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2024.07.19 アパート・マンション経営土地活用

アパートを建てる費用はいくら?建築費の内訳や予算別シミュレーションからアパート経営の基本まで

この記事の監修者
垣内 典之一級建築士垣内 典之

老後に対する備えや新しい収入、相続税対策などの手段として、アパート経営への関心が高まっています。アパートを建てる場合、建物の「建設の依頼先」「土地の場所」「大きさ」「構造」などによって、費用は大きく変わってきます。
自己の居住用の場合は、ご自身で費用に納得されれば良いですが、アパート経営を考える場合、収支を考える必要もあります。
アパート経営を始める第1歩は、資金計画と照らし合わせながら、アパート経営にかかるお金を知ることです。本記事では、アパートを建てる費用はいくらかかるか、建築費の内訳や予算に合わせたシミュレーション、アパート経営の基本までを解説します。

アパートを建てる前に知っておきたいこと

アパートを建てる前に知っておきたい、アパート経営の魅力、建築の流れを解説します。他の土地活用とは少し異なるアパート経営の特徴と、アパートづくりのステップに触れていただければと思います。

アパート経営の魅力とメリット

アパート経営の魅力は、以下のような点が挙げられるでしょう。

  • 収入になる
  • 節税できる
  • 生命保険として機能する
  • レバレッジが利く
  • サポートを受けながら運営できる

昨今は税金や社会保険料が増大し、手もとに残るお金が目に見えて減ってきています。不景気による勤務先の業績や自社の経営も、気になる点が多いでしょう。
アパート経営は、継続的な収入を得て貯金を増やせるだけでなく、固定資産税や都市計画税、相続税や所得税などを節税し、支出を抑える効果があります。
また、居住用の物件同様に借入に際して団体信用生命保険に加入するため、オーナーにもしものことがあった場合は、借入の残債が清算されます。
つまり、家賃収入と建物の資産だけをご家族に相続できます。家賃からの収入は返済がなくなった分、収益が増えます。

アパート経営は借入を起こしてレバレッジをかけやすいのも魅力です。アパート物件は担保価値が明確な上、自宅と違って入居者の方の居住権を損なわずにオーナーチェンジが可能です。さらに賃料収入から返済原資にできるので、お金を借りやすいです。種々のリスクはすべて不動産管理会社や保証会社、ビルマネージメントなど、サポートしてくれる業者と一緒に進めることができるのも、メリットでしょう。

アパート建設の流れと必要なステップ

アパート建設のためには、以下のステップに沿って準備を進めます。

  1. 土地調査を行う
  2. アパート建設のための資金計画を練る
  3. アパート建設を依頼する建設会社を決める
  4. 設計図作成と工事請負契約の締結
  5. 建築確認申請~着工
  6. 工事中に入居者募集を開始
  7. アパートの完成・引き渡し

土地調査を行う

まずは土地の需要調査を行います。賃貸需要の高い土地であるかどうかを見極めることで、最適な賃料を設定することができ、高い収益性を期待できます。

アパート建設のための資金計画を練る

次にアパート建設のための予算を決めるために、いくらお金を集め、借り入れるかなどの、資金計画を立てます。建築費の予算をいくら位に設定するか、資金は自己資金とローンの比率など、なるべく具体的に詰めてみましょう。

ローンの返済期間や返済総額はいくらになるかによって、自己資金調達の割合を増やす必要があるかもしれません。また、相続を念頭に置く場合、節税のために夫婦間でのアパート物件の持ち分や、資金の出資比率を専門家に相談し、決めておくのも大切です。

まずは自己資金をいくら準備できそうか、月々いくらまでなら返済できそうかの2点を、今後の給与の想定や、増える賃料収入から検討しましょう。借入や節税対策は、ハウスメーカーや建設会社、不動産会社も窓口となって相談に乗ってくれます。

アパート建設を依頼する建設会社を決める

続いて、建設の依頼先を決めます。建設会社や工務店の他、ハウスメーカーもアパート建設の標準プランを持っています。予算や土地の情報の他、戸数や間取りなど、建てたいアパートに対する要望をまとめて伝えます。比較検討ができるように、複数の建築会社へ相見積もりの形で依頼しましょう。

建築基準法や都市計画法、消防法、地域の条例などによって、希望する内容が制限を受ける場合があります。建物の高さや面積、耐火性などが問われますが、用途地域によってはアパートの建設自体が出来ないケースもあります。法令制限は建築会社が詳しく調べてくれますが、規制がある点は知っておきましょう。法令制限に対して、いかにうまく対応してニーズを満たせるかも、建築する会社の腕の見せどころです。

