フィル・パークマガジン アパート経営の法人化:9つのメリットと3つの注意点を徹底解説
アパート経営の法人化:9つのメリットと3つの注意点を徹底解説
不動産オーナーの皆様、アパート経営で悩んでいませんか?「税金の負担が重い」「相続対策がうまくいかない」「経営の効率化を図りたい」そんな課題をお持ちの方に朗報です。アパート経営の法人化が、これらの問題を解決する強力な武器となるかもしれません。
今回は、法人化のメリットから注意点まで、わかりやすく解説します。あなたの不動産活用を次のステージに引き上げるヒントが、きっと見つかるはずです。
アパート経営の法人化とは?基礎知識を解説
個人で行っていた賃貸経営を会社組織に移行することで、さまざまなメリットが生まれる可能性があります。しかし、法人化にはデメリットもあるため、慎重に検討する必要があります。
ここでは、法人化の基礎知識から、そのメリット・デメリット、適切なタイミングまでを詳しく解説していきます。
個人事業主と法人の違い
アパート経営を法人化するかどうかを考える際、まず押さえておきたいのが個人事業主と法人の違いです。
個人事業主とは、個人で独立して事業を展開している人のことを指します。一方、法人とは法人格を取得して法律上で定められた人格にもとづいて事業を展開する組織のことです。個人事業主と法人の主な違いとして以下の3つが挙げられます。
- 税金面の違い
- 責任範囲の違い
- 社会的信用度の違い
個人事業主と法人は、税金面が異なり、個人事業主の場合は所得税、法人の場合は法人税が課税されます。所得税は個人の所得に対して課税される税金であり、法人税は企業活動によって得られる所得に課税される税金です。ともに所得に対して課税される税金ですが、所得税の最高税率は45%であるのに対し、法人税の実効税率は23.2%と税率が異なります。
また、個人事業主と法人では、責任の範囲も異なります。個人事業主の場合、経営者個人が無限責任を負いますが、法人(株式会社の場合)では有限責任となり、個人資産が保護されます。たとえば、個人事業主の場合、経営の悪化による仕入れ先への未払い金や、金融機関からの借入金、滞納している税金などすべて個人で負担しなければなりません。一方、法人の場合は、個人保証による借入金や不動産賃貸などを除いて、責任の上限は出資金の範囲内となります。そのため、出資額以上の支払いの義務はありません。
社会的信用度という観点では、個人事業主よりも法人のほうが社会的信用度は高いとされ、取引先や金融機関からの信用を得やすくなるでしょう。たとえば、法人化することで銀行からの融資が受けやすくなるケースもあります。
個人事業主と法人のそれぞれのメリット・デメリットを比較すると以下のようになります。
項目 | 個人事業主 | 法人 |
メリット | ・開業の手続きが簡単 ・経費計上の自由度が高い |
・節税効果が高い ・社会的信用度が高い |
デメリット | ・税負担が重い場合がある ・個人資産へのリスクが高い |
・設立、運営コストがかかる ・事務負担が増える |
法人化のタイミングと目安
個人事業主は、どのタイミングで法人化すればよいのか迷う人もいるでしょう。一般的に、以下のような状況が法人化を検討するタイミングの目安です。
- 年間の不動産所得が1,000万円を超えたタイミング
- 貸付けできる部屋の数が10室を超えたタイミング
- 2~3年以内に相続を行う予定がないタイミング
年間の不動産所得が1,000万円を超えると消費税課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。しかし、このタイミングで法人化すれば、年収がリセットされるため最低2年間の免税期間を設けることが可能です。ただし、これは一時的な節税対策に過ぎないことを考慮しておきましょう。
また、貸付けできる部屋が10室以上ある場合も、法人化するタイミングの一つです。貸付けできる部屋が10室以上あると、一般的に事業的規模に分類されます。これにより、アパート経営を法人化することが可能です。
アパート経営を法人化する際には、相続についても考慮する必要があります。法人がアパートなどの建物を取得してから3年以内は通常の評価額で取引されるのが一般的です。評価額が高いほど相続税も高くなるため、3年以内に相続すると相続税対策になりません。法人化を検討する際には、相続が発生しそうな時期についても確認する必要があるでしょう。
ただし、これらはあくまで目安です。実際に法人化すべきかどうかは、個々の経営状況や将来のビジョンによって異なります。たとえば、1棟のアパートでも将来的に事業拡大を考えている場合は、早めに法人化を検討する価値があるかもしれません。
