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2024.09.26 節税対策資産相続

いらない土地の相続放棄【完全ガイド】 - メリット・デメリットから手続きまで徹底解説

この記事の監修者
垣内 典之一級建築士垣内 典之

相続は、故人の財産を引き継ぐ重要な法的プロセスです。しかし、時として相続される財産が必ずしも歓迎されるものではない場合があります。特に「いらない土地」の相続は多くの人にとって悩ましい問題となっています。このような状況で検討される選択肢の一つが「相続放棄」です。

本記事では、土地の相続放棄に関する包括的な情報を提供し、この難しい決断に直面している方々の助けとなることを目指します。相続放棄のメリットとデメリット、法的手続き、相続放棄後の影響、そして代替案まで、幅広くカバーしていきます。

相続放棄を検討されている方、あるいは単に知識を深めたい方にとって、この記事が有益な情報源となれば幸いです。

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が相続財産の全部について、相続する権利を放棄することを意味します。民法第939条に規定されているこの制度は、相続人が望まない財産や債務を引き継ぐことを回避するための重要な法的手段となっています。

相続放棄を選択する理由は様々ですが、土地の相続に関しては以下のような背景が考えられます。

  1. 管理の負担:遠隔地にある土地や、利用価値の低い土地は、維持管理に時間とコストがかかる可能性があります。
  2. 固定資産税の負担:土地を相続すると、毎年固定資産税を支払う義務が生じます。収益性のない土地の場合、この税負担が重荷となることがあります。
  3. 環境問題:土壌汚染や産業廃棄物の不法投棄など、環境問題を抱える土地の場合、その対策費用が膨大になる可能性があります。
  4. 相続債務:被相続人の債務が土地の価値を上回る場合、相続することでかえって経済的損失を被る可能性があります。
  5. 共有地の問題:複数の相続人で土地を共有することになった場合、その後の管理や処分に関して意見の相違が生じる可能性があります。

これらの理由から、「いらない土地」の相続を避けたいと考える人も少なくありません。しかし、相続放棄は重大な法的決断であり、その影響は長期にわたって続く可能性があります。

相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄は、重要な法的決断です。この選択肢を検討する際は、そのメリットとデメリットを十分に理解することが重要です。ここでは、相続放棄のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

メリット

  1. 債務の回避
    相続財産に多額の債務が含まれている場合、相続放棄によってその負担を回避できます。例えば、被相続人が多額の借金を抱えていた場合や、土地に抵当権が設定されている場合などが該当します。相続放棄をすることで、これらの債務を引き継ぐ義務がなくなります。
  2. 管理負担の軽減
    遠隔地にある土地や、利用価値の低い土地は、その管理に時間とコストがかかる可能性があります。相続放棄により、このような負担から解放されます。例えば、定期的な草刈りや、不法投棄の監視などの手間を省くことができます。
  3. 税金負担の回避
    土地を相続すると、毎年固定資産税を支払う義務が生じます。また、相続税が発生する可能性もあります。相続放棄をすることで、これらの税金負担を回避できます。特に、収益性のない土地の場合、この恩恵は大きいでしょう。
  4. 将来的なリスクの回避
    土地には予期せぬリスクが潜んでいる可能性があります。例えば、後から土壌汚染が発覚したり、境界問題が生じたりする可能性があります。相続放棄により、これらの潜在的なリスクを回避できます。
  5. 他の相続人との軋轢の防止
    複数の相続人がいる場合、土地の管理や処分方法について意見の相違が生じる可能性があります。相続放棄により、このような軋轢を未然に防ぐことができます。

デメリット

  1. 将来の資産価値上昇の機会損失
    土地の価値は、時間の経過や周辺環境の変化によって上昇する可能性があります。相続放棄をすると、このような将来的な資産価値の上昇による利益を得る機会を失います。特に都市開発が進む地域では、この機会損失が大きくなる可能性があります。
  2. 家族関係への影響
    相続放棄は、家族関係に影響を与える可能性があります。他の相続人が相続放棄を不快に感じたり、家族間の信頼関係に亀裂が入ったりする可能性があります。特に、被相続人の遺志や家族の思い出が詰まった土地の場合、感情的な問題が生じやすくなります。
  3. 再度相続する権利の喪失
    一度相続放棄をすると、その決定を撤回することはできません。将来、状況が変わって相続したいと思っても、法的にそれは不可能です。この不可逆性は、慎重に検討すべき重要なポイントです。
  4. 他の相続人への負担増加
    相続放棄をすると、その分の相続財産は他の相続人に移ります。結果として、他の相続人の相続税負担が増える可能性があります。これは家族間の関係に影響を与える可能性があります。
  5. 社会的責任の放棄
    土地所有には社会的な責任も伴います。相続放棄により、その土地の適切な管理や有効活用の機会を失うことになります。特に、地域社会にとって重要な土地の場合、この点は慎重に考慮する必要があります。
  6. 潜在的な収入源の喪失
    たとえ現時点で価値が低いと思われる土地でも、将来的に収入を生み出す可能性があります。例えば、太陽光発電や風力発電の用地として活用したり、農地として賃貸したりする機会を失う可能性があります。