設計図作成と工事請負契約の締結・建築確認申請~着工

資金計画・依頼先・建築プランが決まったら、建築会社と工事請負契約を結びます。設計図を作成して、役所や確認検査機関などに「建築確認申請書」を提出し、「建築確認済証」が交付されたら​​着工です。​
基礎の着工の前に地鎮祭を行い、工事の無事とアパートの繁栄を祈願します。
地鎮祭は義務ではありませんが、不動産・建築業界は、縁起を気にする人がとても多いのは事実です。

工事中に入居者募集を開始

基礎、躯体、内外装と工事が進む間に、入居者の募集を行います。家賃や敷金・礼金など募集条件を決めて、不動産会社に広告依頼をします。賃貸住宅のユーザーは、新築希望の方が一定数いるので、「〇月入居開始」の形で、早めの募集開始をするのをおすすめします。

アパートの完成・引き渡し

最後に​​役所や確認検査機関などの​​完了検査を受け、問題なければオーナー様による完成検査です。

これからアパートを建てたい人は、成功する秘訣を最初から知っておくと安心です。土地活用に必要なノウハウをまとめた資料をご用意いたしましたので、ぜひ本記事と併せてお読みください。

アパートを建てるための基本知識

続いて、アパートを建てるための建築費用の詳細と、建築費以外に必要となる初期費用の解説をします。

アパート建築の初期費用

アパートを建てるうえでの費用は、以下のように本体工事費・付帯工事費・その他の諸費用の3つに分類されます。


アパートの建設費用

科目 総工費の中の割合
本体工事費 70%程度
付帯工事費(別途工事費) 20%程度
その他の諸費用 10%程度

 

本体工事費は、建築会社が提示している坪単価に、設計図の延べ面積を掛けて概算ができます。本体工事費と付帯工事費の定義は建築会社によって異なり、外構やカーテンなど、通常は付帯工事費に含むような項目が本体工事費に含まれる場合もあります。本体工事の範囲を、事前に確認しておきましょう。

付帯工事費は、敷地内でアパ―トの建物以外の構造物の建築で発生する費用です。その他の諸費用とは、建築当初に発生する税金や保険料、司法書士などへの報酬、調査費用他の実費などです。
以下で、それぞれの詳細をご説明します。

建築費用の内訳

建築費用は、坪単価で概算できる本体工事費と、あとから追加の可能性がある付帯工事費に分けられます。

全体の70%ほどを占める「本体工事費」の内訳は、基礎と躯体で4割(28%)・内外装の仕上げ4割(28%)、設備工事2割(14%)の構成になるのが一般的です。
本体工事分は坪単価から計算すると、上記の価格と近い金額となるはずですが、建築会社の提示した坪単価で計算しましょう。
坪単価は施工する会社による内訳の違い、建築するエリアや個人宅・集合住宅の違い、施工する延べ面積、施工する建物のグレードや構造などで変化するためです。
立地・予算・延べ面積・戸数などの希望を伝えて、本体工事費の見積もりを依頼しましょう。
全体の約20%を占める「付帯工事費」は、以下のような項目です。

付帯工事費(別途工事費)

造成工事 整地・伐採・盛土・切土・土留め擁壁など。
ライフライン工事 水道・電気・ガスの引込み工事・各種メーター設置工事、下水道接続もしくは浄化槽設置工事など。
外構工事 駐車場・駐輪場・塀・植栽の工事など。
解体工事
(必要な場合のみ)
建て替えを行う場合、古い建物の取り壊しと廃材の撤去。

造成工事は、土地の利用目的に合わせて形や区画を整える土木工事です。ライフライン工事は建物の付帯工事ですが、各種配管の引き込みは取り回しが長いと高額になる場合があり、水道の引き込みは、見積もりが数百万円となる土地もあります。外構工事は賃貸物件の付帯設備の場合、住宅に比べて規模が大きく高額となるので、要注意です。

解体工事の相場は、一軒家の取り壊しで100~300万円と価格に幅があります。壊す家の大きさや構造、現場の出入り・重機の使いやすさなどで価格が上下します。

その他の初期費用

最後に、全体の10%を占めることが多い「その他費用」です。以下のように多岐にわたります。

その他の初期費用

設計費 建物の設計費用
現況測量費 隣地との境界や、売買面積を実測で明らかにする測量
地盤調査 建物の用途に適した強度の土地かを確認する調査
各種税金 不動産取得税・登録免許税・印紙税
司法書士手数料 建物保存登記や土地の所有権保存登記など
損害保険料 火災保険や地震保険
融資手数料 アパートローンなどの借入の際の取り扱い手数料