法人化の判断は、アパート経営の将来に大きな影響を与える重要な決断です。自身の状況を客観的に分析し、税理士や不動産の専門家にも相談しながら、慎重に検討することをおすすめします。
アパート経営を法人化する9つのメリット
アパート経営の法人化には以下のようなメリットがあります。
- 所得税の節税効果
- 相続税対策としての活用方法
- 経費計上の範囲が広がる
- 資金調達がしやすくなる
- 社会的信用度の向上
- 事業承継がスムーズになる
- 役員報酬で所得を移転できる
- 賃貸経営の安定化と成長
- 認知症対策となる
メリット① 所得税の節税効果
アパート経営を法人化するメリットの一つが、所得税の節税効果です。個人事業主の場合、所得が増えるほど税率が上がる累進課税が適用され、最大45%の税率が課せられます。一方の法人の場合は、一定の税率が適用され、税率は23.2%です。そのため、アパート経営による所得が増えても、法人化すれば支払う法人税の額は増えないというメリットがあります。
所得税の税率が法人税の税率を超えるのは、アパート経営による所得が約900万円を超えたタイミングです。このタイミングに法人化すれば所得税(法人税)の増加を抑えられるでしょう。なお、以下は所得税と法人税を比較した表です。
所得税の区分 | 所得税の税率 | 法人税の区分
※資本金1億円以下の場合 |
法人税の税率 |
1,000円~194.9万円まで | 5% | 800万円以下 | 15% |
195万円~329.9万円まで | 10% | ||
330万円~694.9万円まで | 20% | ||
695万円~899.9万円まで | 23% | ||
900万円~1,799.9万円まで | 33% | 800万円を超える | 23.3% |
1,800万円~3,999.9万円まで | 40% | ||
4,000万円以上 | 45% |
メリット② 相続税対策としての活用方法
アパート経営の法人化は、相続税対策としても有効です。個人事業主の場合、オーナー個人の財産が多くなればなるほど、相続税の納付額が多額になります。相続税は「遺産相続×税率ー控除額」で計算します。遺産総額とは、現金、預金、土地などの財産から借入金、葬儀費用などを差し引いた相続するすべての遺産のことです。
土地の相続評価額は、路線価方式もしくは倍率方式のどちらかで計算します。路線価方式は、国が定めた土地の時価のことで相続評価額を算出する際に、この路線価をもとに計算します。路線価が決められていない土地の場合は、倍率方式を活用して算出するのが一般的です。倍率方式では、その土地の固定資産税評価に一定の倍率をかけて算出します。
また、遺産総額を算出したあとは、相続税の税率をかけて相続税を算出します。たとえば、遺産相続が5,000万円、税率が20%の場合は、以下の計算で相続税が算出できます。
5,000万円×20%ー200万円=800万円
一方で、アパートを法人所有とすれば、所有する不動産は会社の資産となり、相続の対象は自社株式になります。自社株式の評価額は、会社の資産状況や収益性によって決まるため、相続税も低減される可能性があるでしょう。さらに法人化して3年経過すると不動産の時価よりも相続税評価額のほうが低減されるため、相続税対策になります。
また、相続する家族を自社の役員にして役員報酬を支払う場合、その報酬は個人の所得として課税されるため、相続税の課税対象を抑えられます。
ほかにも、事業承継税制を活用すれば贈与税や相続税などを免除することが可能です。事業承継とは、先代の経営者が自身の子どもといった後継者に事業を引き継ぐことです。事業承継によって子どもなどが取得した自社株式には、贈与税や相続税などがかかりますが、納税猶予を受けられます。その後、一定期間にわたって要件を満たすと猶予された税額は免除されるという仕組みです。
将来的に相続を考えていて、今後の見通しや対策を知りたい、という方はぜひ一度ご相談ください。
メリット③ 経費計上の範囲が広がる
アパート経営を法人化すると、個人事業主とは異なる経費項目を計上できるようになります。たとえば、役員報酬や社用車、役員社宅も経費として計上することが可能です。
社用車は、減価償却費や車検代、損害保険料、修理代などを経費として計上できます。役員社宅では、法人が社宅を所有もしくは借り上げて役員に貸し付けた場合、家賃のうち一定額を経費として計上することが可能です。
経費として計上された費用は、法人の所得として扱われないため、その分法人税を抑えられるでしょう。