相続放棄の決断は、これらのメリットとデメリットを総合的に考慮した上で行う必要があります。個々の状況によって、そのバランスは大きく異なります。例えば、債務超過の土地を相続放棄する場合はメリットが大きくなりますが、将来的な開発の可能性がある土地の場合は、デメリットをより慎重に検討する必要があるでしょう。

また、相続放棄以外の選択肢(例:限定承認、売却、寄付など)も併せて検討することが重要です。これらの選択肢については、後の項目で詳しく説明します。

個人の財政状況、家族関係、将来のビジョンなどを総合的に考慮し、必要に応じて専門家(弁護士、税理士など)に相談することをおすすめします。慎重な検討と適切なアドバイスにより、最適な決断を下すことができるでしょう。

相続放棄の法的手続き

相続放棄を行う際には、法定の手続きを正確に踏むことが重要です。この手続きを誤ると、相続放棄が無効となる可能性があります。ここでは、相続放棄の法的手続きについて、必要書類、申述の期限、手続きの流れの順に詳しく説明していきます。

必要書類

相続放棄の手続きには、以下の書類が必要です。

1.相続放棄申述書

最も重要な書類です。家庭裁判所に提出する正式な申述書で、以下の情報を記載します。

  • 申述人(相続放棄をする人)の氏名、住所
  • 被相続人(亡くなった人)の氏名、最後の住所
  • 被相続人との続柄
  • 相続開始を知った日
  • 相続放棄の意思表示

2. 戸籍謄本

具体的には以下のものが求められます。

  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
    相続関係を明確にするために必要です。
  • 申述人の現在の戸籍謄本
    申述人の身分を証明するために必要です。

3. 被相続人の死亡診断書または除籍謄本
被相続人の死亡を証明するために必要です。

4. 印鑑証明書
申述人の本人確認のために必要です。申述日前3ヶ月以内に発行されたものが求められます。

5. 委任状(代理人が申述する場合)
申述人本人が手続きを行えない場合、代理人に委任することができます。その際には委任状が必要です。

これらの書類を準備する際は、発行日に注意が必要です。多くの場合、申述日から3ヶ月以内に発行された書類が求められます。

申述の期限

相続放棄の申述には期限があります。民法第915条に基づき、相続人が相続開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。

この期限を過ぎると、原則として相続放棄はできなくなります。ただし、やむを得ない事由がある場合は、家庭裁判所に申立てを行うことで、期限後であっても相続放棄が認められる可能性があります(民法第915条・第2項)。

「やむを得ない事由」とは、以下のような場合が考えられます。

  • 相続人が重病で入院していた
  • 相続人が海外に長期滞在していて連絡が取れなかった
  • 被相続人の死亡を知らされていなかった

ただし、「相続放棄の手続きを知らなかった」「忙しくて手続きができなかった」などの理由は、通常「やむを得ない事由」とは認められません。

相続放棄の期限には十分注意が必要です。相続の事実を知ったら、速やかに専門家に相談するなどして、期限内に適切な判断と手続きを行うことが重要です。

手続きの流れ

  1. 情報収集と判断
    相続財産の内容や債務の状況を確認し、相続放棄するかどうかを判断します。必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
  2. 必要書類の準備
    上記の必要書類をすべて揃えます。戸籍謄本や死亡診断書の取得に時間がかかる場合があるので、早めの準備が重要です。
  3. 申述書の作成
    相続放棄申述書を作成します。書式は各家庭裁判所のウェブサイトなどで入手できます。記入漏れや誤りがないよう注意深く作成しましょう。
  4. 家庭裁判所への申述
     準備した書類を持って、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に出向きます。申述は本人が行うのが原則ですが、やむを得ない場合は代理人による申述も可能です。
  5. 申述の受理
    家庭裁判所で書類審査が行われ、問題がなければ申述が受理されます。受理されると、相続放棄の効力が生じます。
  6. 申述受理証明書の取得
    通常、申述が受理されてから1〜2週間程度で、相続放棄申述受理証明書を取得します。(家庭裁判所の混雑状況や書類の不備、追加での確認事項などで遅れる場合があります)
    この証明書は、相続放棄の事実を証明する重要な書類となります。
  7. 関係者への通知
    必要に応じて、他の相続人や関係機関(銀行、不動産会社など)に相続放棄の事実を通知します。