設計費は、建築会社のプランに沿うか、別会社へのカスタムオーダーとするかで大きな違いが出ます。地盤調査は、結果によっては、地盤改良工事が必要な場合があり、代表的な表層改良工法で、30~50万円程度の工事費が必要です。
各種税金の中で、ウェイトが大きいのは不動産取得税です。年度ごとの特例を適用して、試算してみましょう。
司法書士の手数料6〜7万円程度、アパートローンの融資手数料は三井住友信託銀行の例で、1件につき77,000円(税込)となっています。

アパートの建築費を抑えるポイント

アパートの建築費を抑えるためのポイントがいくつかあります。以下を参考にしてください。

  • 規模に見合った構造を選ぶ
  • 設備やデザインは過度のこだわりを持たない
  • 設計は施工と一括で依頼する
  • ファミリータイプにして建築費用を抑える

まず予算だけでなく規模に見合った構造を選ぶようにしましょう。低コストで作れる木造は修理費用が多く必要になる点や、規模の大きくない建物は鉄骨造は不要などの点を検討します。

設備やデザインの仕様は過度のこだわりを持たず、競合との差別化は、生活の利便性など別の角度から考えるのがおすすめです。賃貸物件はシンプルなデザインや間取りのほうが使い勝手が良く、人気が出やすい傾向にあります。

設計は施工と一括で依頼する方式のほうが、設計を別に依頼するより安くなることもあります。また、同じ坪数では、ワンルームよりもファミリータイプの間取りのほうが、建築費用を抑えられる傾向にあります。不動産取得税も、1戸当たり50平方メートルを超える場合、1200万円の控除を受けられるため、節税となるでしょう。

【予算別】アパート建築費用シュミレーション

かける予算によって、建てられるアパートや利回りも変わってきます。以下で、建物本体価格の予算別シミュレーションをご確認ください。

2000万円でアパートを建てる場合【10~25坪】

2000万円の本体価格で、平屋のローコスト建築のアパートが可能です。総費用で2700万円弱となりますが、ワンルーム4戸でも総工費と初期費用を足した金額で、実質利回りで8%も不可能ではありません。
注意点として、ローコストの建築は早めのメンテナンスが必要となる傾向にあるので、運用後の修繕費などの備えは、無理がないように準備を進めましょう。また、立地選びはくれぐれも慎重におこないましょう。

予算2000万円のアパート建築例

敷地面積 45坪
建築面積 24坪
延べ面積 24坪
構造 木造平屋建
間取り 1R
戸数 4戸
家賃 5~6万円

 

3000万円でアパートを建てる場合【15~20坪】

3000万円では、木造2階建で6戸のアパートをつくることができます。3850万円ほどが総費用の目安です。総予算を3000万円に収めたい場合は、本体工事の予算は2300万円が目安です。
総費用にプラス100万円で軽量鉄骨造も検討が可能です。家賃の設定は立地によって開きが出るため、利回りも念頭に置いて、総予算を検討しましょう。
総費用3000万円の場合、延床面積30坪で、少し広めの7坪の1K✕4戸とし、やや長期の入居を狙う方法もあります。

予算3000万円のアパート建築例

敷地面積 45坪
建築面積 20坪
延べ面積 40坪
構造 木造2階建
間取り 1K
戸数 6戸
家賃 5~7万円

 

4000万円でアパートを建てる場合【20〜40坪】

4000万円の本体価格には、約1700万円の付帯工事費用とその他費用が加算されます。4,000万円の価格帯では、戸数が増やせてリスク分散や収益アップも可能な反面、利回り自体は下がってきます。末長い経営を展望として持ちましょう。
総予算の希望金額が多い場合、借入する人の年齢によっては、自己資金を多めに持つか、返済の月額を高めに設定する必要があります。
収益物件の融資の保証は、保証会社加入よりも連帯保証人ベースとなることが多いため、親族の存在や、リレーローンなどの構想も視野に入れましょう。

予算4000万円のアパート建築例

敷地面積 40坪
建築面積 22.5坪
延べ面積 45坪
構造 木造2階建
間取り 1R
戸数 10戸
家賃 5~7万円

 

 

5000万円でアパートを建てる場合【30〜50坪】

5,000万円の価格帯では、相続した物件の建て替えで利回りの回復を目指すか、他の資産の処分預金担保などの施策を含む資金計画となるでしょう。
大きな土地がない場合、3階建てにすれば戸数は増やせ、収益が増えますが、耐火建築物とする必要があるため、建築コストは2階建てよりも高くなります。
予算が5000万あれば、建物の資産価値や耐久性、防音性などを重視したい場合、建物を小さくして建築費を下げ、鉄骨造を検討するのも良いでしょう。
2021年の国土交通省の統計によると、下記と同様の50坪の鉄骨造建物で、本体工事費は平均して6450万円となっています。

