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2024.09.20 アパート・マンション経営土地活用

アパート建て替えの適切な年数とタイミング:土地活用のプロが教える判断基準と新しい選択肢

この記事の監修者
垣内 典之一級建築士垣内 典之

アパートの築年数が経過すると、収益が落ち込んできたり、空室が目立つようになってきたりと、さまざまな課題に直面します。しかし、適切なタイミングでアパート建て替えれば物件の価値が向上して安定した収入を得られる可能性があります。

この記事では、アパートを建て替えるべきか否かの判断基準や、建て替えのメリット・デメリットについて解説します。また、土地活用のプロが長年の経験をもとに、具体的な建て替え費用や回収期間についてもシミュレーションしています。

あなたの大切な資産を、より効果的に活用するヒントが見つかるはずです。

アパート建て替えを検討すべき5つの判断基準

アパート経営をされている土地オーナーのみなさま、建物の老朽化や収益の低下に悩んでいませんか?アパートの建て替えは、資産価値を高め、安定した収入を得るチャンスです。しかし、その判断は慎重に行う必要があります。ここでは、建て替えを検討すべき5つの重要な判断基準を紹介します。

築年数から見る建て替えの目安:法定耐用年数と実際の寿命は何年?

アパートの寿命には、「法定耐用年数」と「実際の使用可能年数」の2つの考え方があります。

法定耐用年数とは、国税庁が建物の用途や構造ごとに定めた基準で主に減価償却の計算で利用します。アパートの法定耐用年数は次のとおりです。

  • 木造:22年
  • 鉄骨造:34年
  • 鉄筋コンクリート造:47年

しかし、実際にはこれよりも長く使用できることがほとんどです。建物の使用環境などにもよりますが、実際の使用可能年数は次のようになっています。

  • 木造:30年前後
  • 鉄骨造:40〜50年
  • 鉄筋コンクリート造:50〜60年

あくまで目安の年数のため、建物の状態や立地条件によって、建て替えの適切なタイミングは大きく変わります。しかし、どの構造のアパートでも、30年を過ぎると建て替えを検討する1つの目安になります。

とくに老朽化のサインは見逃さないようにしましょう。外壁のひび割れや雨漏り、設備の不具合が頻発する場合は、建て替えを真剣に検討する時期かもしれません。

収益状況の変化:維持費増加と家賃収入減少のバランス

アパートの築年数が古くなると、空室が増えて賃料収入が減り、修繕箇所が増えて維持費が増加する傾向があります。建物として住める状態であっても、デザインや設備が時代遅れとなり需要に合わなくなっていきます。

収益性の低下が顕著であれば、建て替えを検討する重要なサインです。例えば、築30年を超えるアパートでは、年間の修繕費が家賃収入の15〜20%ほどになることもあります。

収支バランスが取れているかをチェックするポイントは、次とおりです。

  • 毎月の家賃収入と経費の推移
  • 年間修繕費の推移
  • 空室率の変化

これらを定期的に確認し、収益の減少が続く場合は、建て替えを検討する良いタイミングです。

大規模修繕のタイミングと費用対効果

アパートを快適に住める状態に保つためには、定期的な修繕が欠かせません。都度対応の小規模な修繕のほか、アパート全体に関わるような大規模な修繕も必要となります。一般的に、大規模修繕は10〜15年ごとに実施する必要があり、その費用は建築費の20〜30%程度にものぼるケースもあります。

しかし、築年数が進むにつれて、修繕による効果は少なくなっていきます。

アパートを建て替えるべきか、大規模修繕をすべきかの判断は、次の観点で比較してみましょう。

  1. 修繕後の使用可能年数予測
  2. 修繕費用と建て替え費用の比較
  3. 修繕後の家賃設定

例えば、築35年の木造アパートで1室に対して100万円の費用をかけてリフォームをしたとします。これにより賃料を5万円から6万円に上げられたとしても、費用の回収には8年以上かかってしまいます。その間に他の部屋でも次々とリフォームが発生する可能性があるため、建て替えのほうが長期的には有利かもしれません。

空室率の上昇:50%を超えたら要注意

空室率が50%を超えた場合は、建て替えを真剣に検討するタイミングです。室率が50%を超えると、収益性が著しく低下し、維持費さえ賄えなくなる可能性があります。

空室率を改善するためには、自身の物件の問題点を次のような観点で評価してみましょう。

  1. 駅からの距離や周辺の施設などの立地条件
  2. 家賃水準
  3. 築年数や設備など建物の状態
  4. 間取りや部屋の広さ
  5. インターネット環境や駐車場などの設備
  6. 清掃やメンテナンスなどの管理状態
  7. 敷金・礼金、ペット対応などの契約条件