相続放棄の手続きは、一見複雑に思えるかもしれません。しかし、一つ一つのステップを丁寧に進めていけば、適切に手続きを完了することができます。

特に重要なのは、期限を守ることと、すべての必要書類を正確に準備することです。不明な点がある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。

相続放棄後の影響

相続放棄を行った後には、様々な影響が生じます。ここでは、主に税金関係と他の相続人への影響について詳しく説明します。

税金関係(固定資産税など)

1. 固定資産税
相続放棄をした場合、原則として固定資産税の納税義務は発生しません。相続放棄により、その土地の所有権を放棄したことになるためです。しかし、以下の点に注意が必要です。

  • 相続放棄の効力は相続開始時(被相続人の死亡時)に遡って発生します。そのため、相続開始から相続放棄の申述受理までの期間に発生した固定資産税については、理論上は納税義務がありません。
  • ただし、実務上は相続放棄の事実を市区町村に通知するまでは、相続人宛てに納税通知書が送付される可能性があります。この場合、相続放棄の事実を説明し、対応を求める必要があります。

2. 相続税
相続放棄をした場合、その人の相続税の納税義務はなくなります。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 相続放棄をした人の相続分は、他の相続人に移ります。結果として、他の相続人の相続税負担が増える可能性があります。
  • 相続税の申告期限(原則として相続開始を知った日から10ヶ月以内)までに相続放棄の手続きを完了していない場合、相続税の申告が必要になる可能性があります。

3. 譲渡所得税
相続放棄をした場合、その土地を譲渡したことにはならないため、譲渡所得税は発生しません。

4. 住民税
固定資産税と同様に、相続放棄をした場合は原則として住民税(固定資産税割)の納税義務は発生しません。

他の相続人への影響

1. 相続分の変更
相続放棄をすると、その人の相続分は法定相続人の間で再分配されます。具体的には以下のようになります。

  • 相続放棄をした人には子がいない場合:その人の相続分は他の相続人に法定相続分に応じて分配されます。
  • 相続放棄をした人に子がいる場合:その人の相続分は子に移ります(代襲相続)。

2. 税負担の増加
前述の通り、相続放棄により他の相続人の相続税負担が増加する可能性があります。特に相続財産の価値が高い場合、この影響は大きくなります。

3. 管理責任の増加
相続放棄された土地の管理責任は、他の相続人に移ります。これにより、他の相続人の負担が増える可能性があります。例えば、遠隔地にある土地の管理や、問題のある土地(廃屋がある、環境問題がある等)の対応が必要になる場合があります。

4. 家族関係への影響
相続放棄は、家族関係に影響を与える可能性があります。

  • 他の相続人が相続放棄を不快に感じる可能性があります。
  • 相続財産の管理や処分について、意見の相違が生じる可能性があります。
  • 被相続人の遺志や家族の思い出が詰まった土地の場合、感情的な問題が生じる可能性があります。

5. 法的責任の移転
相続放棄をした人が負うべき法的責任(例:土地に関する訴訟の被告、環境問題への対応など)は、他の相続人に移転します。

6. 将来の権利の喪失
相続放棄をすると、その土地に関する将来的な権利(例:開発による利益、賃貸収入など)を完全に失います。これらの権利は他の相続人に移ります。

相続放棄の影響は広範囲に及ぶため、長期的な視点で考える必要があります。特に、他の相続人への影響を考慮することは重要です。相続放棄を検討する際は、これらの影響を十分に理解し、家族間でよく話し合うことをおすすめします。また、必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に相談することで、より適切な判断を下すことができるでしょう。

相続放棄の代替案

相続放棄は一つの選択肢ですが、他にも検討すべき代替案があります。ここでは、主な代替案について説明します。

限定承認

限定承認とは、相続財産の限度内でのみ被相続人の債務を弁済する責任を負う相続方法です。相続放棄とは異なり、プラスの財産は相続しつつ、債務の負担を相続財産の範囲内に抑えることができます。

