち、時代にふさわしい間取り・設備が準備されていて、賃料が相場の水準であればじきに入居が決まります。
商業ビルの場合は、賃料が高いばかりではなく、保証金が高額であることも影響します。賃貸住宅の敷金は1~2ヶ月程度であり、最近は敷金ゼロも増えている中で、商業ビルのテナントの敷金(保証金)は6~12ヶ月が相場です。人気のあるブランド・エリアでは、24ヶ月というのもあるほどです。
とくに店舗面積の広いテナントが退去すると、賃料の減少が激しいだけでなく、次のテナントがなかなか埋まらないという難点も生じます。
固定資産税の減税措置が受けられない
固定資産税は、固定資産の所有者がその資産価値に応じて算定された税額を市町村に納める税金です。毎年1月1日現在、市町村の固定資産課税台帳に土地、建物、償却資産の所有者として登録されている者に課税されます。
標準税率は課税標準額の1.4%なのですが、住宅の場合、軽減措置があります。200平方メートルまでの小規模住宅用地ですと評価額の6分の1となり、200平方メートルを超え住宅の床面積の10倍までの一般住宅用地だと3分の1となります。
また、都市計画法で指定された都市計画区域のうち原則として市街化区域内に所在する土地・建物に対しては、都市計画税も課税されます。税率は課税標準額の0.3%ですが、こちらも住宅の場合、小規模住宅用地の場合評価額の3分の1となり、一般住宅用地だと3分の2まで軽減されます。
また、建物部分については新築住宅の特例があり、固定資産税額が2分の1となる軽減措置が戸建て住宅で3年間、マンションは5年間続きます。
これらの軽減措置は住宅に限られるので、賃貸アパート・マンションであれば適用されますが、商業ビルでは適用されず標準税率で課税されることとなります。
商業ビル経営には高い収益を得る可能性がある一方で、初期費用の高さ、景気変動の影響、空室リスクの大きさ、税金負担など様々な課題があります。十分な情報と知識を持ち、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。
- ▼ マンション経営が向いているという方は、まずコンセプトをしっかり考えて経営しましょう
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商業ビル経営、成功しそうなのに失敗する人
以上解説してきた商業ビル経営のメリット・デメリットを事前に知っておけば、投資の失敗を避けることは可能です。高額になりがちな初期費用を抑えるためには、ビルの大きさを小規模にしておくというのも手です。
ただ、それでも経営に失敗する人はいます。実際に様々な悩みを抱える方も少なくありません。商業ビル経営が成功しそうなのに失敗してしまう人について解説します。以下の点に注意すれば、失敗を回避できるでしょう。
「人通りが多い立地だからお客様は来るでしょ!」
人通りの多い都心部は商業ビルに向いていると述べましたが、そのことに安住し経営努力を怠ると商業ビル経営は失敗してしまいます。市場動向を見誤ると、高い空室率に悩まされることになります。
人通りの多い都心部がテナント需要のある土地だということを知っている人はあなただけではありません。そこに土地を所有している人はその事実を熟知しているわけであり、当然競合する物件が登場することになります。主要エリアであればあるほど、競争は激しくなります。
競合する物件があることを前提にしたうえで、どうやって差別化を図るかが勝負になるわけです。例えば、飲食店の多いエリアの中で、さらに飲食店のみのテナントのビルをオープンさせても勝ち筋は見えてこないでしょう。
商業ビルの差別化戦略については、専門家の意見を聞くことが重要になります。商業ビルのプランニングに長けたデベロッパーや建築会社とうまくタッグを組むことが大切です。
「来てくれるテナントは誰でもOK!」
「入居してくれるテナントはすべて受け入れる」というスタンスは危険です。空室ができたことで、ワラにもすがるような気持ちでテナントを受け入れてしまうと、のちのち賃料滞納が発生したり、他のテナントに迷惑をかけたりする入居者が入ってしまう可能性が高まります。適切なテナントを探すことは長期的に見るとメリットが大きいです。
定期借家契約によってリスクを下げることはできますが、契約期間中はトラブルが続くことにもなりかねません。
とくにテナントのコンプライアンス・チェックや信用調査は必ず行うようにしましょう。最悪のケースでは、反社会的勢力が入居することになり、自分が所有するビルで犯罪が起こる可能性があります。もし犯罪が発生して、マスコミなどで報道されるようなことが起これば、ビルの資産価値は大きく毀損されることになります。