メリット④ 資金調達がしやすくなる
アパート経営を行う際には、建物の購入や改修、維持管理などさまざまな費用が必要となります。アパートの法人化は、こうした費用の資金を調達するために有利です。具体的には、以下のようなメリットがあります。
- 資金調達の多様化
法人化すると、資金調達の手段が増えます。例えば、法人は株式を発行して資金を集めることが可能です。未公開株式の発行や新たな出資者の募集を通じて、資金を調達することができます。また、金融機関からの融資だけでなく、社債の発行や他の投資家からの出資を得ることも選択肢になります。 - 経営の継続性
法人は、個人事業主と異なり、経営者が交代しても法人自体は存続します。この継続性が金融機関や投資家から評価され、資金調達がしやすくなる要因となります。特に、アパート経営のように長期的な資金運用が求められるビジネスでは、法人の安定した継続性が資金調達に有利です。 - 担保提供の柔軟性
法人として所有する不動産やその他の資産を担保に提供することで、融資を受けることが可能です。個人事業主の場合、個人の資産が担保に使われることが一般的ですが、法人化すれば法人名義の資産を担保に利用でき、個人資産を保護しながら資金調達ができます。
法人を設立し顧問税理士、会計士を雇う場合、毎年会計資料を整理して申告を行います。これにより、銀行などの金融機関からの信用性が高くなり、個人事業主の場合よりも融資を受けやすくなります。
また、国が提供している補助金や助成金などの申請もとおりやすいといわれています。
メリット⑤ 社会的信用度の向上
アパート経営の法人化により、社会的信用度が向上することもメリットの一つです。先述したとおり、法人化によって銀行などの金融機関からの信頼度が向上し、融資を受けやすくなります。
金融機関だけでなく、入居者からの信用度も向上するでしょう。入居者の信用度が向上することで「しっかりとしたアパートだ」という印象を与え、新たな入居者の獲得につながる可能性があります。
メリット⑥事業承継がスムーズに
アパート経営を法人化すると個人事業主の場合よりも事業承継をスムーズに進めることが可能です。その理由は大きく以下の2つがあります。
- 生前贈与・遺産の分割がしやすい
- 事業承継の手続きが容易
個人事業主が経営するアパートを事業承継する際には、複数の相続人の間で相続する方法についてトラブルとなるケースが多いです。相続人の合意形成に時間がかかったり、共有名義にして後々揉めごとに発展したりするなどさまざまなトラブルが起こります。しかし、アパート経営を法人化していれば、所有する株式(株式会社の場合)やその他の出資持分を生前に少しずつ相続することが可能です。そのため、資産の相続をスムーズに進められます。
また、手続きが容易であることも事業承継がスムーズに進められる理由です。個人事業主の場合は、経営しているアパートを相続する際には、管理会社や金融機関との契約内容、光熱費、保険、入居者との契約など、すべてにおいて名義変更を行う必要があります。
一方、法人であれば法人の名義であるため、こうした手続きをすべて省くことが可能です。このように、アパート経営を法人化すれば、事業承継もスムーズに進められます。
メリット⑦役員報酬で所得を移転できる
アパート経営を法人化することにより、役員報酬で所得を移転できるという点もメリットの一つです。個人事業主の場合、アパート経営によって得られた収益は経営者本人のものとなります。これによって得た収益を自身の子どもなどに移転する際に、年間110万円以上の収益を移転させると贈与税の対象となります。
一方、アパート経営を法人化し、役員報酬という形で自身の子どもに移転すれば、贈与税は課税されません。
メリット⑧賃貸経営の安定化と成長
法人化により、長期的な視点での経営計画の立案が可能になります。また、スケールメリット(規模の拡大による優位性や有利性などのメリット)を活かした物件管理や、新規物件の取得なども行いやすくなり、賃貸経営の安定化と成長につながります。
メリット⑨認知症対策となる
アパート経営を法人化すると認知症の対策にもなります。個人事業主の場合、アパートの経営者が認知症となった場合、成年後見人等がいない限り代理で資産を動かすことができません。成年後見人等とは、認知症となった人の生活・医療・介護・福祉など身の回りをサポートする人のことで、不動産や預貯金などの管理も行います。
たとえば、経営者が認知症を発症したあとに、突発的なアパートの修繕が必要となった場合、成年後見人等がいなければ、経営者の口座から修繕費を出せなくなります。