メリット

  • 相続財産がプラスの場合、その利益を得ることができる
  • 債務超過の場合でも、相続人の固有財産に影響が及ばない

デメリット

  • 手続きが複雑で時間がかかる
  • 裁判所の許可が必要
  • すべての相続人の同意が必要

限定承認は、相続財産の中に価値のある資産と多額の債務が混在している場合に有効な選択肢となります。例えば、価値のある土地と多額の借金が相続財産に含まれている場合などです。

土地の売却や寄付

相続した土地を売却したり、寄付したりする方法も考えられます。

■土地の売却

メリット

  • 現金化できる
  • 管理の手間から解放される

デメリット

  • 市場価値が低い場合、十分な売却金額が得られない可能性がある
  • 売却手続きに時間とコストがかかる
  • 将来的な資産を全て手放すことになる

■土地の寄付

メリット

  • 社会貢献できる
  • 税制優遇を受けられる可能性がある

デメリット

  • 金銭的利益は得られない
  • 受け入れ先を見つけるのが難しい場合がある

土地の売却や寄付は、相続放棄ほど極端ではありませんが、土地の管理負担から解放される方法として検討する価値があります。特に、土地に愛着があるけれど自分では管理できない場合などに有効です。

土地活用の可能性

相続した土地を活用する方法も検討する価値があります。以下はいくつかの例です。

■賃貸経営での土地活用

  • 駐車場、コインパーキング
  • アパート、マンション
  • 小規模商業ビルでのテナント経営
  • 資材置き場
  • コインランドリー
  • シェア農園

■再開発での土地活用

  • 商業施設の誘致

■環境・エネルギー関連での土地活用

  • 太陽光発電所の設置
  • 風力発電所の設置
  • 植林や自然保護区としての活用

■地域貢献での土地活用

  • コミュニティガーデンとしての活用
  • 地域イベントスペースとしての提供

土地活用には初期投資や専門知識が必要な場合がありますが、長期的には安定した収入源となる可能性があります。また、地域社会への貢献にもつながる可能性があります。

これらの代替案を検討する際は、以下の点を考慮することが重要です。

  1. 土地の特性:場所、大きさ、地形、周辺環境など
  2. 法的制約:用途地域、建築規制、環境規制など
  3. 経済的側面:初期投資、維持費用、期待される収益など
  4. 個人的要因:管理にかけられる時間や労力、長期的な目標など
  5. 税金の影響:相続税、固定資産税、所得税など

相続放棄と代替案のどれを選択するかは、個々の状況によって大きく異なります。それぞれの選択肢のメリット・デメリットを慎重に比較検討し、必要に応じて専門家(弁護士、税理士、不動産専門家など)に相談することをおすすめします。最適な選択をすることで、相続した土地を負担ではなく、資産として活用することができるでしょう。

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よくある質問(FAQ)

相続放棄に関して、多くの人が疑問を抱える点について、Q&A形式で解説します。

Q1:相続放棄後の撤回は可能ですか?

A1:相続放棄後の撤回は原則として不可能です。民法第939条には、「相続の承認又は放棄は、取り消すことができない」と明記されています。これは、相続に関する法的安定性を確保するためです。

ただし、極めて例外的な場合に限り、相続放棄の無効や取り消しが認められることがあります。

  • 多額の預金があることを知らずに相続放棄した場合など相続放棄の意思表示に重大な錯誤があった場合
  • 詐欺や強迫によって相続放棄をさせられた場合
  • 相続放棄の手続きに期限超過、管轄違い、法定代理人の同意欠如など重大な瑕疵があった場合

これらの場合でも、裁判所での手続きが必要となり、立証責任は相続放棄を撤回したい側にあります。したがって、相続放棄の決断は十分な検討の上で行うことが極めて重要です。

Q2:相続人全員が放棄した場合はどうなりますか?