築年数が古いアパートで設備の入れ替えや外観のリノベーションなど対策を講じても空室が埋まらない場合は、建物の間取りやデザインなどがニーズに合っていないという根本的な問題が考えられます。地域のニーズに合ったアパートに思い切って建て替えることで、競争力を取り戻せる可能性があります。

耐震基準と安全性:古い基準で建てられたアパートの対応

1981年5月31日以前に建てられたアパートは、現在の耐震基準を満たしていない可能性が高く、震度5程度の地震で倒壊などのリスクがあります。

1950年に初めて建築基準法が制定され、宮城県沖地震をきっかけに1981年には、震度6強〜7程度でも建物が倒壊しないように定めた「新耐震基準」に改正されました。さらに1995年の阪神淡路大震災を受けて、2000年にはさらに改正が行われています。この中でも1981年までの耐震基準を「旧耐震基準」、1981年以降の耐震基準を「新耐震基準」と呼びます。

アパートが旧耐震基準のまま、万が一地震で倒壊などした場合は、オーナーが適切な耐震補強をしなかったとして「瑕疵(欠陥)」と見なされて責任を問われるケースがあります。

耐震対策のための方法とかかる費用の目安は次のとおりです。

耐震対策の方法 費用の目安
耐震診断の実施 約10〜20万円
耐震補強工事 1戸あたり100〜300万円
建て替え 物件により大きく異なる

 安全性の確保と将来の資産価値維持の観点から、建て替えを前向きに検討することをおすすめします。検討する際はその道のプロに相談しながら進めた方が安心です。ぜひお気軽にご相談ください。

アパート建て替えのメリットとデメリット分析

アパートの建て替えは、建物の資産価値を高め、安定した収入を得るチャンスです。しかし、多額の費用がかかるため、建て替えかリフォームかの判断は慎重に行う必要があります。
ここでは、建て替えのメリットとデメリットを詳しく解説します。

建て替えによる資産価値向上と収益性改善の可能性

アパートの建て替えによって、建物の資産価値を大きく向上し、長期的に収益性を改善できます。

築年数30年以上の物件から新築物件に生まれ変わることで、具体的には次のような効果が期待できます。

不動産評価額の上昇 ・土地を含めた不動産全体の評価額が高まる
家賃収入の増加 ・家賃を高く設定できる

・空室率が改善する

維持費の削減 ・年間の維持費が少なく済む

アパートを建て替えることで、不動産の価値がそれまでに比べて20〜30%程度上昇する可能性があります。また、築30年以上のアパートは修繕箇所が次々と出てきてしまうため、建て替えることで年間の維持費が30〜50%も削減できるケースもあるのです。

仮に18室の木造アパートを建て替えるのに8,000万円の費用がかかったとしても、家賃を6万円から7.2万円に20%上げられれば、満室の場合5年ほどで費用が回収できます。

築古アパートのほとんどは、空室を埋めるために家賃6万円よりも下げる必要がありますが、ローンの支払いが終わっていることが多く、その点では安心です。

ただし、収益性がどの程度改善されるかは、アパートの立地や状況によって大きく変動します。また、投資資金の回収には年単位の長い期間を要するため、建て替えるかどうかは長期的な視点で判断することが大切です。

新築物件の魅力:入居率アップと家賃設定の自由度

アパートを建て替えれば、最新のニーズにあった間取りやデザイン、設備を取り入れられます。入居希望者の心をつかみやすいため、入居率が高くなり、人気の物件では家賃設定も自由度が高くなるでしょう。

なお、「新築物件」とは、次の両方の条件を満たす物件のことです。

  • 建物が完成してから1年以内の物件
  • 誰も使用したことがない(未入居)物件

新築物件に人気が集まる理由は、次の3つが考えられます。

  • 最新の設備やニーズの高い間取りの家に住める
  • 新品のため、清潔感のある外観や内装
  • 最新の技術で建てられた、高い耐震性能や省エネ性能

単身世帯向けのアパートでは宅配ボックスがある物件が選ばれたり、ファミリー向けではシステムキッチンやお風呂の追い焚き機能が選ばれたりしています。人気設備やニーズに合った設計をすること、入居率を95%以上に保ちながら、周辺相場より10〜20%程度高い家賃設定が可能になるケースもあります。
また、収益の向上を目的にするのであれば一般的な賃貸住宅にこだわる必要はありません。次に収益率を高める2つの賃貸物件について、紹介します。