予算5000万円のアパート建築例

敷地面積 50坪
建築面積 30坪
延べ面積 90坪
構造 木造3階建
間取り 1R
戸数 12戸
家賃 5~7万円

アパートを建てるには、本体工事費以外にも様々な費用が発生します。長期目線で資金計画を立てて、安定した収益の見込めるアパート経営を目指したいものです。

アパート・マンション経営のノウハウや、その他の土地活用についての情報も網羅した資料をご用意いたしました。
アパートを建てて土地活用を検討している方は、ぜひお読みください!

アパート建築のための資金調達方法

アパート建築のための資金は、自己資金と借入の2つがメインとなります。手もとにお金を残すことと、無理のない返済計画を意識したうえで、資金計画を立てましょう。

自己資金の目安

アパート建設のための自己資金の目安は、初期の総費用の10~30%と言われています。理由は、工事費用で20%の自己資金があると、銀行の融資がとおりやすくなる点と、融資が通る前にその他の費用がアパート建築費の10%ほど必要になる点です。
自己資金は貯蓄の他に、他の資産の処分、身内からの借り入れや贈与などから調達します。
その他の費用を事前に準備するのが難しい場合は、金融機関につなぎ融資の可能性を打診します。つなぎ融資は本番の融資がおりる前に、必要な資金を一時的に立て替えてくれるローンで、つなぎ的な役割をするため、こう呼ばれています。

アパートローンとその選び方

アパートローンは、銀行や信用金庫、信用組合、政府系の日本政策金融公庫などから借り入れができます。融資の際には、物件の担保価値や収益性、借主の信用力などから判断して、審査を行います。担保価値は土地と建物の価値を合計した「積算評価」で算出します。土地の評価額は路線価をもとにし、新築の建物の評価額は再調達価額×延床面積で計算します。再調達価額はその建物を建てるのに1平方メートルあたりでいくらかかるかの指標です。

再調達価額は金融機関によって異なりますが、木造で15万円、鉄骨造で17万円、RC造は20万円のような金額になります。
たとえば床面積が250平方メートルの木造アパートの場合は、250✕15万円で、3750万円が担保評価額となります。

審査の基準は金融機関によって違いがあるため、仮審査に通らない場合はいくつかのタイプの違う金融機関に融資を打診しましょう。また、ローンを組むうえで気になるのが、近年上昇傾向にある金利です。金利タイプには「変動金利」「固定金利」の2種類があります。

変動金利は毎月変わるのではなく、見直しは年2回が多いです。金利の上昇にともなって、月々の返済額が増減します。固定金利
よりも金利が低いですが、返済額が増えるリスクに注意が必要です。
固定金利は変動金利より当初の金利は高めですが、返済期間中に市場金利が上昇すれば、固定金利のほうが有利となります。現在固定金利の上昇が始まっていますが、変動金利も影響を受けると言われています。

返済方法にも「元利均等返済」「元金均等返済」の2種類があります。元利均等返済は、毎月定額の返済額の中で、元金と金利の割合が変わっていく返済方法で、残高の減りは遅いですが、毎月一定額の返済なので、返済の計画が立てやすくなります。
元金均等返済は、毎月の残高に応じて利息部分が減っていく返済方法です。元金の減る割合が大きいですが、当初の返済負担が大きくなります。

元利均等返済と元金均等返済の比較

地方自治体や政府の助成金・補助金

公的な助成金や補助金アパート経営に活かすことできます。申請が受理されれば、アパート建築や、運営の費用の一部になります。
よく確認のうえ申請して、賢く活用しましょう。2024年時点で設けられているおもな補助金は以下のとおりです。

  • 長期優良住宅の補助金1「地域型住宅グリーン化事業」:70~150万円
  • 長期優良住宅の補助金2「長期優良住宅化リフォーム」:リフォーム代金の1/3まで
  • LCCM住宅 脱カーボンの住宅補助金:1戸当たり最大125万円
  • 子育て支援型共同住宅推進事業:「補助対象工事費の10分の1」か「戸数×100万円+棟数×500万円」の小さい方の金額
  • 住宅セーフティネット:工費の1/3の1戸あたり最高50万円
  • 自治体の補助金全般:50万円以下