一方、アパート経営を法人化し、家族を役員に入れておけば、経営者が認知症となった場合でも、他の役員によってアパート経営を通常とおり継続することが可能です。
アパート経営の法人化には、このように多くのメリットがあります。しかし、デメリットもあるため、慎重に検討する必要があります。
アパート経営の法人化で注意すべき3つのポイント
アパート経営の法人化には多くのメリットがありますが、同時に注意すべきポイントもあります。具体的には、法人設立・運営にかかる費用や税務調査のリスク、売却時の税金対策などです。
ここからは、それぞれの注意すべきポイントについて見ていきましょう。これらを理解することで、より賢明な判断につながります。
法人設立・運営にかかる費用
アパート経営を法人化するには、登録免許税や定款作成時の手数料などさまざまな費用がかかります。これらの費用は株式会社と合同会社のどちらを設立するのか(※それぞれの違いは5-1で解説します)によって金額が異なり、基本的には合同会社のほうが安いです。さらに法人化を行うための手続きも煩雑であるため、司法書士に依頼するケースが多いでしょう。個人事業主の場合は、こうした費用がかかりません。
また、個人事業主と比較して法人の帳簿を記載する難易度も格段に上がります。そのため、確定申告を税理士に依頼したり、税理士と顧問契約したりするケースも多いです。この際にかかる費用は法人を運営するために必要な経費となります。
以下は、アパート経営の法人化によって必要となる費用の相場です。
・株式会社の場合
費用項目 | 概算金額 | 備考 |
登録免許税 | 15万円 もしくは 資本金額×0.7% |
・左記のどちらか高い額が適用される |
定款用収入印紙代 | 4万円 | ・電子定款の場合は不要 |
定款の認証手数料 | 3万円~5万円 | ・資本金100万円未満:3万円 ・資本金100万円以上300万円未満:4万円 ・資本金300万円以上:5万円 |
定款の謄本手数料 | 約2,000円 | ・1ページあたり250円 |
司法書士報酬 | 6万円~10万円 | ・資本金によって変動する |
税理士報酬 | 10万円から | ・確定申告のみ依頼、顧問契約などの形態によって変動する |
・合同会社の場合
費用項目 | 概算金額 | 備考 |
登録免許税 | 6万円 もしくは 資本金額×0.7% |
・左記のどちらか高い額が適用される |
定款用収入印紙代 | 4万円 | ・電子定款の場合は不要 |
定款の認証手数料 | 0円 | – |
定款の謄本手数料 | 0円 | – |
司法書士報酬 | 6万円~10万円 | ・資本金によって変動する |
税理士報酬 | 10万円から | ・確定申告のみ依頼、顧問契約などの形態によって変動する |
税務調査のリスク
法人化すると、税務調査を受ける可能性が変わる場合があります。これは、法人の方が経理処理が複雑になることや、税務当局の調査方針によるものです。特に注意すべき点は以下のとおりです。
- 役員報酬の妥当性:過大な役員報酬は経費として認められない可能性があります。
- 交際費の計上:接待費などの使用には明確な理由が必要です。
- 家賃の適正価格:自己所有物件の賃料が市場価格と乖離していないか注意が必要です。
これらのリスクを回避するには、適切な経理処理が不可欠です。税理士との連携を密にし、正確な帳簿作成と保管を心がけましょう。例えば、月次で税理士にチェックしてもらうことで、問題を早期に発見し対処できます。
売却時の税金対策
法人所有の不動産を売却する際は、個人所有の場合と税金の仕組みが異なります。主な違いは以下のとおりです。
- 法人の場合、譲渡所得という概念がなく、通常の事業所得として課税されます。
- 個人の場合適用される特別控除(3,000万円)が使えません。
- 法人税に加え、株主への配当時には配当所得として所得税が課税されます。
ただし、税金を抑える方法もあります。例えば、固定資産の買換え特例を利用すれば、売却益の一部の課税を繰り延べられます。また、計画的な減価償却を行うことで、売却時の売却益を抑えることも可能です。
アパート経営の法人化に適した事業規模と時期
「アパート経営の法人化を考えるべきタイミングは?」「現在の規模で法人化するメリットはあるのか?」と疑問を抱える不動産オーナーの方も多いでしょう。法人化のタイミングは、事業規模や将来の展望によって異なります。ここでは、アパート経営の法人化に適した事業規模と時期について、具体的な数字や事例を交えて解説します。
年間の家賃収入からみる目安