コンセプト賃貸物件

賃貸物件で収益率を高めるポイントは次の2つです。

  • 入居率を限りなく100%に近づける
  • 入居者に長く住んでもらい、入れ替えの清掃費や広告料を削減する

この2つの条件を満たすには、コンセプト賃貸物件がおすすめです。例えば、1階に広いガレージ、2階に住居を構えたガレージハウスなら、車やバイク愛好家、アトリエやジムとして使いたい方などに根強い人気があります。競合物件が少なく、かつ需要が供給を上回っている状態のため、物件が満室になる可能性が高く、かつ転居も少ない傾向があります。
入居希望者も経営者や事業主が多いため、月額10〜15万円といった高めの家賃も期待できるのも魅力です

商業ビル経営

一般的な賃貸住宅よりも高い収益を目指すなら、商業ビル経営も選択肢の1つです。とくに駅から近い商業地なら、1階を駐車場、2階以上を店舗やオフィスとして活用する「駐車場+空中店舗」という方法も魅力的です。

商業施設として事務所や店舗の賃料を得ながら、1階の駐車場の収益も期待できるため、月額坪単価3,000〜5,000円程度の収入が見込めます。駐車場と商業施設の面積を合わせて延べ面積100坪程度の小さめの土地でも、月に30万円〜50万円程度と手間が少ない割にアパート経営以上の収益性が期待できます。

建て替え期間中の収入減少とコスト負担

建て替えには入居率が向上する、賃料が高く設定できるなどの魅力がある一方で、次のようなデメリットもあります。

  • 工事期間中の収入減少
  • 高額な建て替え費用の負担

建て替えの場合には、よほどスペースに余裕がある場合を除き、アパートが取り壊しになります。そのため、入居者には退去してもらう必要があり、これまでの賃料は得られなくなってしまいます。工事期間は一般的に6〜12ヶ月ほどです。

建て替え費用は木造アパートで1坪あたり約70万円〜100万円かかりますが、建築費用に加えて、取り壊し費用が1坪あたり約5万円、現在の入居者に対する立ち退き料として約6ヶ月分の賃料(※ケースによって変動あり)を支払う必要があり、かかる費用は高額です。

さらに、アパートの建て替えによって、建物の評価額が上がるため、これまで支払っていた固定資産税が一時的に1.5〜2倍に上昇する可能性があります。
固定資産税は「課税標準額×1.4%」の計算式で計算されます。仮に建て替え前の課税標準額が1,000万円、建て替え後の課税標準額が3,000万円になったとすると、固定資産税は14万円から42万円に大きく上昇し、負担が重くなります。

これらの費用負担を乗り越えるためには、綿密な資金計画が不可欠です。金融機関からのアパートローンなどの融資や、建て替え促進のための補助金制度の活用も検討しましょう。専門家のアドバイスを受けながら、最適な資金計画を立てることをおすすめします。

国税庁:地域別・構造別の工事費用表(1㎡あたり)【令和6年分用】

既存入居者の立ち退き交渉と円滑な進め方

建て替えを実行するうえでもっとも手間や時間がかかるのが、既存入居者との立ち退き交渉です。立ち退き交渉は、法的手続きを踏まえつつ、入居者との良好な関係を維持しながら進める必要があります。

円滑な立ち退き交渉の流れやポイントは次のとおりです。

立ち退き交渉の流れ ポイント
立ち退きの経緯を書面で伝える 最低でも1年前から交渉を開始する
入居者と日程調整し、口頭で説明する 丁寧な説明と誠意ある対応が必須
立ち退き料の交渉をする 一般的には4〜6ヶ月分の賃料が目安
退去手続きをする 万が一交渉がうまく進まない場合は、裁判に発展する

立ち退き料の中には、次のような費用が含まれます。

  • 新居への引越し代
  • 新居の敷金や礼金、仲介手数料
  • 立ち退きにあたっての迷惑料

立ち退きを依頼する段階で、近隣で条件や賃料が近い物件をピックアップして代替物件として提示することで、交渉がスムーズに進みやすくなります。また、場合によっては、立ち退きまでの賃料を無料にする、敷金をあらかじめ返金しておく、現状復帰を不要とするなどの条件を提示することで良い印象を持ってもらえるでしょう。