主旨は、省エネルギー性能の向上やカーボンニュートラル、子育て、バリアフリー、移住の促進などを支援するものが中心となっています。長期優良住宅の補助金2と、住宅セーフティネットは新築時ではなく、リフォーム時に適用できる助成金です。
助成金の申請から交付の流れは、主に以下の流れで行われます。書類をそろえたり記入する際には施工する建築会社や、不動産会社のサポートを得て進めましょう。

  1. 申請書の提出
  2. 交付決定通知
  3. 実績報告書
  4. 交付確定通知
  5. 補助金交付請求書
  6. 自治体から入金

基本的に各種制度は、一度工事費など全額を支払って報告書を提出したあとにお金が交付されます。補助金や助成金は年度により実施の有無や、内容が異なる場合がある他、応募数に限りがあり、先着順で締め切られる事業もあります。また、他の助成金と併用できる場合とできない場合があるので要確認です。つねに最新の情報を確認するようにしましょう。

アパート建築の際の注意点

資金の問題もクリアし、アパートの建築に着工できるところまできました。今後も施主として、注意しながら進める点がいくつかあります。

設計段階での重要ポイント

建物を設計するにあたって大切なのは、入居を想定するターゲットの絞り込みを行い、ニーズをしっかり調べることです。
単身者が多いか、家族・子育て需要が多いかで間取りの部屋数や戸数が左右されます。単身者向けでも、少し広めがいいか、シンプルなワンルームが好まれるかが立地によって異なります。
たとえば1棟内に単身者とファミリーを混在させる場合は、単身者を2階以上、生活騒音が大きめで、ベランダの転落リスクを避けたいファミリー世帯を1階に配置します。
女性のニーズを多く想定する場所では、モニター付きインターフォン、室内物干しなど、セキュリティやプライバシーにしっかり配慮しましょう。
また、ニーズへの対応だけでなく、他の物件との差別化も視野に入れて市場調査を行うと、長期にわたって高い入居率と賃料を確保しやすい賃貸物件となります。
立地=交通の便によっては、使い勝手のよい駐車場・駐輪場の確保が入居率を左右するでしょう。
逆に、あまり入居者に求められないオーバースペックの設備などは、グレードを見直すことをおすすめします。
たとえば、自動清掃などの多機能なエアコンは修理費用が高くなります。シンプルなタイプを定期的に交換したほうがランニングコストが安いでしょう。

施工業者の選定と管理

施工業者はおもに、以下の3つが考えられます。

  • ハウスメーカー
  • 工務店
  • 建設会社

ハウスメーカーは施工例が多く、設計料1%台の基本プランを多く持っている会社も多いです。アフターフォローにも安心感がありますが、施工の自由度は低めで、工事費用も高めであることが多いでしょう。

工務店はデザインの自由度が高く、宣伝費や人件費を抑えられるため、価格もハウスメーカーに比べて良心的です。

建設会社は知名度が高く、ノウハウや実績を持つ会社が多いです。しかしマンションデベロッパーとしての動きが中心で、個人オーナー向けのアパートの施工を手がける会社が少なく、価格も高めであることが多いです。

依頼する候補が絞り込めたら、比較検討のために、3社ほどから相見積もりをもらって比較するようにしましょう。

アパート建設の上で、避けたいトラブルがいくつかあります。追加費用の請求は、やむを得ない場合もありますが、基本的にはその可能性を事前に教えてくれる会社を選びたいものです。見積内容を比較して、細かく書いていない会社は、追加請求のリスクがあります。

また、コストを下げるのは良いですが、欠陥施工や施工不良が起きては、意味がありません。大手施工の設計プランは、入居者の方の感想も見つけて、参考にできるとよいでしょう。施工中や完工後の、施主の立会い検査は、入念に行いましょう。

意外と多いトラブルとして、騒音や臭気、ゴミ問題による近隣からのクレームがあります。大手メーカーでも下請けの業者との連携が薄く、施工のコンプライアンスがおろそかになっていることもあります。アパート工事のさまざまなトラブルの事態を避けるには、以下のような基準で施工業者を選ぶことをおすすめします。

  • 担当者の対応が早く、誠意があること
  • アパートの建築実績がたくさんあること
  • 竣工後の具体的な修繕計画を示してくれること
  • 修繕に対する保証や、サポートが充実していること
  • Web上で、良い口コミや評判がたくさんあること