法人化を検討する際の重要な指標の一つが、年間の家賃収入です。一般的に、以下のような目安が考えられます。
年間家賃収入 | 法人化の目安 | メリット・デメリット |
〜500万円 | 個人経営が適切 | 個人事業主の方が手続きは簡単で経費も抑えられる |
500万円〜800万円 | 法人化を検討し始める | 節税効果が出始めるが、経費増との兼ね合いを考慮 |
900万円以上 | 法人化のメリットが大きい | 節税効果が顕著、事業拡大も視野に入れやすい |
例えば、年間家賃収入が1,000万円の場合、個人事業主だと最高税率が適用され、税負担が重くなります。一方、法人化すれば法人税率(約23.2%)が適用され、大きな節税効果が期待できます。
所有物件数からみる法人化のタイミング
所有物件数も、法人化を検討する上で重要な要素です。
- 1〜2棟:個人経営でも十分管理可能
- 3〜5棟:法人化を検討し始めるタイミング
- 6棟以上:法人化のメリットが大きい
物件数が増えるにつれ、経営管理が複雑化します。例えば、5棟のアパートを所有している場合、入居者管理、修繕計画、資金繰りなどが煩雑になり、個人での対応が難しくなってきます。法人化することで、組織的な管理が可能になり、業務効率が向上します。
また、物件数が増えると、スケールメリットも生まれます。例えば、複数物件の一括管理による管理コストの削減や、まとめて行うリフォームによる費用節減などが可能になります。
将来の事業拡大計画と法人化の関係
将来の事業拡大計画も、法人化を検討する重要な要素です。以下のような場合、早めの法人化が有効です。
- 新規物件の取得を計画している
- 不動産以外の事業への参入を考えている
- 事業承継を視野に入れている
例えば、現在2棟のアパートを所有していて、今後5年間で5棟まで増やす計画がある場合、早めに法人化しておくことで、スムーズな事業拡大が可能になります。法人であれば、銀行からの融資も受けやすくなり、計画的な物件取得が実現しやすくなります。
また、段階的な法人化戦略も考えられます。例えば、まずは1棟だけを法人化し、徐々に他の物件も法人に移管していく方法です。これにより、法人経営のノウハウを少しずつ蓄積しながら、リスクを抑えて法人化を進められます。
今後本格的に事業展開を考えている場合、先々の需要供給のトレンドを知っておくと強い武器になります。それらの最新情報をまとめた資料をご用意しましたのでぜひ活用ください。
法人化の方法:手順を詳しく解説
「法人化したいけど、手続きが複雑そう...」「何から始めればいいの?」アパート経営の法人化を考えている方々から、よくこんな声を耳にします。確かに、法人設立の手続きは初めての方にとっては複雑に感じるかもしれません。しかし、手順を理解すれば、それほど難しくありません。ここでは、法人化の具体的なステップを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
法人の種類選び(株式会社 vs 合同会社)
まず決めるべきは、法人の種類です。アパート経営の法人化で一般的なのは、株式会社と合同会社です。それぞれの特徴を見てみましょう。
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
設立費用 | 比較的高い(20〜30万円程度) | 低い(10万円程度) |
社会的信用 | 高い | やや低い |
資金調達 | しやすい | やや難しい |
運営の柔軟性 | やや低い | 高い |
相続・事業承継 | しやすい | やや難しい |
アパート経営の法人化では、株式会社と合同会社のどちらも選択肢となりますが、株式会社とするのがおすすめです。株式会社とするメリットは以下のとおりです。
- 社会的信用が高く、取引先や金融機関からの評価が良い
- 株式の発行により、将来的な資金調達がしやすい
- 相続や事業承継の際に、株式の分配で対応しやすい
ただし、小規模な経営や家族経営の場合は、設立が簡単で運営の自由度が高い合同会社も選択肢となります。
定款作成から登記申請まで
法人の種類を決めたら、いよいよ具体的な手続きに入ります。主な流れは以下のとおりです。
1. 定款の作成
・会社の基本的なルールを定めた書類です。
・公証人役場で認証を受ける必要があります(手数料約5万円)。
2. 資本金の払い込み
・法定の最低資本金はありませんが、事業規模や取引先との関係性を考慮して300万円〜500万円程度の金額を設定することが重要です。
・払込証明書を銀行で発行してもらいます。
3. 役員の選任
・取締役や監査役を決めます。家族経営の場合、家族が役員になることも可能です。