アパート建て替えの具体的な費用と収支シミュレーション

アパートの建て替えを検討する際にもっとも気になるのが建て替えにかかる費用と、将来的に建て替え費用を回収し収益を得られるかどうかではないでしょうか。

ここでは、具体的な数字を交えながら、アパート建て替えにかかる費用と、その後の収支シミュレーションについて詳しく解説します。大切な資産の将来性について、より具体的なイメージをする参考にしてください。

解体から新築まで:築年数50年のアパートの建て替え総費用内訳

築50年の木造アパート(8戸)を例にして、解体から新築までの総費用内訳を見ていきましょう。1戸あたりは、1Kの25平方メートルと仮定します。

項目  費用(概算) 
解体費  300万円 
設計費  240万円 
建築費  4800万円 
外構費 480万円
立ち退き料 380万円 
総費用  6200万円 


※ただし、これらの費用は地域や建物の仕様によって大きく変動する可能性があります。

コスト削減のポイントは、次のようなものがあります。

  • 複数の業者から見積もりを取り、比較検討する
  • 建材や設備の選択を慎重に行い、コストパフォーマンスを重視する
  • 工期の短縮や効率的な工程管理により、人件費などの費用を抑える

アパートの建て替えを行う際は、さまざまな設備を取り入れたくなりますが、回収できるかどうかを考えて費用をかけすぎないように計画しましょう。

建て替え後の30年間収支予測:家賃設定と入居率の影響

続いて、建て替え後30年間の収支予測を、家賃設定と入居率の影響を考慮しながら見ていきましょう。

【シミュレーション条件】

  • 総投資額:6200万円
  • 借入金:4300万円(金利2.5%、30年返済)
  • 家賃:8万円/戸×8戸(5年ごとに5%ずつ下落)
  • 入居率:95%(5年ごとに5%ずつ下落)
年  年間収入  年間支出(借入金返済+固定資産税などの合計)  年間収支  累計収支 
1年目  730万円  340万円  390万円  -5800万円 
5年目  730万円  330万円  400万円  -4200万円 
10年目  660万円  320万円  340万円  -2800万円 
20年目  540万円  300万円  240万円  -520万円 
30年目  440万円  1290万円
※大規模修繕を実施
-850万円  160万円 

シミュレーションより、年数を重ねるごとに入居率が徐々に下がり、年間の収支は少なくなっていきます。23年目で収支が黒字に転じ、30年目で大規模修繕を実施していますが、累計の収支では黒字を維持しています。続いて、ローン返済が終了する30年目以降の収支シミュレーションも確認してみましょう。

年間収入 年間支出(固定資産税など) 年間収支
35年目 390万円 74万円 316万円
40年目 360万円 66万円 294万円
45年目 320万円 62万円 258万円
50年目 290万円 56万円 234万円

30年後のローン返済完了後からは年間約200万円〜300万円の収益が得られます。しかし、建築後35年以上経過したアパートでは、外壁塗装や給排水間の交換など、300〜500万円以上かかる高額な修繕が随時発生するリスクがあります。

また、コロナ時期などのような急激な家賃相場の変動や大規模修繕の必要性など、将来的なリスク要因も考慮に入れる必要があります。

税制面でのメリット:減価償却と相続税対策の活用法

アパート建て替えには、税制面でのメリットもあります。とくに注目すべきは、減価償却による節税効果と相続税対策です。

まずは、 減価償却による節税効果について解説します。木造アパートの減価償却期間は22年です。前述のシミュレーションで使用した、建設費用が1億円の木造アパートにおける年間減価償却費は次のように計算できます。

年間の減価償却費:1億円÷22年間=約455万円

減価償却費を賃料収入などの収入から差し引けるため、所得税・住民税の節税効果は税率を33%と仮定すると、年間約150万円の節税となります。

続いて、相続税対策でアパートの建て替えをした場合について考えてみます。

ローンを活用してアパートの建て替えを行う場合は、建て替えにより借入金が増加して相続税評価額が下がり、相続税の縮減が期待できます。例えば、故人の相続財産が2億円ある場合、アパートローンが1億円なら相続財産から1億円を差し引けます。