ていねいな施工だけでなく、竣工後も担当者が付いて継続的な対応をしてくれる業者がおすすめです。

工期の管理と遅延リスク

建築工事は、建築会社の工程管理担当者が仕切って進めてくれますが、一般的な住宅と異なる点は、過度の工程遅延が、オーナーの収益に影響を与える点です。
竣工前に募集した入居者の入居予定日に間に合わない場合、賃貸借契約の不履行になってしまいます。
工程遅延は、資材の入荷の遅れや天候不良など、不可抗力でどうしても発生してしまう事があります。オーナーも気をもまざるを得ませんが、建築会社や不動産管理会社とうまく連携して、スムーな工期の進行を心がけたいものです。

もしも不可抗力ではなく、建築会社の責任によって工期が遅れ、1月から4月までのハイシーズンの入居を逃してしまったなどの場合は、大打撃となるため、損害額を計算して賠償を求めることもできます。
具体的に「予定どおりの竣工なら〇本契約が決まって、家賃が入ってきていたはずだった」などの説明や、工期のズレによって解約された契約を、証跡として提出します。

工事請負契約書の中に規定されている違約金は、「遅延日数✕請負代金の〇%」と書かれていることが多いです。実質的な損害の補てんとしては低すぎることが多いため、特約で、不可抗力以外の遅延日数に応じた、賃料相当額の補償を追加してもらうのが良いでしょう。

法律・規制への対応

前述のように建築時の土地建物の、法律や条例の規制に対する対応は、建築会社が中心に行い、オーナーへの提案を行います。不動産業界の人でなければ、宅建士や賃貸管理士の受験勉強でもしないかぎり、法令制限の概要を理解するのは難しいでしょう。
例えば、下記のような建築制限があります。

共同住宅の建築制限

内装の制限 居室
・壁や天井の仕上げは難燃材料を使用する
・3階以上に居室がある場合は準不燃材料を使用する
・1.2メートル以下の腰壁は免除
階段や通路
・壁や天井の仕上げは、準不燃材料を使用する
耐火建築物・準耐火建築物の規制 3階以上の建物は、耐火建築物または準耐火建築物として建築
・主要構造部が耐火構造でできている
・一定の技術基準に適合している
・外壁開口部の延焼の恐れがある部分に防火戸や他の防火設備を有している2階の床面積の合計が300平方メートル以上の場合、特定避難時間倒壊等防止建築物にする
定期報告 下記を確認して、問題がないことを行政に報告する
・定期的な建物の状態の確認と、法令違反がないか
・建物に損傷や腐食がないか
建ぺい率・容積率 用途地域ごとに制限の設けられた建ぺい率と容積率の基準内で建築する
・建ぺい率:敷地面積に対する、建物の建築面積
・容積率:敷地面積に対する建物の延べ面積
建築できる場所 都市計画区域内で市街化区域と非線引区域で建築可能市街化調整区域では建築できない。

法律や規制は初心者にとっては難しい内容も多々あります。また今後、供給過多に陥る可能性があるアパート・マンション経営では、今後の時代の流れを汲み取り、他物件との差別化をしていくことが大事です。
今後どんな土地活用が人気を集めていくのか。知りたい人は、ぜひ以下ダウンロードの上お読みください。

アパート経営の運営

以下では、アパート経営が始まってからの、運営の基本を解説します。

不動産賃貸業で、オーナーに必要な資格などはありません。しかし、前述のようにトラブルや修繕の必要が生じた時に報告を受けて決断を下すのは、オーナーの仕事です。

アパート管理の基本

アパート管理で日常的に行われる基本業務は、以下です。

アパート管理の基本業務

入居者関連 入居者募集 不動産管理会社に委託。入居審査で指示を求められる場合あり
賃貸借契約 不動産会社が作成したものに記名押印
家賃の集金・未収家賃督促 不動産管理会社と保証会社が行う。立退きレベルはオーナーが対応
入居者などのクレーム対応 不動産管理会社が対応。立退きレベルはオーナーが対応
退去立会い・敷金清算 不動産管理会社が対応。 原状回復の説明を受け、意見を求められる場合あり
建物関連 共有部分の清掃 不動産管理会社経由で、清掃会社に委託
建物や設備の定期点検 点検業者に委託し、オーナーが報告
修繕積立金の準備 オーナーが不動産管理会社と打ち合わせの上で対応
原状回復 不動産管理会社経由で、リフォーム会社に委託
設備交換・リフォーム リフォーム会社に委託

入居者募集は不動産管理会社で行われることが多いですが、入居審査の際に不動産管理会社から「入居ご希望の方ですが、宜しいですか」と打診が入ります。収入などの属性で判断します。

本来入居者の方の居住権はとても強く、かんたんには退去に至りません。しかし家賃の滞納や騒音、ゴミなどの居住者のトラブルで、過度に状況が悪化した場合は「信頼関係が棄損した」理由から、立ち退きを求めることになります。その際にはオーナーか弁護士の名義で督促などを行います。