入居者審査に実績と信頼のある管理会社と協力しながら、オーナー自身が毅然とした態度で審査を行うことが重要なのです。
「賃貸住宅に比べて管理が楽と聞くし管理費も最小限にしよう」
商業ビルのテナントは事業者なので、専有スペース内の管理は自分たちで責任を持って行うことになります。生活全般にわたる管理となるアパート・マンションなどの賃貸住宅の管理と比較すると、商業ビルの管理は比較的容易かもしれません。
だからといって、商業ビルの管理が必要ないということはありえません。顧客満足度を向上させるためのテナント管理・建物管理は必ず求められます。年間のメンテナンス計画を立てることが重要です。
利回りを上げることを目的として管理費を節約し、結果として質の悪い管理会社に管理を委託したために、テナントの評判が悪くなってしまうと空室が多発することにもつながりかねません。空室の発生は、収益の悪化と利回りの低下に直結します。逆に質の高い管理は、テナントリテンション(入居者保持)につながります。
その意味でも適正な管理費を支出することで、質の高い管理を実施することは商業ビル経営の基本といえるのです。
「商業ビルは綺麗じゃないと!内装や共有部も豪華にデザインしたい」
オーナー自身がデザインにこだわりを持ち、ビルの内装・外装工事を必要以上に豪華にしてしまうと、コストパフォーマンスが悪くなってしまうことがあります。
商業ビル経営も事業である限り、必要な視点はオーナーの「自己満足」ではなく、テナントの「他者満足」です。あくまで客観的な視点で、設計・施工を行うことが大事です。テナントのニーズに対応した機能的な設備を選ぶことが主なポイントです。
この点においても、専門家の意見に耳を傾ける態度が重要です。
商業ビル経営で「儲かる」コツ
では、商業ビル経営で成功するコツとは何でしょうか。様々な面から考えると、以下のポイントが特に役立ちます。
人通りの多い場所に土地を所有している
大切なことなので何度も述べていますが、商業ビルに向いている土地は、ビジネスや娯楽などで人口の密集する都心部です。このエリアに土地を所有している地主は、商業ビル経営で圧倒的に有利です。主要な通りに面している土地であれば、高い収益を見込めるでしょう。
もともと人気のエリアに土地を所有しているというのは、とても大きなアドバンテージだということです。その事実に気づくことが、何より重要です。
実はメイン通りではなく狭小地や裏通りでもOK!
「都心部に土地を持っているが、メイン通りに面していないから」という地主様もいます。ところが、裏通りや狭小地でもビジネスチャンスが眠っている可能性があります。
今ではすっかり有名になりましたが、「裏原宿」も最初はそうでした。原宿といえば、表参道や竹下通りがメインでしたが、比較的賃料の安いキャットストリート沿いに古着屋やアパレルショップが集中したことで人気に火がつき、そこが「裏原ブランド」となって若者を呼び寄せることになったのです。
競合テナントがいないからこそ人が集まる
人通りが多いエリアであっても、競合する店舗が数多くあると、せっかく出店してくれたテナントもすぐに撤退してしまう可能性があります。商業ビル経営においても差別化戦略が重要であることは、前に述べたとおりです。
空室率を低く保つためには、テナントの業種を注意して選ぶことが重要です。もちろん、市場動向を見極めることも欠かせません。
商業ビル経営の収益イメージ
小規模商業ビルの経営を具体的にイメージするために、公開情報から収益をシミュレーションしてみましょう。
サンプルとして、以下の条件の商業ビルとします。各フロアごとに用途を決めるなら、1階は店舗向け、上層階は事務所向けにすると良いでしょう。
- 立地は名古屋
- 1階あたり50坪(165平方メートル)
- 4階建てビル
- 総床面積200坪(660平方メートル)
たとえば、坪当たりの賃料を16,000円とすると、満室で320万円の賃料収入となります。
月の維持費用が賃料収入の約20%の53万円とすると、営業純利益は267万円となります。オーナーが現金のみの投資をした場合は、満室経営ができればこの金額が手残りとなります。
- ▼ 駅近に土地をお持ちの方は、ぜひこちらも参考にお読みください。
-
- ・駅近で成功する土地活用!特に収益性が高い活用方法TOP5と事例紹介
- ・ビル経営の虎の巻!成功のために押さえておきたいポイントを解説
アパート・マンション経営と商業ビル経営の違いは?