ただし、税制は変更される可能性もあるため、最新の情報を確認することが大切です。

融資を活用した建て替え計画:自己資金と借入のバランス

アパートの建て替えにおいて、融資の活用は重要な選択肢です。自己資金と借入のバランスを考えながら、無理のない資金計画を立てましょう。

一般的なアパートローンの融資条件は次のとおりです。

融資比率 物件評価額の70〜80%
金利 2〜3%(変動・固定金利ともに)
返済期間 最長35年(法定耐用年数が最長)
審査基準 ・個人属性(収入・勤務先など)
・アパートの収益性
・アパートの担保価値

借入金額の適正範囲は、年間家賃収入の7〜10倍程度とされています。例えば、年間家賃収入が1,000万円の場合、7,000万円〜1億円が適正な借入金額の目安です。返済期間については、物件の減価償却期間で決まるため、木造アパートの場合は22年間です。

アパートローンでは、ローン金額が高額になるため審査項目が多く審査は厳しくなります。家賃や入居率の設定について、妥当なシミュレーションとなっているか、近隣の家賃相場なども考慮して現実的な数値の事業計画書を作成しましょう。

また、金融機関のアパートローン以外にも、日本政策金融公庫のアパートローンや地域活性化・雇用促進資金などの融資を活用できる場合もあります。この他、各自治体の空き家対策補助金などの制度を上手に利用することで、より有利な条件で建て替えを実現できる可能性があります。

アパート経営以外にも、大切な土地に合った賃貸経営の方法が見つかるかもしれません。より利回りの高い、安定した収益が出る方法をプロに聞いてみませんか?

建て替えか大規模リフォームか:最適な選択肢の見極め方

アパートは建て替え以外にも、リフォームで対応すべきケースもあるでしょう。建て替えるべきか、それとも大規模リフォームで対応すべきかの判断は難しいものです。
ここでは、建て替えか大規模リフォームのどちらが良いのか、最適な選択肢を見極めるためのポイントを、具体的な事例や数字を交えながら詳しく解説します。

物件の状態別比較:築30年・40年・50年のケーススタディ

アパートの築年数によって、建て替えとリフォームのどちらが適しているかは大きく変わってきます。ここでは、築30年、40年、50年のケースを比較してみましょう。

築年数  一般的な状態  建て替え  大規模リフォーム 
30年  ・外壁や設備の劣化
・間取りが古い 
△ 検討の余地あり  ◎ おすすめ 
40年  ・構造体にも劣化の兆候
・設備の入れ替えが必要 
○ 有力な選択肢  ○ 状況次第 
50年  ・耐震性に不安
・大規模な修繕が必要 
◎ おすすめ  △ 効果限定的 

築30年の場合、外壁塗装や水回り設備の入れ替えなど、大規模リフォームで十分に対応できることが多いでしょう。一方、築50年を超えると構造部分にも劣化が見られることが多く、建て替えを真剣に検討すべきです。築40年では、専門家に構造部分のチェックをしてもらったうえで、建物の状態や立地条件をよく見極める必要があります。

例えば、築30年の木造アパートで外壁の塗り替えと設備の交換を行う大規模リフォームなら、1戸あたり約300万円〜500万円で対応できる可能性があります。一方、建て替えとなると構造にもよりますが、1戸あたり約1,000万円のコストがかかるでしょう。10戸の規模のアパートとなると、リフォームでは約3,000万円〜5,000万円、建て替えでは約1億円の費用がかかります。

投資対効果を考慮した判断基準:ROIの計算方法

建て替えかリフォームかを判断する際、投資対効果(ROI:Return on Investment)を計算し、シミュレーションを行いましょう。ROIは次の計算式で計算できます。

ROI(%) = (利益 ÷ 投資額) × 100
例えば、5,000万円の大規模リフォームを行い、年間の純収益が300万円増加すると仮定した場合は、ROIは次のようになります。

  • ROI = (300万円 ÷ 5,000万円) × 100 = 6%

一方、1億円で建て替えを行い、年間の純収益800万円増加する場合のROIは次のとおりです。

  • ROI = (800万円 ÷ 1億円) × 100 = 8%

この例では、建て替えのほうがROIが2%高くなります。しかし、ROIの高さだけでなく、次の要素も考慮に入れて最終決定する必要があります。

  • 物件の将来性:立地条件や周辺の開発計画
  • 市場動向:賃貸需要の変化や競合物件の状況
  • 資金調達:借入の可能性や金利条件

借入金利が1%上下するだけでも収益に大きな差が出るため、総合的に判断し、長期的な視点で決断することが大切です。

段階的リノベーションという選択肢:計画的な投資戦略

建て替えと大規模リフォームの中間的な選択肢として、段階的リノベーションという方法があります。これは、一度に大きな投資を行うのではなく、計画的に物件価値を向上させていく戦略です。