A2:相続人全員が相続放棄をした場合、以下のような流れになります:

  1. 次順位の相続人への移行: 民法第940条に基づき、次順位の相続人(例:兄弟姉妹、おじ・おばなど)に相続権が移ります。
  2. 相続人不存在の場合: 最終的に相続人が存在しない場合、民法第951条に基づき、相続財産は国庫に帰属します。
  3. 相続財産管理人の選任: 相続人不存在が明らかになった場合、家庭裁判所は家庭裁判所の保有する相続財産管理人候補者リストから、弁護士または司法書士が選任されます。(民法第952条)。
  4. 相続債権者への弁済: 相続財産管理人は、相続債権者への弁済を行います。
  5. 残余財産の国庫帰属: 債務の弁済後に残余財産がある場合、それは国庫に帰属します。

注意点

  • 相続人全員が放棄しても、被相続人の債務が消滅するわけではありません。
  • 国庫帰属となった場合でも、国は相続限定承認の効果を受けたのと同様の地位に立ちます(民法第959条)。つまり、相続財産の範囲内でのみ債務を負担します。
  • 通常の相続では、相続財産が債務を超過している場合、相続人は「限定承認」を選択することで、相続財産の範囲内でのみ債務を負う形とすることができます。しかし、相続人がいないか全員が相続を放棄した場合、財産は国庫に帰属し、民法第959条に基づき、国も相続財産の範囲内でのみ債務を負担します。これは結果的に、限定承認と同様の効果を持つことになります。

Q3:相続放棄をすると、遺言書の内容は無効になりますか?

A3:相続放棄をしても、遺言書自体が無効になるわけではありません。ただし、相続放棄者に関する遺言の内容は効力を失います。

  • 遺贈(特定の財産を特定の人に与える)の場合: 相続放棄者に対する遺贈は無効となります。その遺贈の対象となった財産は、他の相続人に相続されるか、残余財産として法定相続人に分配されます。
  • 遺産分割方法の指定がある場合: 相続放棄者に関する部分は無効となり、その分は法定相続分に従って他の相続人に分配されます。

ただし、遺言の内容によっては複雑な解釈が必要になる場合もあるため、専門家に相談することをおすすめします。

Q4:相続放棄をすると、葬儀費用や埋葬費用の負担はどうなりますか?

A4:相続放棄をしても、葬儀費用や埋葬費用の負担義務がなくなるわけではありません。これらの費用は、以下のように扱われます。

  1. 相続財産から支払う: まず、被相続人の相続財産から支払うことが原則です。
  2. 相続人が立て替えた場合: 相続人が立て替えて支払った場合、その費用は相続財産から償還を受けることができます。これは、相続放棄をした場合でも同様です。
  3. 相続財産が不足する場合: 相続財産が不足する場合、扶養義務者(配偶者、直系血族及び兄弟姉妹)が負担することになります。相続放棄をしても、この扶養義務者としての地位は失われません。

したがって、相続放棄をする場合でも、葬儀費用や埋葬費用について協議し、適切に対応することが重要です。

Q5:相続放棄をした場合、被相続人の借金の返済義務はなくなりますか?

A5:基本的に、相続放棄をすると被相続人の借金の返済義務はなくなります。ただし、以下の点に注意が必要です。

  1. 相続放棄前の弁済: 相続放棄の前に借金の一部を返済してしまった場合、その行為が相続の承認とみなされる可能性があります。
  2. 相続財産の処分: 相続財産を処分してしまった場合、相続の承認とみなされる可能性があります。
  3. 詐害行為: 債権者を害する目的で相続放棄をした場合、詐害行為として取り消される可能性があります。
  4. 連帯保証人の場合: 被相続人の借金の連帯保証人になっていた場合、相続放棄をしても保証人としての責任は残ります。

したがって、相続放棄を検討する際は、被相続人の借金の状況を把握し、適切に対応することが重要です。

Q6:相続放棄をした場合、遺族年金や死亡保険金は受け取れますか?

A6:遺族年金と死亡保険金については、相続放棄をしても受け取れる場合があります。

  1. 遺族年金: 遺族年金は相続財産ではなく、社会保障制度に基づく給付です。したがって、相続放棄をしても、法律で定められた受給要件を満たしていれば受け取ることができます。
  2. 死亡保険金: 死亡保険金は、保険契約に基づいて支払われるものです。保険金受取人が指定されている場合、その指定は相続とは別の法律行為とみなされるため、相続放棄をしても受け取ることができます。

ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 死亡保険金の受取人が「法定相続人」と指定されている場合、相続放棄をすると受取人から外れる可能性があります。
  • 死亡保険金の受取人が法定相続人以外の場合は、みなし相続財産として受取保険金全額が課税対象となる場合があります。

相続放棄を検討する際は、遺族年金や死亡保険金の取り扱いについても確認し、総合的に判断することが重要です。

これらの質問と回答は、相続放棄に関する一般的な情報を提供するものです。個々の状況によって適切な対応が異なる場合があるため、具体的な案件については専門家(弁護士、税理士など)に相談することをおすすめします。