4. 本店所在地の決定
・アパートの所在地や自宅を本店所在地にすることができます。(賃貸に住んでいる場合はオーナーへの確認が必要)
5. 登記申請書類の作成
・定款、資本金払込証明書、役員就任承諾書などが必要です。
6. 法務局への登記申請
・管轄の法務局に申請します。登録免許税(最低15万円)がかかります。
これらの手続きは専門知識が必要な部分も多いため、司法書士や行政書士に依頼することも選択肢の一つです。依頼する場合は追加費用がかかりますが、料金は事務所によって異なるため、複数の専門家に相談して比較検討することをおすすめします。
なお、法人設立から登記完了までは、通常2〜3週間程度かかります。この間に、税務署や労働基準監督署などへの各種届出も必要となります。
アパート経営の法人化は、長期的な経営戦略を考えるうえで重要な選択肢の一つです。しかし、メリットとデメリットを十分に理解し、自身の状況に合わせて判断することが大切です。
法人化後の運営体制と課題
アパート経営を法人化したあとに、「思っていた以上に運営が大変...」「税務処理が複雑で困っている」といった声をよく耳にします。確かに、法人化後は個人事業主のときとは異なる運営体制が求められ、新たな課題も発生します。しかし、これらの課題を適切に管理すれば、より効率的で収益性の高い経営が可能になります。ここでは、法人化後の主な運営体制と課題について、具体例を交えながら解説していきます。
役員報酬の決め方と注意点
アパート経営を法人化した場合、一般的にはオーナーは会社の役員となり、給与の代わりに役員報酬を受け取ることになります。役員報酬の決定には以下のような注意点があります。
1. 適正額の設定
・会社の業績や同業他社の水準を考慮し、適正な金額を設定する必要があります。
・過大な報酬は経費として認められず、税務調査の対象となる可能性があります。
2. 事前の決定と定期同額払い
・役員報酬は事業年度開始前に決定し、毎月同額を支払うのが原則です。
・年度途中での変更は、特別な事情がない限り認められません。
3. 役員賞与との違い
・役員報酬は毎月の定期払いであるのに対し、役員賞与は臨時的な支給です。
・役員賞与は全額が損金不算入となるため、税務上の取り扱いが異なります。
たとえば、年間の不動産所得が1,200万円の会社で、オーナーが代表取締役を務める場合、約50%の600万円が役員報酬の一つの目安となるでしょう。ただし、具体的な金額は会社の状況や他の役員の有無など、個別の事情を考慮して決定する必要があります。
会計・税務処理の変更点
法人化に伴い、会計・税務処理にも大きな変更が生じます。主な変更点は以下のとおりです。
1. 複式簿記の導入
・個人事業主の単式簿記から、より詳細な複式簿記への移行が必要です。
・仕訳帳、総勘定元帳などの帳簿作成が求められます。
2. 決算書類の作成
・貸借対照表、損益計算書などの決算書類を作成する必要があります。
・これらは税務申告だけでなく、金融機関への提出などにも使用されます。
3. 法人税の申告
・所得税から法人税への変更に伴い、申告方法や計算方法が変わります。
・法人税以外にも、法人住民税、事業税などの申告も必要となります。
4. 消費税の取り扱い
・法人は課税事業者となった場合には、消費税の申告・納付が必要です。
・基準期間(前々事業年度)における課税売上高が1,000万円を超える場合、その事業年度は課税事業者となります。例えば、2024年度の課税事業者判定には、2022年度の課税売上高が基準となります。
これらの処理を適切に行うため、会計ソフトの導入や税理士との顧問契約を検討するのも一案です。たとえば、クラウド型の会計ソフトを利用すれば、日々の経理処理が効率化され、税理士とのデータ共有も容易になります。
従業員の雇用と社会保険の扱い
アパートを法人化したあとに、従業員を雇用する際には、以下の点に注意が必要です。
1. 雇用契約の締結
・労働条件を明確にした雇用契約書の作成が必要です。
・契約期間、勤務時間、給与、休日など、詳細を明記します。
2. 社会保険の加入義務
・法人は、原則として従業員の人数に関係なく、健康保険と厚生年金保険に加入する義務があります。
・従業員を雇用している場合は、雇用保険と労災保険にも加入が必要です。
・従業員だけでなく、一定以上の報酬がある役員(一人社長を含む)も加入対象となります。
3. 労務管理の注意点
・労働時間の管理、有給休暇の付与など、労働基準法に基づいた適切な労務管理が求められます。
・従業員が10人以上になる場合、就業規則の作成・届出が必要です。