段階的リノベーションの例を紹介します。

年数 リノベーションの内容 費用
1年目 外壁塗装と共用部の改修 500万円
2年目 空室の発生に合わせて内装リノベーション 200万円/戸
3年目 給排水管の交換 1,000万円
4年目 残りの住戸の内装リノベーション 200万円/戸
5年目 エントランスの刷新と防犯設備の強化 300万円

段階的リノベーションのメリットは、初期投資を抑えつつ、徐々に物件の魅力を高められることです。また、流行や市場のニーズを見ながら計画を調整できるため、リスクを軽減できます。仮に開発計画により、単身向けからファミリー向けのニーズが高まるなどの大きな変更が合った場合も、2部屋を1部屋にするリノベーションを行ったり、システムキッチンなどの設備を入れたりと適時対応できるメリットがあります。

ただし、長期的な視点で流行や開発計画に敏感になったりと綿密な計画を立てる必要があります。また、工事の度に入居者に影響が出る可能性もあるため、コミュニケーションや誠意ある対応が大切です。

老朽化した建物をそのままにしておくか、思い切って建て替えをするかで、年間100万円の収益差が生まれる可能性もあります。その理由や詳細シミュレーション、建て替えの基本知識についてまとめた資料をご用意いたしました。先着100名様限定で無料ダウンロードできますので、建て替えを検討されている土地オーナー様はぜひご覧ください。

アパート建て替えの実践的なステップと注意点

アパートの建て替えは、将来の資産価値と収益性を大きく左右する重要な決断です。しかし、いざアパートの建て替えを決めても、やるべきことが多く複雑です。

ここでは、アパート建て替えの実践的なステップと注意点について、具体的にお伝えします。この情報を参考に、スムーズな建て替えの実現を目指しましょう。

建て替えの全体像:企画から完成までの流れと期間

アパートの建て替えは、企画からアパートが完成し、入居するまでに通常3年から4年ほどかかります。その流れを大まかに見ていきましょう。

1. 企画・計画立案
建て替えの計画を開始してから、決定までに2〜3ヶ月の期間がかかります。マンションの建て替えには多額の費用がかかるため、市場調査を入念に行い、事業計画を立てましょう。
同じ規模のアパートの相場家賃を調査し、空室率や築年数による家賃の下落もしっかりと織り込みましょう。また、固定資産税や管理委託料、火災保険、ローンを利用する場合は利率などについても調べ、資金計画を細かく練ることが大切です。
資金計画をもとに、建て替えるアパートの概要も決めましょう。同時に、入居者へ向けて退去の説明を始めることも重要です。

2. 設計・申請
資金計画やアパートの概要が決まったら、アパートの基本計画と概算見積の取得に進みます。かかる期間は1ヶ月程度です。
見積もりを作成してもらった建築会社の中から、自身に合う会社を選びましょう。このとき、次のような観点で建築会社を選ぶと良いでしょう。

  • アパートの構造に詳しい
  • リフォームか建て替えか、収益性を高める提案をしてくれる
  • 間取りや設備を選ぶ際も、収益性を考慮して提案してくれる
  • 性格的に担当者と合う

設計図、もしくは設計図書が完成したら建築確認申請に進み、建て替え工事を進める準備をしましょう。

3. 既存建物の解体
建築に取り掛かれる準備が整ったら、解体工事を開始します。解体にかかる期間は約1〜2ヶ月です。木造アパートよりも鉄筋コンクリート造のほうがより解体にも時間や費用がかかります。

4. 新築工事
解体作業が完了して更地になったら、新築アパートの建設が始まります。基礎工事、本体工事、水周りや照明などの設備工事と進み、仕上げとして壁紙や床材を貼る内装工事を行います。
外構工事はすべての工事が完了した後に行われ、新築工事全体で6〜8ヶ月の期間がかかるのが一般的です。

5. 入居者募集・運営開始
入居者募集の広告は、建築確認が済んでからでないと開始できません。とくにアパートの需要が高まる3月中旬ごろに合わせて、工事完了の約3ヶ月前から募集することが一般的です。内覧会は完成後すぐに行いますが、新築アパートは人気のため、内覧会の時点ではすでに入居者が決まっていることもよくあります。