不特定多数の人が暮らす賃貸物件は、規模によっては定期検査による報告が義務付けられる場合があります。 建築物の損傷や腐食などの劣化状況や、改変行為による建築基準法違反がないかどうかの点検を行い、行政に報告します。
アパートなどの共同住宅でも、規模によっては対象です。対象でない場合も、定期的な点検を行う必要があります。

修繕のための積立は、エアコンなどの設備の交換から、屋根や外壁の再塗装など大規模なものまで、不動産管理会社との連携の下、オーナーが行う必要があります。
もしも不動産賃貸の知識全般を身に付けたいとお考えの場合は、「宅地建物取引士(宅建士)」「賃貸不動産経営管理士(賃貸管理士)」の勉強をおすすめします。
両方とも国家資格で、実務経験などの受験資格は有りません。宅建士は売買・賃貸借の取引の仲介、不動産に関係する諸法令の知識が身につきます。賃貸管理士は、アパート・マンション管理の法律と実務が身に付く資格です。

賃貸管理士の試験範囲

  • 賃貸管理の意義や役割
  • 賃貸物件の入居者募集
  • 建物や設備
  • 賃貸借契約や、賃貸経営オーナーと賃貸管理会社の受託契約
  • 賃貸業への支援業務に関する事項(企画提案、不動産証券化、税金、保険など

上記までご紹介したうち、オーナーにとって日常把握が必要なのが、家賃や経費の管理と、入居者トラブルでしょう。

賃貸収入と経費の管理

家賃は不動産管理会社の報酬である管理料(多くの場合賃料の3〜7%を差し引いて入金されます。家賃の収納自体は、引き落としで自動的に行われ、滞納があっても保証会社が自動的に立替え(代位弁済)を行うことが増えています。
しかし、立ち退きの勧告に至るような深刻な状況に至る前に、入居者とコミュニケーションを取ることも大切でしょう。
家賃収入は確定申告を行うことになります。不動産収入の確定申告は、最初の形ができれば、個人で作成するのは難しくはありません。しかし経費が何の科目にあたるか、経費として認められるものと、認められないものの分別などは、オーナー自身で行う必要があります。
赤字が出た場合は、他の所得と損益通算で税金を減らすことができるので、大規模修繕などの際には活用しましょう。
収入から経費を差し引いた所得が20万円を切った場合、確定申告は必要ありませんが、赤字の場合損益通算が使えるために、確定申告はしたほうが良いことになります。

不動産収入の経費

項目 経費に該当する支出
税金 賃貸している土地や建物にかかる不動産取得税、登録免許税、固定資産税、印紙税、事業税などの税金(所得税や相続税など、賃貸とは関係のないものは対象外)
損害保険料 賃貸している建物に対する火災保険や地震保険などの損害保険料
修繕費 賃貸している建物などの修繕、設備の交換のために支払った費用
水道光熱費 賃貸物件の共用部分の電気代や水道代など
減価償却費 賃貸している建物の取得価額を耐用年数に応じて配分した金額
借入金利子 賃貸している土地や建物を購入するための借入金の利子(ただし、建物完成から賃貸開始までの期間に相当する支払利子は、建物取得価額に算入され減価償却費として処理される。また、元本返済分は経費には算入できない)
地代家賃 土地を借りて建物を建て、建物を貸し出している場合に、地主に支払う地代
広告宣伝費 賃貸物件の入居者募集のために支払った広告宣伝費
管理会社への業務委託料 賃貸している物件の管理を委託した不動産管理会社に支払う手数料

 

経費で認められない例

項目 内訳
ローン返済の元本 不動産の取得のために金融機関から借り入れたローンの元本返済分
不動産経営と関連しない交通費 不動産経営と関連性のない、プライベートや通勤で使用した交通費
自宅の家賃・水道光熱費 不動産経営専用の事務所ではない自宅の家賃・水道光熱費
所得税・住民税 不動産経営と関連のない、会社での給与所得や別事業の収益にかかる所得税・住民税

他には、修繕ではなく増築やバストイレ別改造など、建物や設備のグレードアップを図って、家賃を上げられるような改修は、資本的支出の扱いとなり、経費としては認められません。また、賃借人から受け取った礼金を仲介業者へ広告宣伝費として流用した場合、経費となりません

入居者トラブルの対応方法

入居者によるトラブルは、不動産管理会社から張り紙や連絡を行ってもらうことで一次対応します。過度に状況が悪化し、立ち退きを求める場合にオーナーか弁護士の名義で督促などを行うのは、家賃滞納の際と同じです。