たとえば、アパート管理のために1名のパート従業員を雇用する場合、労災保険と雇用保険への加入が必要です。健康保険と厚生年金保険については、週の所定労働時間が20時間以上で、その他の条件も満たす場合に加入対象となります。また、給与計算や社会保険料の納付など、新たな業務が発生することも念頭においておきましょう。
法人化後の運営には、これらの新たな課題への対応が求められます。しかし、適切に管理することで、より安定した経営基盤を築けるでしょう。
新しい土地活用の方法
「この土地、もっと有効活用できないかな?」「将来の資産価値を高める方法はないだろうか?」などの悩みを抱える土地オーナーの方も多いのではないでしょうか。実は、従来の賃貸アパート経営以外にも、魅力的な土地活用の方法が存在します。
ここでは、中長期的な視点での資産形成戦略と、空室対策・収益性向上のための新しいアプローチについてご紹介します。
中長期的な視点での資産形成戦略
土地活用を考える際、短期的な収益だけでなく、中長期的な資産価値の向上を視野に入れることが重要です。現在のアパートを法人化するだけでなく、法人化のタイミングでより収益性の高い物件に建て替えるといった選択肢も効果的でしょう。具体的には以下のような戦略が効果的です。
- 駐車場の上部空間を活用した土地活用
- ガレージ付きアパート経営
中長期的な資産価値を向上させるためには、駐車場の上部空間を活用した土地活用がおすすめです。駐車場経営は、初期費用が少なく始めやすい土地活用ではありますが、収益性の高さにはあまり期待できません。そこで、駐車場の上部空間にテナントフロアを設け、カフェやオフィス、美容室などの店舗として貸し出すことで新たな収益源を獲得できます。さらに、店舗を活用するために駐車場を利用するといった相乗効果により、駐車場経営の収益性アップにも期待できるでしょう。
また、ガレージ付きアパート経営も資産価値を向上させるために効果的な土地活用です。たとえば、アパートの一階をガレージとして二階を住居スペースとすれば、狭い土地でも始められます。
ガレージ付きアパートは、周辺のアパートとの差別化ができるため、資産価値が向上します。さらに土地の影響も受けづらく、駅から少し離れた土地であっても需要が見込めます。車好きの方にはもちろん、アトリエやトレーニングなど趣味の空間としてのニーズもあり、通常のアパートにはない魅力があるため資産価値が高まるでしょう。
空室対策と収益性向上のノウハウ
空室問題は、アパート経営を行ううえで、避けては通れない課題です。これを解決し、さらに収益性を向上させる新しいアプローチとして、「ガレージハウス」が注目を集めています。一例として以下のようなアパートは、競合となる周辺のアパートと差別化を図れており、空室のリスクを低減できるでしょう。
- 1階部分に比較的広いガレージスペースを備え、2階以上を居住スペースとする賃貸ガレージハウス
- 車やバイク愛好家、DIY愛好家などの特定のニーズを持つ層をターゲットとしたアパート
ガレージハウスのメリットとしては、以下が挙げられます。
1. 差別化による高稼働率
・一般的な賃貸物件との明確な違いにより、需要が共有を上回っている
2. 高い賃料設定が可能
・通常のアパートとの差別化を図れるため、通常より高めの賃料設定が可能
3. 長期入居が期待できる
・同様の物件が少ないため、入居者の定着率が高い
4. 管理のしやすさ
・入居者の趣味に対する愛着から、自主的な維持管理が期待できる
アパート経営に興味があるが、競合が多くて不安がある、という方はガレージハウスを検討してみてはいかがでしょうか。
「フィル・カンパニー」が提案するガレージ付賃貸住宅「プレミアムガレージハウス」は、1階がガレージ、2階が住居になっており、車好きの方や趣味のスペースが欲しい方に人気の高い物件です。一般的な賃貸住宅と差別化が図れているため、駅から少し離れた立地であっても高い需要が見られ、需要が供給を上回っている現状があります。
ガレージハウス経営について詳しく聞いてみたい、という方はぜひお気軽にご相談ください。
まとめ:アパート経営の法人化で収益最大化を目指そう
「法人化したけど、思ったほど効果が出ない...」「専門家に相談すべきか迷っている」そんな悩みを抱えるアパートオーナーの方も多いのではないでしょうか。
アパート経営の法人化は確かに大きなチャンスですが、その効果を最大限に引き出すには適切な戦略と専門家の力が不可欠です。ここでは、法人化のメリットを最大限に活かす方法と、専門家との効果的な連携について詳しく解説します。
法人化のメリットを最大限に活かすには?