入居希望者は家賃保証会社などの審査を通過すれば契約手続きに進むことができ、敷金礼金の支払いを行った後に入居が可能となります。

注意点として、天候や資材調達の問題で工期が遅れることがあります。また、解体前の入居者との交渉に時間がかかる場合もあるため、余裕を持ったスケジュール設定が大切です。

資金計画の立て方:自己資金と融資の組み合わせ方

アパート建て替えには多額の資金が必要です。適切な資金計画を立てることが、アパート建て替え成功のポイントとなります。資金計画を建てる際に必要なステップは次のとおりです。

1. 必要資金の算出
建て替えるアパートの規模や構造にもよりますが、10戸のアパートの建て替えに必要な資金は大まかに次のようになります。

解体費用 500〜800万円
建築費用(RC造の場合) 1億2,000〜1億5,000万円
その他諸経費 500〜800万円
合計 1億3,000〜1億6,600万円


2.自己資金と借入金の配分
一般的に総事業費の約20〜30%の自己資金が必要と言われています。融資額を大きくしすぎると、1室でも空室が出たらローンが賄えないなどの事態に陥ってしまうため、注意が必要です。
例えば、総事業費1億5,000万円の場合、自己資金は3,000〜4,500万円必要と考えましょう。

3. 融資の検討
アパートは数千万円〜1億円という多額の資金が必要となるため、多くの場合は融資を利用することになります。しかし、アパートローンは住宅ローンに比べて審査が厳しく、事業計画書なども厳しく審査されます。
事業計画の妥当性を厳しく見積もり、返済計画が確実に実行できることを金融機関にアピールしましょう。また、適用金利や変動金利と固定金利のどちらを選ぶのかも、よく検討しておくことが大切です。

4. 返済計画の立案
月々の返済額は無理のない額に設定することが大切です。一般的には家賃収入の50〜60%以内が目安と言われています。返済額が家賃の50〜60%以内であれば、多少空室が出ても無理なく返済が可能です。
また、返済期間については25〜35年で設定することが一般的ですが、木造アパートの法定耐用年数は22年であるため、最長で22年とする金融機関もあります。

万が一空室が続いたときなども資金繰りの安全性を確保するため、予備費として総事業費の5〜10%程度を確保しておくことをおすすめします。また、建て替え中の収入減少期間も考慮に入れ、余裕を持った計画を立てましょう。

信頼できる建築会社の選び方:6つのチェックポイント

質の良いアパートを建てるには、信頼できる建築会社選びが不可欠です。以下の6つのポイントをチェックしましょう。

1. 実績
過去の施工例を確認し、自分の建てたいアパートの実績が多い建築会社を選びましょう。可能であれば、実際に建てた物件の見学を行うのもおすすめです。

2. 技術力
建築会社の技術力を知るために確認するポイントは次の2点です。

  • 建築士や施工管理技士の在籍数
  • 最新の建築技術や省エネ技術への対応力

3. アフターサービス
アパート建設後のアフターサービスが充実しているかどうかも、重要なポイントです。
アパートは1度建てると、実際の使用可能年数を考えると、30年程度は建て替えることなくメンテナンスを行っていく必要があります。
サポート専門の会社が関連会社となっているような会社なら、不具合があっても迅速に対応してもらえるでしょう。

4. 財務状況
経営の安定性を財務諸表の自己資本比率などで調べ、倒産のリスクが少ないことを確認しましょう。万が一、建築会社が倒産してしまえば、アフターサービスを受けられなくなったり、建設途中に倒産してしまったりした場合にはそれまでにかかった費用が戻らないまま、建物が完成しないリスクがあります。

5. コミュニケーション能力
オーナーと建築会社との関係性であっても、人と人とのつながりであるためコミュニケーションがうまくいくかは重要なポイントです。
オーナーの質問に丁寧に対応してくれたり、分かりやすい提案や説明をしてくれたりするなど誠意ある対応をしてくれる建築会社を選びましょう。

6. 提案力
アパートの設計や建築実績が豊富な建築会社は、オーナーのニーズを理解し、収益性が向上する提案をしてくれます。オーナー自身では気づかなかった観点からアドバイスしてくれる、経験豊富な建築会社が望ましいです。

必ず複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが大切です。また、契約時には細かい仕様や追加費用の有無などもしっかり確認しましょう。