アパート・マンション経営と商業ビル経営の違いを対比してみましょう。
下記資料では、アパート・マンション経営の他にどのような土地活用があるかご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
アパート・マンション経営と商業ビル経営のメリット・デメリットを総合比較
一棟アパート経営、一棟マンション経営、商業ビル経営をそれぞれ項目別に比較してみます。一覧にすると以下のとおりです。
項目 | 一棟アパート | 一棟マンション | 商業ビル |
初期費用 | ○ | △ | × |
融資の審査 | ○ | △ | × |
収益性 | △ | △ | ◎ |
安定性 | ◯ | ◯ | △ |
原状回復の費用負担 | × | × | ◎ |
空室リスク | ◯ | ◯ | △ |
流動性リスク | ◯ | △ | △ |
初期費用
一般的に初期費用が大きいのは商業ビル、一棟マンション、一棟アパートの順になります。ローンの組み方によってコストの負担は異なります。
- ▼商業ビル経営に比べて小さいと言われる「アパート経営」の初期費用についてはこちら
-
- ・アパート経営の初期費用はいくら必要?成功率をアップさせるコツを徹底解説
融資の審査
金融機関から融資を受けるための審査基準は、物件価格の並びと同じ、一棟アパート、一棟マンション、商業ビルの順に難しくなります。
収益性
商業ビルのテナントはビジネスのために入居するので、賃料を高く設定でき、その分利回りは高くなるので収益性では一番有利になります。
安定性
一棟アパート経営、一棟マンション経営ともに最大のメリットは、賃料収入が景気動向に左右されることはなく安定していることです。商業ビルは事務所などビジネスの場ですが住居系不動産は住居の場となるため、景気動向によって賃料がすぐに上下することがないといえます。
原状回復の費用負担
一棟アパート、一棟マンションともに、原状回復をめぐる入居者とオーナーの負担割合においては入居者有利な傾向にあります。一方、商業ビルでは退去時の原状回復費用はテナント側の全面負担とする契約が有効です。
空室リスク
立地や物件によっても変化するのですが、商業ビルは一度空室が生まれるとダメージが大きく、埋めるのに苦労する傾向にあります。空室率が高くなると年間収益に大きく影響するため、テナント誘致に注意が必要です。
流動性リスク
流動性リスクとは、「売りたい時に売れない」リスクですが、物件価格が大きい分商業ビルはリスクが高く、そのあとに一棟マンション、一棟アパートの順番となります。市場の変化を見極めることが重要です。
- ▼経営しているマンションの建て替えを検討しているという方はこちらの記事も合わせてご覧ください
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- ・マンション建て替え費用完全解説!建て替えを検討する際に必要な情報を網羅
必要な土地の立地条件
アパート・マンション経営に適した立地は、賃貸需要があるエリアということになります。交通アクセスの要所である鉄道の駅が近い、商業施設・公共施設が近く利便性が高いなどの条件が揃っていれば有利といえるでしょう。また、競合物件が少ないという点もプラスされます。
都市部以外の郊外などでは、車社会になっている地域も多いので、駐車場が確保された物件もニーズがあります。
商業ビルに必要な立地は、都市の人口密集エリアであることが第一に求められます。商業ビルは生活の場ではなく、ビジネスの場なので、アパート・マンションよりも都市であることが必要といえるでしょう。主要な通りに面していると特に有利です。
ただし、ロードサイド型の商業施設も根強いニーズがありますので、慎重な市場分析の下に郊外の大通りに展開するという判断もありえるでしょう。
賃料の形態
アパート・マンション経営の賃料
アパート・マンション経営においては、賃貸借契約時に合意している賃料を入居者が月々支払うことになります。また、家賃とは別に共益費・管理費という名目で徴収することがありますが、これに法的な制限はなく、合計した額が賃料となります。
固定賃料
商業ビルの賃料の場合、賃貸住宅の家賃に相当する固定額の徴収を「固定賃料」と呼びます。これは、オーナーとテナントで合意した固定された賃料で、オーソドックスな賃料といえます。
歩合賃料