入居者のトラブル

  • 騒音や臭気による入居者同士のトラブル
  • 家賃滞納
  • 汚部屋
  • 孤独死
  • 退去時の原状回復で合意できない
  • 水漏れ
  • 禁煙物件での喫煙
  • ペット不可物件でのペット飼育
  • 連絡なしの長期不在
  • 連絡が取れない
  • 夜逃げ

汚部屋や孤独死は、敷金の超過分を入居者の方が負担しきれない、あるいは誰にも請求できないケースがあります。家財保険や家賃保証の付帯サービスで補償されるかを、確認しておきましょう。

原状回復は、国土交通省のガイドラインや、東京都の東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)などが普及し、オーナーと入居者が負担する境目が明確になってきています。トラブルを未然に防ぐためには、入居前の状況を写真や動画で残しておくことがおすすめです。

入居者が水漏れに気付いていながら放置していた場合、善管注意義務違反を問われます。水漏れの放置は建物の腐食を進め、他の住戸にも影響を及ぼします。築年数が古く発見が早かった場合は、経年劣化の要素が強いため、オーナー負担での修繕となるでしょう。

ペット不可や事務所不可、禁煙のルールを守れなかった場合、状況に改善が見られないと退去勧告につながります。ペット飼育の場合の敷金設定がある場合は、敷金を追加で預かる措置を取る場合もあるでしょう。

連絡が取れない、夜逃げなどの際に困るのは残置物の扱いです。オーナーや不動産管理会社が勝手に処分ができないためです。まず連帯保証人や家族に連絡して、引き取ってもらうことをすすめます。

入居者トラブルは、極力未然に防ぎたいものです。入居審査を丁寧に行う、連帯保証人や緊急連絡先を確保する、敷金は1か月以上は預かるなどの基本的な点は押さえましょう。

成功事例

アパート経営は立地の性格によってメリットが異なるため、成功のポイントは変わってきます。都市部と地方それぞれでの、アパート経営の成功例をご覧ください。

都市部でのアパート経営成功例

都市部のアパート経営の強みは、集客のしやすさ=空室率の低さです。

下記の事例では、立地の良い繁華街の狭小地に、木造3階建てのアパートを作っています。繁華街で借家以外の家族向け新築物件を作るアイデアが活きて、竣工と同時の入居が決まりました。
建築コストも抑え気味にし、都市部では珍しい10%近い表面利回りとなりました。一つの棟に中階段を設けて1階と2階・3階を別の入居者が利用する構造の重層長屋とし、面積を有効に活用しています。

都市部のアパート経営成功事例

敷地面積 20坪
建坪 12坪
延べ面積 36坪
構造 木造3階建
間取り 1階1LDK・2階以上2LDK+S
部屋数 2戸
家賃 1階8万円 2階以上16万円

 

地方でのアパート経営成功例

地方でのアパート経営の強みは、建築、修繕などのコストの安さから、利回りが高くとれることです。そのため、ユーザー本位のサービスに予算を割きやすくなります。

下記の事例では、駅徒歩12分に複数の大学や工業団地に近い土地、ワンルームマンションを作りました。
広めの土地を活用して屋根と常夜灯付きの駐輪場、集合ポスト、宅配ボックス、駐車場、自動販売機を設置するなど利便性を付加したのが功を奏し、早期に満室にできたうえ、空室もすぐ予約が入ります。
周囲には築年数が経っている、敷地が狭目でバストイレ同室の物件しかなかったため、比較検討の際の優位性を確保できたことも、成功につながりました。
今後は、建物の老朽化による修繕と家賃の値下げに備え、早めの返済を心がけるつもりです。

地方のアパート経営成功事例

敷地面積 60坪
建坪36 36坪
延べ面積 72坪
構造 木造2階建
間取り 1R
部屋数 12戸
家賃 5.5万円

アパート経営での土地活用には、専門家のフォローがあると安心です。相談してみたい人は以下へ!

フィル・カンパニーでは、アパート経営をはじめとした土地活用について、相談を承っています。プランニングから施工、運営までトータルでサポートいたしますので、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

垣内 典之

株式会社 PROPUP 代表取締役/一級建築士

石川県金沢市出身。千葉大学大学院修了(建築学)。建築設計監理からキャリアをスタート、環境性能に係る設計審査業務、企業不動産(CRE)戦略、ファシリティマネジメント(FM)コンストラクションマネジメント(CM)等を経験。建築・不動産・ITを横断的に繋げ、高次元のプロパティ・マネジメントを実現するべくPROPUPを設立。

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