法人化のメリットを最大限に活かすためには、以下のような戦略が効果的です。
1. 中長期的な経営計画の策定
・3年、5年、10年先を見据えた事業計画を立てる
・例:5年後に保有物件を2倍に増やす、10年後に新規事業に参入するなど
2. 適切な役員報酬の設定
・会社の利益と個人の所得税を考慮した最適な報酬額を決定
・例:年間利益1000万円の場合、役員報酬を600万円に設定し、残りを法人に留保するなど
3. 税制優遇の積極的活用
・減価償却や各種控除を最大限に活用
・例:中小企業投資促進税制を利用し、設備投資の30%を特別償却するなど。ただし、税制の変更には注意が必要です。
4. 資金調達手段の多様化
・法人名義での融資や、私募債(※1)の発行など
・例:法人名義で1億円の融資を受け、新規物件取得に充てるなど
※1 私募債:金融機関や50人未満の少数の投資家に引受を依頼し、債券を発行するもの
5. 従業員を雇用し規模の拡大によるメリットの追求
・管理業務の内製化や、新規事業展開
・例:管理スタッフを雇用し、管理会社への委託費用を削減するなど
これらの戦略を組み合わせることで、法人化のメリットを最大限に引き出すことができます。
戦略 | 期待される効果 | 注意点 |
中長期計画策定 | 計画的な事業拡大 | 定期的な見直しが必要 |
適切な役員報酬 | 税負担の最適化 | 過大報酬にならないよう注意 |
税制優遇活用 | 税負担の軽減 | 制度の変更に注意 |
資金調達多様化 | 事業拡大の加速 | 返済計画の綿密な策定 |
従業員雇用 | 業務効率化、新規事業展開 | 労務管理の負担増 |
専門家との連携:税理士・会計士の活用法
法人経営では、税理士や会計士との連携が非常に重要です。効果的な活用法は以下のとおりです。
1. 適切な専門家の選び方
・不動産業界の経験が豊富な税理士を選ぶ
・顧問契約前に複数の専門家と面談し、相性を確認する
2. 相談すべきタイミング
・決算期前後だけでなく、四半期ごとの経営状況を確認
・新規投資や事業計画の変更時には必ず相談
3. 費用対効果の考え方
・顧問料は経費として計上可能
・適切なアドバイスによる節税効果と比較して判断
たとえば、月額5万円の顧問料で年間60万円の支出となりますが、適切な節税対策により100万円以上の節税効果が得られれば、十分に費用対効果は高いといえるでしょう。
不動産の専門家に相談するメリット
不動産の専門家に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
1. 最新の市場動向や法規制の情報を知ることができる
・例:地域ごとの賃料相場や、建築規制の変更など
2. 物件の価値を最大化する提案を受けられる
・例:リノベーションによる資産価値向上策
3. 新たな投資機会の紹介を受けられる
・例:好立地の売却物件情報の提供
4. 専門的なネットワークの活用できる
・例:優良テナントの紹介や、信頼できる業者の推薦
5. トラブル対応のサポートをしてくれる
・例:入居者とのトラブル解決策の提案
専門家のサポートを受けることで、単なる「土地オーナー」から「不動産経営のプロフェッショナル」へと進化することができます。
当社では、企画から、設計・建築、収支プラン、入居者の集客、建物の管理までワンストップでサービスを行うため、土地活用が初めての方でも安心です。お持ちの土地を有効活用して、収益を獲得したいとお考えのオーナー様は、「フィル・カンパニー」にご相談ください。
垣内 典之
株式会社 PROPUP 代表取締役/一級建築士