テナントの月々の売上に応じて賃料が歩合となって変動する賃料形態もあります。これを「歩合賃料」と呼びます。
歩合賃料は、ショッピングモールなど比較的規模の大きい商業施設に採用される傾向にあります。売上の大きいテナントの存在は、ショッピングモール全体の売上に貢献するため、このような賃料形態がとられます。
歩合賃料の場合は、オーナーがテナントの売上を正確に把握している状況でないと成立しません。テナントにとっては、売上の低下する月の賃料支払いの負担が軽減されるメリットになる一方、オーナーにとっては賃料収入が減少する事態となります。
なお、固定賃料と歩合賃料の併用型もあります。
光熱費の支払い
アパート・マンション経営では、電気は居室ごとに入居者が電気事業者と契約し、使用した分を電気料金として支払います。2016年に電力小売の完全自由化がなされ、アパート・マンションなど集合住宅の入居者でも電力会社を自由に選べるようになりました。
それに対し、商業ビルではオーナーと電力会社が一括契約を結び、オーナーが各テナントに電気料金を請求します。その際は、電力会社から高圧電力を一括受電し、各テナントに低圧に変換して提供する「高圧一括受電方式」が電気料金を節約でき、運営コストを低く抑えるために役立ちます。
高圧一括受電の料金メニューは電力会社によって異なるので、各社から見積もりを取って比較検討することが必要です。
ただし、高圧一括受電契約を結ぶには、ビル全体の電気消費量が50kWを超えている必要があります。
商業ビルの管理方法
アパート・マンション経営、商業ビル経営ともに、管理が重要であることは共通しています。管理が適正でないと、テナント(入居者)の顧客満足度が低下することで、空室リスクが増大し、結果的に物件の資産価値を下げることになります。
小規模なアパート・マンション経営の場合、オーナー自身が管理を行う「自主管理」のケースも散見されます。商業ビルでも自主管理は不可能ではありませんが、専門の管理会社に管理を委託することでビルの資産価値は保持されます。プロに任せることで様々な悩みに対応してもらえます。
商業ビルの管理は、テナント管理と建物管理に大別することができます。テナント管理では、賃料回収業務、保証金管理、クレーム対応業務、テナント審査、テナント契約業務、テナント募集などがあり、建物管理では、清掃・衛生管理業務、設備管理・設備保全業務、警備・防災管理業務、修繕業務などがあります。
また、商業ビルの資産価値の保持と向上を目指し、ビル経営そのものを代行するプロパティマネジメントという考え方もあります。
- ▼商業ビル経営とアパート経営の違いが分かる「アパート経営の基本知識」はこちらの記事をお読みください
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- ・アパートを建てる費用はいくら?建築費の内訳や予算別シミュレーションからアパート経営の基本まで
商業ビル経営、儲かっている人はプロと二人三脚している
以上、商業ビル経営の種類、アパート・マンション経営との違い、メリット・デメリット、成功するためのコツを解説してきました。商業ビル経営は個人でも十分可能であることを力説してきましたが、仕組みを理解しコツを踏まえておかないと失敗してしまうこともありえます。
商業ビル経営を成功させている人は、その道のプロフェッショナルと二人三脚を組んでいることが多いです。商業ビル経営を成功させる何よりも確実な道は、信頼できるパートナーを探すことといっていいでしょう。
適切なアドバイスを得ることで、収益を上げる可能性が高まります。
フィル・カンパニーは“まちのスキマを「創造」で満たす。” を合言葉に、特に商業ビルを用いた収益性の高い土地活用を提案し続けてきました。地主様の課題解決のためにできることがあると信じていますので、商業ビル経営に少しでも関心のある地主様は、ぜひ私たち「フィル・カンパニー」に相談してください。
垣内 典之
株式会社 PROPUP 代表取締役/一級建築士
石川県金沢市出身。千葉大学大学院修了(建築学)。建築設計監理からキャリアをスタート、環境性能に係る設計審査業務、企業不動産(CRE)戦略、ファシリティマネジメント(FM)コンストラクションマネジメント(CM)等を経験。建築・不動産・ITを横断的に繋げ、高次元のプロパティ・マネジメントを実現するべくPROPUPを設立。