まとめ

相続放棄は、不動産を含む相続財産を受け継がないための法的手段です。この記事では、相続放棄に関する包括的な情報を提供してきました。ここで、主要なポイントをまとめ、相続放棄を検討する際のチェックリストと最終的な意思決定のポイントを提示します。

相続放棄を検討する際のチェックリスト

1、相続財産の全容把握 プラスの財産(不動産、預金、有価証券など)を確認した
マイナスの財産(借金、税金の未払いなど)を確認した
隠れた資産や債務の可能性を検討した
2、法的手続きの理解 相続放棄の期限(原則、相続人が相続開始を知った日から3ヶ月以内)を確認した
必要な書類を把握し、準備した 
管轄の家庭裁判所を確認した
3、影響の検討 他の相続人への影響を考慮した
家族関係への影響を検討した
将来的な資産価値の変動可能性を考慮した
4、税金面の影響 相続税への影響を確認した
固定資産税など、その他の税金への影響を確認した
5、代替案の検討 限定承認の可能性を検討した 
不動産の売却や寄付の可能性を検討した
土地活用の可能性を検討した
6、専門家への相談  弁護士に法的側面について相談した
税理士に税務面について相談した
必要に応じて不動産専門家に相談した
7、将来の計画 相続放棄後の生活への影響を検討した
長期的な財産管理計画を立てた


最終的な意思決定のポイント

  1. 総合的な判断
    相続放棄は単に不要な土地を放棄するだけでなく、相続財産全体に対する権利を放棄することを意味します。プラスの財産とマイナスの財産を総合的に評価し、判断することが重要です。
  2. 長期的視点
    現在は価値が低い土地でも、将来的に価値が上がる可能性や、開発計画が存在する可能性があります。短期的な判断だけでなく、長期的な視点で決断することが重要です。
  3. 家族との協議
    相続放棄は個人の権利ですが、他の相続人や家族に影響を与える可能性があります。家族間で十分に話し合い、理解を得ることが重要です。
  4. 法的・税務的影響の理解: 相続放棄の法的な影響と税務上の影響を十分に理解した上で決断することが重要です。不明点があれば、専門家に相談しましょう。
  5. 代替案との比較
    相続放棄以外の選択肢(限定承認、売却、寄付、土地活用など)と比較検討し、最適な選択をすることが重要です。
  6. 心理的・感情的側面の考慮
    相続財産には思い出や家族の歴史が詰まっている場合があります。経済的な側面だけでなく、心理的・感情的な側面も考慮しましょう。
  7. 自己の財政状況との照らし合わせ
    相続放棄をした場合の自身の財政状況への影響を考慮しましょう。将来の収入や支出の見通しと照らし合わせて判断することが重要です。
  8. 社会的責任の考慮
    特に土地の相続放棄の場合、その土地の管理や有効活用に関する社会的責任も考慮に入れる必要があります。
  9. 撤回不可能性の認識
    相続放棄は原則として撤回できません。この決定の重大性と不可逆性を十分に認識した上で判断することが重要です。
  10. 専門家の意見の尊重
    法律や税務の専門家からのアドバイスを尊重し、それを踏まえて判断することが重要です。

相続放棄は重大な決断であり、その影響は長期にわたって続く可能性があります。このチェックリストと決定ポイントを参考に、慎重に検討を重ねてください。

相続放棄は、時として最良の選択肢となる場合もありますが、同時にデメリットも存在します。自身の状況をよく見極め、相続放棄以外の選択肢も含め多角的な視点で判断しましょう。

相続に関する問題は単なる財産の問題だけでなく、家族の絆や思い出、さらには社会的責任にも関わる複雑な問題です。また、個々の状況は異なるため、最終的な判断は専門家のアドバイスを受けながら行うことをおすすめします。

いらない土地の相続放棄を検討しているオーナー様は、ぜひ一度ご相談ください。プロの視点で、相続放棄か?土地活用か?納得できる結論を出せるようサポートいたします

この記事の監修者

垣内 典之

株式会社 PROPUP 代表取締役/一級建築士

石川県金沢市出身。千葉大学大学院修了(建築学)。建築設計監理からキャリアをスタート、環境性能に係る設計審査業務、企業不動産(CRE)戦略、ファシリティマネジメント(FM)コンストラクションマネジメント(CM)等を経験。建築・不動産・ITを横断的に繋げ、高次元のプロパティ・マネジメントを実現するべくPROPUPを設立。

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