建て替え以外の土地活用法も検討

アパートの建て替えは大きな決断ですが、適切に進めれば土地の価値を大きく高める機会にもなります。ここでは、これまでの内容を踏まえ、あなたの土地を最大限に活かす方法なのか検討していきましょう。

建て替えか新しい活用法か:意思決定のためのチェックリスト

アパートを建て替えるか、大規模リフォームをするか、それとも新しい活用方法を探るか。今後の賃貸経営で最善の方法を選べるように、以下のチェックリストを参考に検討してみてください。各項目について、「はい」か「いいえ」でチェックしてみましょう。

【チェクリスト】

  1. 現在のアパートは築30年以上である
  2. 空室率が30%を超えている
  3. 年間の修繕費が家賃収入の15%を超えている
  4. 立地条件が良く、新築需要が見込める
  5. 建て替えのための資金調達の目処が立っている
  6. 相続対策として、不動産の価値を高めたい
  7. 最新の建築技術や設備を導入したい
  8. 30年以上の長期的な資産運用を考えている
  9. 現在の土地の用途地域で、より収益性の高い活用法があると考えている
  10. 環境や社会貢献を意識した不動産経営をしたい

【結果】

  • 「はい」が7つ以上:建て替えを真剣に検討すべき時期かもしれません。
  • 「はい」が4〜6つ:建て替えとその他の選択肢を比較検討しましょう。
  • 「はい」が3つ以下:現状維持や他の活用法を探ることをおすすめします。

ただし、これはあくまで目安です。各項目の重要度は個々の状況によって異なるため、総合的な判断が必要です。

プロのアドバイスを受けるメリット

長年管理してきたアパートを今後も最大限に活かすためには、建て替え以外にもさまざまな選択肢について検討すべきです。そのため、自身だけで判断せずに、不動産や建築の専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、次のようなメリットがあります。

  1. 客観的な視点での判断
    賃貸経営をする際は、つい親からの大切な土地やアパートだから手放せない、解体できないなど判断を感情に左右されてしまいます。専門家なら、客観的な視点でより良いアドバイスができ、市場動向を踏まえた将来予測を知れるメリットがあります。

  2. 専門知識による的確なアドバイス
    不動産や相続に関する法律などは随時変わっていきます。専門家なら、最新の法規制や税制の情報提供を行い、最新の建築技術や設備に関する知識を活用したアドバイスをもらえるでしょう。
  3. 潜在的なリスクの指摘
    長年の経験や多くの施工事例を持つ専門家なら、見落としがちな問題点や、リスクを回避する提案をしてもらえます。新築アパートを建てれば収益も安泰と思われがちですが、実際には年数が経つごとに空室率や家賃下落、修繕箇所が出てくることは避けられません。
  4. 多様な選択肢の提示
    これまで賃貸アパートを経営してきたオーナーは、同じようにアパートを建て替えようと考えがちです。しかし、現在は需要も多様化しているため、アパート以外にも商用ビルとしてや駐車場としての土地活用方法など、幅広い提案をしてもらえます。
  5. ネットワークの活用
    専門家であれば、業者間のネットワークがあるため、信頼できる業者の紹介をしてもらえる可能性が高いでしょう。また、資金調達先の案内まで行ってもらえることもあり、土地活用がより円滑に行えます。

一方で、専門家に相談する際は、以下の点に注意しましょう。

  • 複数の専門家の意見を聞く
  • 自身の経営方針や将来ビジョンを明確に伝える
  • 具体的な数字や資料を用意する
  • 分からないことは遠慮なく質問する

土地活用の決断は、慎重に、そして自信を持って行うことが大切です。ここまでの情報を参考に、あなたの土地の可能性を最大限に引き出す方法を見つけてください。

土地活用はアパート経営だけではありません。駐車場を残して上部空間をテナントビルとするなど新たな空間として生まれ変わらせることで、より収益を生む可能性もあります。あなたの土地に最適な活用方法を知りたいなら、土地活用のプロに相談してみてください。

この記事の監修者

垣内 典之

株式会社 PROPUP 代表取締役/一級建築士

石川県金沢市出身。千葉大学大学院修了(建築学)。建築設計監理からキャリアをスタート、環境性能に係る設計審査業務、企業不動産(CRE)戦略、ファシリティマネジメント(FM)コンストラクションマネジメント(CM)等を経験。建築・不動産・ITを横断的に繋げ、高次元のプロパティ・マネジメントを実現するべくPROPUPを設立。

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